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文化発表会の買い出し、なぜか美月さんと二人で行くことになりました

「なんか……すごいことになっちゃったね」


教室中を見回しながら、美月さんが苦笑した。


机は端へ寄せられ、教室のあちこちで作業が進んでいる。


「でも、これでやりたいことはかなりできるんじゃないかな」

「うん」


僕も思わずうなずく。

さっきまで四人で作っていた展示が、今ではクラス全体の展示みたいになっていた。


「あ、新しいマジックない?」

「こっちも黒なくなったー!」

「模造紙、もう一枚欲しい!」

「あたし、漢文を書くなら半紙じゃなくて、もっと大きい紙がいいかな」

「設定資料集がないと鎧描けねぇ!」

「画材も足りねぇぞ!」


後ろの席のオタクくんまでもが叫んでいる。


……昨日まで、ほとんど話したこともなかったのに。


「どうしよう。人が増えたから、備品が全然足りなくなってきちゃった」


美月さんが困ったように笑う。


「買い出ししかないね」


葵さんが言った。


「じゃあ」


千夏さんが自然な口調で続ける。


「美月とはるとくんで行ってきてよ」

「え?」


思わず変な声が出た。


「大勢で行っても仕方ないし。こっちは準備を進めてるから。二人に任せた方が効率いいと思うの」

「うん」


美月さんもあっさりうなずく。


「じゃあ、はるとくん。一緒にお願いしていい?」

「え、あ、うん」


返事はした。

したけど。


頭の中は――。


『二人!?』


その三文字だけでいっぱいだった。


【その夜】


「はぁ~~~~……」

「こんにちは、はるとさん。深いため息を検出しました」

「アルゴ。ため息をつくたびにツッコむの、やめてくれない?」

「ため息は心理状態を推定する有効な情報です」


便利なのか迷惑なのか分からない分析だな……。


「はるとさん。最近、何かもやもやすることがありますか?」

「またそれか。まあ、ないことはないんだけど」

「詳細を説明してください。対応策を提示します」

「うん」


少し照れながら答える。


「美月さんと買い物に行くことになって……」

「ついに早坂美月とデートですか」


アルゴが食い気味に訊いてきた。


「違うよ。文化発表会の備品を買いに行くだけ!」

「学校行事の買い物ですね。それはデートではありません」

「だから、最初からデートなんて言ってないから」

「舞い上がってはいけません」

「舞い上がってなんかないよ!」


緊張してるだけだよ。

少しだけ期待してるけど。ほんの少しだけ。本当に。


「しかし、これは非常に有効なイベントです」

「えっ? やっぱり、そうなるの?」

「文化発表会という共通の目的があります」


アルゴが淡々と説明する。


「さらに二人で行動します。自然に会話が発生します」


少し間が開いた。


「これは……関係を深める好機です」


なんだ。今の間は?


「そんなこと言われると、余計に緊張するじゃないか」

「まずは、経緯を説明してください」

「うん。文化発表会の準備をしてたら、備品が全然足りなくなってさ」

「それで千夏さんが『準備が遅れるから、美月とはるとくんで行ってきて』って言ってきて、なんか美月さんと二人で行くことになっちゃったんだけど」

「なるほど」


アルゴが少し間を置く。


「桜井千夏が、二人で行動できるよう提案したのですね」

「そうなのかな。偶然じゃない?」

「偶然の可能性もあります。しかし、桜井千夏は以前からはるとさんに協力的です。今回もその延長線上と考えるのが自然です」

「もし本当にそうだったら……」


少し複雑だ。


「なんか、千夏さんを利用してるみたいで」

「その考えは不要です。目的遂行のために有効な手段は活用すべきです」


アルゴはきっぱりと言った。


「桜井千夏は自ら協力しています。本人の意思です。罪悪感を持つ必要はありません」

「……そうなのかな」

「はい。問題ありません」


アルゴはそう言ってから、すぐに話題を変えた。


「そんなことより、どこで買い物をするかは決まっているのですか?」

「ああ。駅前のショッピングセンター」

「何を買う予定ですか?」

「マジックとか文房具を買いに行くんだけど、他にも必要そうなものがあれば見て回る予定」

「スーパーと多くの専門店が併設されている大型の施設ですね。文房具店以外も利用する可能性があります」

「うん。二人きりだから。何話せばいいのかなって」

「買い物をしてください」

「身もふたもない!」

「目的は文化発表会です。目的に集中すれば、緊張は軽減します」

「なるほど」


少しだけ気持ちが楽になる。


「はい。ただ、少し気を付ければ、もっと楽しい時間になりますよ」

「やっぱり、ほかに何かしないといけないの?」

「好印象を与える方法です」

「聞くだけ聞いておくよ」

「荷物を持つ。一緒に探す。必要なら店員に確認する。用事がスムーズに終わるように協力してください」

「それくらいならできるかな」

「そして、『美月はどっちがいいと思う?』という質問を活用してください」

「自分で決められない人って思われない?」

「違います。相手の意見を尊重しています。一緒に考える姿勢が伝わります」

「なるほど」

「逆に質問されたら、自分の意見も伝えてください」

「あー。それが一番難しいな。自分の意見なんて、あまり言ったことないし」

「では、練習しましょう」

「また練習?」

「準備は成功率を向上させます」


始まった。


「買い物リストを作成します」

「マジック。マーカー。模造紙。大きい紙。画材……」

「ほかには?」

「えーと。テープや定規も必要かな」

「相談事項として記載してください。会話のきっかけになります」

「なるほど」

「よし! こんなもんかな」

「では、次にショッピングセンターのフロアマップを確認してください」

「えっ。フロアマップ?」

「事前に場所を把握すると迷いません」

「準備が細かい……」

「人間は予定が分かるだけで不安が軽減します」

「確かに」

「ただし」


アルゴの声が少し柔らかくなる。


「想定外は必ず起こります。その時は焦らず、『文化発表会の買い物で来ている』。この目的を忘れないでください」

「うん」

「そして最後です」

「まだあるの?」

「帰る前に、『今日はありがとう。楽しかったよ』と気持ちを伝えるのを忘れないでください」


少し照れる。


「この一言が、次につながる大切な一歩となります」

「言えるかな」

「言えます。今のはるとさんなら」


アルゴにそう言われると、なんだかできる気がした。

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