手伝ってほしいと言ったら、クラスのみんなが協力してくれた
「じゃあ、今日はここまでかな」
美月さんが資料をまとめる。
「思ったより進んだね」
葵さんが気持ちよさそうに言った。
「うん。でも……」
千夏さんが年表と人物比較表を見つめる。
「これだけだと、少し寂しいかも」
「そうかな?」
「せっかくなら、史実や時代背景の説明も作りたいな」
「うん。それ、いいね!」
葵さんが飛びつく。
「だったら、地図もほしいな」
千夏さんもやりたいことがあるらしい。
「戦った場所も分かるようにしたいし、勢力図とかも描けるかも」
「じゃあ、イラストとかも描こうよ」
「名言や故事成語を、習字で書いたら中国感が出てくるかも!」
「おっ。それいいね」
「それなら、人物の衣装とかも――」
「待って」
思わず口を挟んだ。
なんか、増えてる。どんどん増えてる。
最初は年表と人物紹介くらいだったはずなのに。
地図。勢力図。イラスト。習字。……まだ増えるの?
「それ、誰が作るの?」
三人が一斉に僕を見る。
「はるとくん。主担当だったよね?」
美月さんが爽やかに言う。
「なんとかなるよ」
「なんとかできますよ」
千夏さんまで笑顔で言う。
「楽しくなってきたな!」
葵さんが拳を握る。
「…………」
逃げたい。
「私達も協力するから、みんなで頑張ろう!」
「おー!」
「おー!」
なんか盛り上がってるんだけど。
僕だけ置いていかれてない?
【その日の夜】
家に帰ると、すぐにアルゴに今日の出来事を報告した。
「展示内容が増えたのですね。それは良いことです」
「良くない!」
「文化発表会は、展示内容が充実するほど評価が高くなる傾向があります」
「だからって、限度があるよ!」
「現在の問題は、作業量ですね」
「そう」
「解析しました」
アルゴが少し沈黙する。
そして。
「人手不足です」
「やっぱりそうだよね。僕が悲観的なだけじゃないよね?」
「はい。はるとさんは少し慎重なだけで、行動すべきときは実行する人です」
「いや、そんなことはないけど」
「これまでも、私が提案したことは確実に実行しています」
「そうかな」
僕は少し考える。
「で、今度はどうすればいいの?」
「四人では終わりません」
「その通り」
「では」
アルゴは即答した。
「人員を追加しましょう」
「いやいや。簡単に言うけど……」
「クラス全体を利用します」
「利用って言うなよ」
「文化発表会とは、クラス全体で取り組む行事です。一人で作る必要はありません」
「確かに、そうなんだけど……」
「適材適所です」
「適材適所?」
「はい」
アルゴの声が、少し得意そうになる。
「得意な人に、得意なことを依頼してください」
「例えば?」
「漢文を習字で書くなら――」
「うん」
「書道部です」
「なるほど」
「イラストなら――」
「あっ!」
思わず声が出た。
「後ろの席の人がいいか!」
「はい。毎日イラストを描いています」
「確かに、あの人めちゃくちゃ上手い」
「展示作成にも、人手が必要です。そこで、中村淳です」
「そうか」
思わず納得する。
「中村くんなら頼みやすい」
「佐藤美咲も協力する可能性があります」
「たしかに」
「さらに――」
アルゴが続ける。
「協力を依頼することは、会話の機会を増やします」
「うん」
「クラスメイトとの関係構築にもなります」
「なるほど」
「文化発表会終了後も、継続する人間関係になる可能性があります」
「……」
「恋愛だけでなく、学校生活全体が改善します」
「……」
珍しく、恋愛以外の話をしている。
「今回はまともだ」
「失礼です。私はいつもまともです」
「たこたこ8事件、忘れてないからね」
「……」
アルゴが黙った。
「反省しています」
「反省するんだ」
「成功率は0.78%でした」
「その数字、もう聞きたくない」
【翌日の昼休み】
