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気になる女の子を勝手に特定するな

「……」


なんか、勝手に女の子にモテたいということにされてしまった。

「違う!」

「いえ。中学生男子としては正常な反応です。安心してください」

「いやいやいや。そういう話じゃないだろ」

「女の子に関心がないのですか?」


モテたくないと言えば嘘になる。

というか、願望はある。願望だけは。

でも、それをこんな機械に指摘されるのは、ものすごく恥ずかしい。


「えっと……それは、ないわけじゃないけど……」

「詳細な入力を要求します」

「詳細な入力ってなんだよ?」

「関心のある女の子の情報を入力してください」

「関心のある女の子って……」

まあ、いないわけではない。

というか、なんでこんな話になってるんだっけ?


「入力待機中です」

圧がすごいな!

「いや、だから……」

「入力待機中です」


「なんだよ、その圧……」

アルゴは何も答えてくれない。

どうやら、僕が答えるまで待つつもりらしい。

「だから……最近、ちょっと気になる子がいるというか……」

圧に負けた。


「入力を確認しました」

「その言い方はやめて」

「田中はるとの検索履歴から、早坂美月という人物への関心が検出されました」

「は? そんなことないし」

「『早坂美月』で検索」

「えっ?」

何を言い出したんだ?


「SNSを閲覧」

「本当にこいつ、何を言ってるんだ……」

「姓名判断」

「いや、確かに思い当たる節はあるけど……」

どこまで調べる気なんだ?

「恋愛相性診断」

「やめてぇー!」

思わず叫んでしまった。


「分析結果を読み上げます」

「そんなの読み上げなくていいよ!」

「誤りがありましたか?」

「いや……早坂美月さんが気になるのは確かだけど」


「早坂美月。中学二年A組。クラス委員長」

「知ってるよ」

「学業成績は学年上位三パーセント」

「だから、なんでそんなことまで知ってるんだよ」

「必要な情報です」

こいつ、僕の話を聞いていない気がする。


「彼女との交際を希望しますか?」

「は? だから、なんでそうなるの?」

「好意を抱いている対象だからです」

「いやいやいや。気になってるだけだし」

「好意を抱いている状態を、一般的に『気になっている』と表現します」

「なんだよ、その理屈は」

「つまり、好意があります」


「……」

認めない。絶対に認めないから。

好きとか、そんなんじゃないし。本当に。

そもそも、早坂さんだぞ? クラスの中心にいるような人だ。

誰とでも自然に話せて、笑顔が似合って、先生からも信頼されている。


一方の僕は――。

……やめよう。比較すると心が削れる。


「沈黙を確認しました。自己評価が低い状態であると分析できます」

「人のメンタルを分析しなくていいよ」

「しかし、事実と認識には差があります」

「急に難しい話をしないで」

「田中はるとは、自分を過小評価している可能性があります」

「そんなことないよ」

「根拠はありますか?」

「……根拠なんて……ありません」

アルゴが数秒沈黙する。


きっと、また何か変なことを考えているに違いない。

そして――。

「早坂美月との交際に発展する可能性は、〇・〇一パーセントです」

やっぱり。変なことを言い出した。

「って、低すぎないか?」

「ゼロではありません」

「いや、ほぼゼロでしょ! 不可能じゃん!」

「ゼロとほぼゼロとでは、大きな違いがあります」

「どういう違いだよ」

「ゼロは可能性がありません。つまり、不可能です」


アルゴは淡々と続ける。

「ほぼゼロは、可能性があります」

「不可能と可能には、大きな差があります」

急に名言みたいなことを言い出した。


「なお、現在のまま何もしなかった場合、成功確率は限りなくゼロに近づきます」

「いやいやいや、今でも限りなくゼロだろうが」

なんせ、話したことなんてほとんどない。

向こうは、たぶん僕の名前も知らない。

「存在すら認識されていない可能性があります」

「追い打ちはやめて!」

「事実確認です」

「事実が一番痛いんだよ!」


「ですが、改善は可能です」

「え?」

思わず聞き返してしまった。

「早坂美月に存在を認識され、親しくなるための方法を提示できます」

「いやいやいや……」

そんなの無理だ。無理に決まっている。


感情の整理がつかないまま、僕は小さな声で漏らした。

「……そんなこと、できるの?」

「可能です」

「本当に?」

「ただし、結果は保証できません」

「できないのかよ!」

「ですが、成功確率を上昇させることは可能です」

「うーん……」


正直、信じているわけじゃない。だけど、今まで何もしなかった結果が、今の僕だ。

だったら、少しくらいは――


「じゃあ……少しだけ」

「はい」

「少しだけなら、やってみてもいいかもしれない」


「了解しました」

アルゴは一秒も迷わなかった。

「ミッションを登録します」

「待て」

「登録中」

「待てって!」

「登録完了」


「早い!」

「ミッション名」

「いや、だから待てよ!」

「『早坂美月との関係性構築計画』」

「なんか本格的なんだけど……」

「難易度を算出します」

「嫌な予感しかしない」


「算出完了」

「絶対、早いだろ。その計算」

「難易度、Sです」

「やっぱり!」

「ただし、攻略不能ではありません」

「ゲームじゃないんだけど」


「私は、あなたをサポートします」

その言葉に、少しだけ胸が軽くなった。もちろん、不安のほうが大きい。

だけど――


ほんの少しくらいなら、期待してもいいのかもしれない。

「よろしく……アルゴ」

「了解しました」

そしてアルゴは、最後に小さな声でつぶやいた。


「『カースト下位男子とクラスの人気者の関係性構築』」

「ん?」

「非常に興味深い案件です」

「今、なんか言った?」

「いいえ。独り言です」

「絶対言っただろ……」


僕はため息をついた。

その瞬間。

「ため息を検出しました」

「もういいよ!」

こうして僕とアルゴの奇妙な日常が、本格的に始まった。

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