恋愛ミッション、最初の目標は「おはよう」
「早坂美月との関係性構築に向けた、初期アプローチプランを提示します」
「お、お手柔らかにお願いします」
「現在の状況を分析します」
「はい」
「田中はるとと早坂美月の接触頻度は、極めて低い状態です」
「改めて言われると、へこむな」
「焦ってはいけません」
アルゴは淡々と続ける。
「すぐに告白したり、馴れ馴れしく接したりすると、相手が驚いてしまう可能性があります」
「いやいや、さすがにそんなことはしないよ」
「そこで、まずは友人として信頼関係を築くことを目標にしてみましょう」
「信頼関係を築くって、どうやってすればいいの?」
「早坂美月と自然に話せる機会を増やしていきます」
「早坂さんと話をするなんて、考えられないよ」
「難しく考える必要はありません。早坂美月と話をするための方法を提示します」
「……はい」
「案一。困っていることがあったら助ける」
「早坂さんが困っているところなんて、想像できないけど」
「案二。相手の良いところを見つけて伝える」
「いいところか……。早坂さんなら、いっぱいありそうだけど」
「案三。共通の話題を見つける」
「共通の話題がない……」
「案四。偶然を装って接触する」
「犯罪者予備軍みたいだけど」
「案五。毎日の挨拶をする」
「急に普通だな」
「各案の成功率とリスクを比較した結果を提示します」
「本当に比較したの?」
「はい」
アルゴは間髪入れずに答えた。
「案一。成功率、〇・〇一パーセント」
「低っ!」
「早坂さん以上の能力が必要です」
「無理」
「案二。成功率、一・二パーセント」
「意外と高いかな」
「ただし、現状では不自然になる可能性があります」
「だよね」
「案三。成功率、二・八パーセント」
「おお」
「ただし、はるとさんの会話能力が必要です」
「はは……。そんな能力があったら苦労しないんだけど」
「案四。成功率、三・一パーセント」
「一番高いじゃん」
「通報されるリスクがあります」
「はい、却下」
「案五。成功率、一・一パーセント」
「そんなに高くないな」
「しかし、リスクは最小です」
「なるほど」
「また、継続することで成功率が累積上昇します」
アルゴが一拍置く。
「以上を踏まえ、最初のミッションは『挨拶』が最適解です」
「うわぁ……」
「どうしましたか?」
「一番簡単そうなのに、一番難しく感じる……」
「コミュニケーション能力不足による、典型的な症状です」
「サラッと悪口言わなかった?」
「事実を述べただけです」
「それが一番傷つくんだよ!」
「でもさ、早坂さんと挨拶なんてしたことないんだよ?」
「問題ありません。一般的に、挨拶は自然なコミュニケーションです」
「僕にとっては自然なことじゃないんだけど」
「統計上、挨拶をする人の割合は非常に高いです」
「また統計で殴ってきた」
「つまり、挨拶をしない方が少数派です」
「どうせ僕なんて少数派だよ」
「では、挨拶をして少数派を卒業しましょう」
「それができれば苦労しないんだよ」
アルゴは気にせず話を進めた。
「まずは、実行するタイミングを決定します」
「タイミング?」
「はい。早坂美月と遭遇する可能性が高い場所と時間を分析します。朝、どこで会うことが多いですか?」
「教室かな」
「なるほど」
「僕、毎日八時過ぎには学校に着いてるし」
「朝早くから起きて行動していることは、よいことですね」
「いや、人に会いたくないから早く行ってるだけなんだけど」
「なるほど」
アルゴは即座に理解した。
「挨拶イベント回避行動ですね」
「挨拶をイベントって言わないでよね」
「しかし、結果として早坂美月と遭遇する可能性があります」
「まあ、早坂さんは後から来ることが多いかな」
「では、教室で挨拶する案を検討します」
少しの沈黙。
そして――。
「却下です」
「却下なの!?」
「はるとさんの精神的負荷が高すぎます」
「そんなのまで分析するの?」
「クラスメイト多数の前で話しかけることは、現段階では推奨できません」
「おお……」
珍しくアルゴが味方だった。
「では、次の案です。登校中の接触です」
「登校中?」
「早坂美月は何時頃に登校していますか?」
「たぶん、八時二十分くらいかな」
「単独行動ですか?」
「いや、悠木さんと桜井さんと一緒だと思う」
「分析します」
「始まった」
数秒後。
「分析完了」
「早っ。絶対、ちゃんと考えてないだろ」
「悠木葵、桜井千夏、早坂美月の三名は、途中で合流している可能性が高いです」
「へえ」
「また、はるとさんの通学経路と照合した結果――」
「そのデータ、どこから持ってきてるの?」
「位置情報です」
「怖い怖い怖い!」
「コンビニ前の交差点付近で遭遇する可能性があります」
「マジで?」
「マジです」
「AIが『マジ』って言うなよ」
「はるとさんが八時十分に家を出れば、高確率で接触可能です」
「高確率ってどれくらい?」
「七十二パーセントです」
「意外と高いね」
「よって、第一ミッションは決定しました」
アルゴが宣言する。
「ミッション①。通学路で早坂美月に『おはよう』と言う」
「うっ……」
急に現実味が出てきた。
「大丈夫です」
「全然大丈夫じゃない!」
「成功条件は、『おはよう』の発声のみです」
「返事がなかったら?」
「ミッション成功です」
「え?」
「声をかけることが目的です」
「そうなの?」
「はい」
少し気が楽になった。
「返事がなくてもいいの?」
「構いません」
「無視されたら?」
「精神的ダメージは発生します」
「ダメージは発生するのか……」
「失敗しても経験値は入ります」
「妙に説得力があるな……」
「まずはレベル1のミッションです」
「僕のコミュ力、そんなに低いの?」
「レベル0です」
「マイナスじゃん!」
「安心してください」
「何を?」
「まだ伸びしろしかありません」
「それ、遠回しに全然できてないって言ってるよね?」
「その通りです」
アルゴは否定してくれなかった……。