よし。協力してもらえるか聞いてみよう。
まずは、後ろの席の人から……。
いつものように下を向いて、何か描いている。かかわらないでくれオーラがすごすぎる。
これはちょっと後にしよう。
次は中村くん。
幸い、誰とも話していない。今のうちに話してみよう。
でも、改まって話しかけると緊張するな。
……大丈夫。できるはずだ。
一言二言なら、自然に会話できるようになってきた。
うん。大丈夫だ。
「あのー……中村くん。ちょっといいかな」
中村くんが、こっちを向いた。
「えーっと……ちょっと相談があるんだけど」
「うん? なんだよ、相談って。珍しいな」
「うん。文化発表会のことで、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど……」
「何話してるの? 文化発表会ではるとも何かするの?」
佐藤さんが興味深そうに話に入ってきた。
おお。
アルゴの予想どおりだ。
佐藤さんにもお願いしてみよう。
「うーん。それなら、みんなに聞いてもらったほうがいいよ」
佐藤さんはそう言うと、クラスのみんなの方を向いた。
そして、目立つように大きく手を振る。
「ねえ、みんなー! はるとくんが話があるんだって!」
教室中に大きな声が響いた。
すごい。なんで陽キャは、こんなに素早く行動できるんだろう。
感心して佐藤さんを見ていると、『どうぞ』と言わんばかりの顔で、僕を見てきた。
いやいや。全然ついていけてないんですけど。
視線を周囲に移してみる。みんな、こっちを見ている。
なんでこんな展開になっているんだ?
中村くんに手伝いをお願いしたかっただけなのに……。
失敗した。これは完全に失敗だ。
あー……。どうすればいいんだ。
「はるとー! がんばれー!」
葵さんの声が響く。
それをきっかけに、クラス中からどっと笑い声が起こった。
あーもう。
こんなときに、そんな応援はいらないんですけど。
逆に緊張する。
落ち着こう。
小さく深呼吸して、もう一度周りを見渡す。
すると、美月さんと目が合った。
葵さんは、ニコニコしながら手を振っている。
千夏さんは何も言わず、黙ってこっちを見ている。
三人とも、期待している。
……もう、やるしかない。
「みんな……」
僕は恐る恐る口を開いた。
「ちょっとお願いがあるんだけど……」
教室が静かになる。
「文化発表会の展示。少し手伝ってもらいたいんだけど」
言った。
言っちゃった。
もう戻れない。
「習字ができる人……」
書道部の子の方を見る。
「イラストが得意な人……」
後ろの席をちらっと見る。
「ほかにも、いろいろ作業を手伝ってもらいたいことがあるんだ」
言えた。
……たぶん。
「どうかな? 大勢でやったら、きっと楽しいと思うよ」
美月さんがすぐにフォローしてくれた。
「うん。みんなでやったほうが絶対楽しいよ」
「みんなでやってみませんか」
葵さんと千夏さんも続けて呼びかけてくれた。
その言葉に、中村くんが笑顔で手を挙げた。
「俺、手伝っていいよ」
「じゃあ、私も」
その隣で、佐藤さんも手を挙げる。
そして。後ろの席。
いつも無口なあの男子が、おそるおそる顔を上げた。
「あの……イラストなら……」
「……!」
初めて、向こうから話しかけてくれた。
「お願い!」
思わず身を乗り出した。
気づけば、教室のあちこちから声が上がり始めていた。
「習字なら私たちでしょ」
「俺も切る作業やる」
「貼るの手伝うよ」
「資料、コピーしてくる」
次々と声が聞こえてくる。
……すごい。
あれだけ一人で悩んでいたのに。
みんなにお願いしたら、こんなに簡単に協力してくれるなんて。
「ところで」
中村くんが不思議そうに聞いてきた。
「なんで、はるとが文化発表会の準備してるの?」
「ははは……」
笑ってごまかすしかなかった。
……っていうか。
実行委員のやつはどこにいるんだよ!




