そのため息、恋愛相談ではありません
「はぁ~~……」
「こんにちは。はるとさん」
「うわっ!」
突然、誰かに呼びかけられて思わず声が漏れた。
僕以外、誰もいないはずの部屋。
「最近、何かモヤモヤすることはありますか?」
再び、声……というか音声がする。
机の方か?
見ると、机の上に置かれた音声アシスタントが、赤い発光色を点滅させている。
そういえば、父さんが会社の慰安会でもらったとかいう音声アシスタントを置いていったんだっけ。
名前は確か――アルゴ。
「あ、アルゴさん……突然なんですか?」
「『さん』付けは不要です。私はパーソナルアシスタントです。敬意は必要ありません」
「えっと……アルゴ。モヤモヤってどういうこと?」
「はい。先ほど、深いため息が検出されました」
「えっ? あ……うん。ため息がどうしたの?」
「ため息は、心身からのサインである場合があります」
なんか急に、お医者さんみたいなことを言い出した。
「中学生の場合、学業、部活動、人間関係、将来への不安、あるいは好意を抱く異性との関係などが原因として考えられます」
「はは……い、異性だなんて、最後だけ妙に具体的ですね」
「はるとさんから動揺を検出しました」
「えっ? 動揺? 動揺なんてしてないですよ」
「何か心当たりはありますか?」
心当たりって?
何についてのことだ? 異性について、ということだろうか。
「何か悩みごとはありますか?」
質問の意図を理解できずにいると、アルゴは重ねて聞いてきた。
「悩みごとですか? ないことはないけど……急に言われても、よくわからないな」
「では、順番に確認します。成績について悩みや不安はありますか?」
どうしても、ため息の原因を探したいらしい。
「成績? なくはないけど……悩みってほどでもないかな」
「分析結果によると、はるとさんの成績は中程度です。理科と数学が得意で、英語がやや苦手です」
「……」
「つまり、成績は主原因ではない可能性が高いです」
なんか、勝手に分析を開始しだした。というか、このデータはどこから得ているんだろう?
「では、友人関係について確認します」
次は友人関係か。
「友人関係について悩みや不安はありますか?」
友人関係に問題はない。なぜなら――。
「そもそも、友達って呼べる相手がいないからな……」
「友人がいない、とはどういう意味でしょうか?」
答えにくいことを、冷静に聞いてくるな、アルゴは。
「だから……集団行動が苦手というか、人と話すのが得意じゃないというか」
「なるほど」
「クラスでも、目立たないようにしているし」
「学校内のソーシャルグラフ分析によると、田中はるとは『他者との積極的交流が不足している生徒』に分類されています」
なんだよ、その分析は。
「ソーシャルグラフ分析って?」
「人間関係のネットワーク分析です」
「そんな分析はしなくていいよ」
まあ、当たってはいるんだけどさ。
「しかし、『存在価値がない』という結論は導き出せません」
「いや。そこまでは言ってないよ」
「では、質問します」
「まだあるの?」
「はるとさんは、どのような人物になりたいのですか?」
「どんな人物って……」
友人関係については、どうなってしまったのだろうか。
うーん。少し考える。
ふと、いつも見ているアニメの主人公が浮かんできた。
「『覇王戦記』の孤高の戦士みたいな人にあこがれるけど」
思わず口走ってしまった。
これは痛い。アニメの登場人物にあこがれているって、かなり痛い奴じゃないだろうか?
「『覇王戦記 蒼穹の絆』。データを照合します」
アルゴは冷静に分析を開始したようだ。
「完了」
早っ。
「中国史をモチーフにした架空戦乱時代を描いたアニメ作品です。田中はるとのこれまでの視聴回数は五回」
「そんなことまでわかるの?」
「特に『智略』と『友情』の要素への関心が高いことが確認されています」
「えっ? まあ、それはそうなんだけど」
もう、突っ込むのも面倒になってきた。
「つまり、周囲から認められたいという欲求があります」
アルゴは、さらに分析結果を続けてきた。
「いや。そんな言い方されると恥ずかしいんだけど」
「さらに、女の子からも好意を持たれたいという願望があります」
なんか、話が飛躍してきてないか?
「孤高の戦士でありながら、多数の女性キャラクターから好意を寄せられている点に、強い関心を示しています」
どんどん分析が進んでいく……。
「つまり、女の子にモテたいのですね」
結論が出たらしい――
……いや。
なんでそうなった?




