↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/30

買い物の報告をしたら、アルゴにいろいろ分析されました

「アルゴ……」

「こんばんは、はるとさん。今日の早坂美月との初デートはどうでしたか?」

「だから、デートじゃないって」

「はい。文化発表会の備品を買いに行っただけですね」

「最初からそう言ってるよね?」

「それで、どうでしたか?」

「……なんか、興味津々なおばさんみたいになってない?」

「違います。情報収集です」

「お前の場合、情報収集というより尋問なんだよ」

「では、最初から説明してください」

「はいはい」


僕は今日の出来事を思い出しながら話し始めた。


「必要なものは、ちゃんと全部買えたよ」

「買い物自体は問題なく終了したのですね」

「うん。それから、本屋にも行った。そこで美月さんと本の話をした」

「そう。推理小説の話になって……」

「会話も成立したのですね」

「まあ……一応」

「そして、アニメショップにも行った」

「うん」

「そこで『覇王戦記』の設定資料集を購入した」

「そう」

「さらに、美月さんから消しゴムを一つプレゼントされた」

「……うん」


「非常に興味深い展開です」

「やっぱりそこ?」

「はい。どういう意味だと思いますか?」

「それを聞きたいんだよ」

「可能性はいくつかあります」


アルゴが淡々と答える。


「単純に、本のお礼という可能性」

「うん」

「それから、友人への気軽なプレゼントという可能性」

「うん」

「そして、少しでも親しくなりたいという気持ちが含まれている可能性もあります」

「……」


思わず、手元の消しゴムを見る。


「じゃあ……特別な意味があるかもしれない?」

「可能性はあります」

「おお……!」

「ただし、現時点で断定はできません」

「なんだよ。期待させておいて、すぐに落とすなよ」

「期待しすぎは禁物です」

「はい……」

「ただ」


アルゴが少し間を置く。


「少なくとも、嫌っている相手にわざわざプレゼントをする必要はありません」

「……そうだよね」


なんだろう。たった一個の消しゴムなのに。少しだけ、うれしい。


「それから」

「まだあるの?」

「フードコートでの会話です」

「……あ」


思い出した。


「美月さんに、『はるとくんって話しやすいね』って言われた」

「はい」

「それから、『男の子と話すのが苦手』とも」

「その二つの発言は重要です」

「どういう意味?」

「はるとさんは、美月さんから『安心して話せる男子』として認識されている可能性があります」

「安心して……」

「はい」

「それって、いいこと?」

「非常に良いことです」

「……でも、恋愛対象ってことではない?」

「現時点では判断できません」

「そっか」


少しだけ肩の力が抜けた。

恋愛対象かどうかなんて、今の僕には分からない。


でも。

『話しやすい』

そう言ってもらえたことは、素直にうれしかった。


「たださ」

「はい」

「最後に良介が来ただろ?」

「前山良介ですね」

「うん」


僕は少しだけ声を落とした。


「美月さん、すごく楽しそうに話してた」

「落ち込みましたか?」

「……ちょっと」

「なぜですか?」

「だって……」


うまく言葉にできない。


「やっぱり、良介みたいなやつの方が美月さんには合ってるのかなって」


アルゴはすぐには答えなかった。

少しだけ間があってから、静かに言う。


「比較する必要はありません」

「え?」

「今日、前山良介と美月さんが話していた内容を思い出してください」

「ゲームとかテレビとか……いろいろ」

「会話を始めたのは?」

「良介」

「会話を続けていたのは?」

「……良介の方かな」

「では、今日のはるとさんとの会話は?」

「え?」

「誰が美月さんと二人で買い物に行きましたか?」

「……僕」

「誰が一緒に買い物をしましたか?」

「僕」

「誰に消しゴムをプレゼントしましたか?」

「……僕」

「誰とフードコートで二人で話しましたか?」

「僕」

「誰に『話しやすい』と言いましたか?」

「……僕」

「それが答えです」

「……」


言われてみれば。

確かにそうだった。


「前山良介には、今日のはるとさんとの間にあった出来事は一つもありません」

「そっか……」

「前山良介と話したことと、はるとさんと話したことを、同じ土俵で比較する必要はありません」

「うん」

「恋愛は、他人との勝負ではありません」


アルゴの声が、少しだけ柔らかくなる。


「相手との間に、どんな時間を積み重ねたかが重要です」

「……」


今日のことを思い出す。


アニメショップではしゃいでいた美月さん。

二人で買い物をしたこと。

消しゴムをもらったこと。

フードコートで話したこと。


そして――。


『はるとくんって、話しやすいね』


「……そうか」


少しだけ胸が軽くなった。


「今日は今日で、ちゃんと楽しかったんだな」

「はい」

「それで十分?」

「今は、それで十分です」

「そっか」


なんだか、安心した。


「それから、もう一つあります」

「何?」

「今日、会話中に何度も『美月さん』と呼んでいました」

「……え?」

「以前は『早坂さん』と呼んでいましたね」

「あ……」


言われてみれば。

確かに今日は、一度も『早坂さん』とは呼ばなかった。


「無意識だった……」

「そうですね」

「全然気にしてなかった」

「それは重要な変化です」

「そうなの?」

「最初は名前で呼ぶだけでも、かなり緊張していました」

「……うん」


思い出す。

あのときは、名前を呼ぶだけで心臓が爆発しそうだった。


『み、み……づ……き……さん』


よくあんなことが言えたな、僕。


「それが今日は、普通に呼べていました」

「……」


なんだか不思議だった。


「少しは慣れたのかな」

「はい」


アルゴは即答した。


「少しずつですが、確実に前進しています」

「……そっか」

「焦る必要はありません」

「うん」

「今日のような時間を、少しずつ増やしていけばいいのです」

「……ありがとう、アルゴ」

「どういたしまして」


少しだけ静かな時間が流れる。


すると。


「では、次の目標です」

「え?」


嫌な予感がする。


「文化発表会本番を成功させましょう」

「お、おう」

「そして、美月さんとの共同作業を継続してください」

「うん」

「ラブコメ作品では、共同作業の次にイベント本番が来るのが定番です」

「なんでそんなところだけ詳しいんだよ」

「高性能チップ搭載ですので」

「またそれかよ」


思わず笑ってしまった。


今日はいろいろあった。

楽しかった。

落ち込んだ。


でも。

昨日より少しだけ、美月さんとの距離が近くなった気がする。


そして。

クラスのみんなとも、少しずつ話せるようになってきた。


ほんの少しずつだけど。

僕はちゃんと前に進んでいる。


……たぶん。


「明日も頑張ろうかな」

「はい。期待しています」

「その言い方、プレッシャーなんだけど」

「では訂正します」

「何?」

「無理のない範囲で頑張りましょう」

「……それならいい」


僕は机の上に置いた消しゴムを見た。


小さな消しゴム。

でも今日は、これが少しだけ特別なものに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。