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20/30

文化発表会、三人が手伝ってくれることになった

放課後。教室には、僕ひとりだった。


机の上には、中国史の本が山積みになっている。


一冊。二冊。三冊。

いや、違う。十冊以上ある。


「多すぎるだろ……」


まずは年表。そして、主要な史実や人物を整理する。

そのあとで、『覇王戦記』との比較。


アニメ側は簡単だった。内容はだいたい頭に入っている。

問題は中国史だ。積み上がった本を見る。


重い。物理的にも、精神的にも。


(アルゴに頼めば、一瞬でまとめてくれるんだろうな……)


でも、それはなんとなく違う気がした。

アルゴが作ったものを写しただけじゃ、自分でやったことにならない。


だからといって、どう進めればいいのかも分からない。


結果――十分ほど停止。完全にフリーズしていた。


その時だった。


「やっほー!」


教室の扉が開いた。

聞き慣れた声。悠木さんだった。


その後ろには、早坂さんと桜井さん。三人揃っていた。


「あれ?」


早坂さんが首を傾げる。


「なんではるとくんがいるの? 一人?」

「え?」

「文化発表会の準備をしてるって聞いたから、差し入れ持ってきたんだけど」


そう言って、紙袋を持ち上げる。

中にはジュースが入っていた。


神か。


「実行委員の人たちは?」

「あー……」


説明しづらい。ものすごく。


すると、悠木さんが代わりに答えた。


「あいつら、はるとに押し付けたんだよ」

「え?」


早坂さんの眉が下がる。


「そうなの?」

「いや、まあ……そんな感じかな……」

「最低じゃん」


悠木さんが即答した。


「そこまで言わなくても……」

「いや、言うでしょ」


悠木さんは腕を組んでいる。


「自分たちで実行委員やってるのに、面倒な仕事だけ押し付けるとか」

「……まあ」


否定できない。


すると、桜井さんが机の上を見る。


「すごい本ですね。あ、今日、図書室で借りてたやつですね。全部読むんですか?」

「うん。たぶん……」


そんなこと、自分でも分からない。


すると、早坂さんが一冊手に取った。


「中国史?」

「うん」

「これって、文化発表会で使うの?」

「そう。『覇王戦記』と実際の中国史を比較する展示にしようと思って」


三人に、今回の展示内容を説明する。

説明し終わると、三人が顔を見合わせた。


そして。


「面白そう」


早坂さんが言った。


「え?」

「それ、絶対面白いよ」

「そうかな」

「うん。『覇王戦記』って、こういう歴史が元になってるんだって分かったら、知らない人も興味を持つと思う」


さらに、悠木さんが身を乗り出した。


「クラスのみんな、驚くんじゃない?」

「いや、そんな大したものじゃ……」

「いやいや」


悠木さんは首を振る。


「めちゃくちゃ面白そうだよ」


すると、桜井さんも小さく笑った。


「私も興味ありますよ」

「え?」

「古代中国の話、好きなので」


そうだった。桜井さんは歴史好きだった。


すると、早坂さんがこちらを見る。


「ねえ」

「うん?」

「一緒にやらせてくれない?」


思考停止。


「……え?」

「人手は多いほうがいいでしょ?」

「それは、そうだけど……」

「じゃあ決まりね」


決まった。僕の意思確認は終了したらしい。


「年表、まとめたほうがいいよね」


早坂さんが本を覗き込む。


「じゃあ、私は人物調査でもしようかな」


桜井さんが言う。


「私は資料探すね」


悠木さんも続ける。

三人が、あっという間に役割を決めていく。


すごい。陽キャって、会議が三秒で終わるんだ。

僕なんて、昼休みにパンを選ぶだけで五分悩むのに。


「はるとくん」


早坂さんが僕を見る。


「それでいい?」

「え?」

「私たちが勝手に決めちゃったけど……」

「あ、うん。それでいいよ」

「なんだよ、それ」


悠木さんが口を挟む。


「発案者なんだから、ちゃんと指示出してよ」

「えっ」


無理。そんな能力ない。

でも、三人とも普通に僕の返事を待っている。


……やるしかない。


「じゃ、じゃあ……」


僕は机の上の資料を見ながら言った。


「桜井さんは、資料から必要な箇所を洗い出してくれるかな」

「はい」

「早坂さんは、そこから年表を整理してもらえますか?」

「はーい」

「悠木さんは、人物の比較をお願いします」

「うーん……」


なぜか、悠木さんが不満そうな顔をした。


「何か問題ある?」

「『悠木さん』じゃなくて、『葵』って呼んでよ」

「えっ?」

「これから一緒に作業するんだから。名前で呼んでよね」

「えー……」


思わず声が漏れる。


すると、早坂さんも笑った。


「うん。私も『美月』でいいよ」

「あ、私も『千夏』でお願いします」

「う……」


一気に難易度が上がった。

もう一度、三人を見てみる。三人とも、僕の返事を待っている。


……逃げられない。


「ち、ちなつさん。お願いします」

「はい。分かりました」


桜井さんは、にっこり笑った。

よし。一人目、クリア。


次は悠木さん。いや、葵さん。


「……あ……あ……」


言葉が出てこない。


「お……おい……さん」


違う。今のは完全に失敗だ。


「はると、頑張れー」

「自分で言っておいて応援するなよ!」

「だって面白いんだもん」

「……」


もう一度。


「……あ……お……い……さん。お願いします」

「うん。了解」


葵さんも、嬉しそうに笑った。二人目、クリア。


そして、最後に早坂さん。

美月さん。


美月さん。

よし。言える。たぶん。


「み……み……」


喉が詰まる。


「み……み……づ……き……さん」

「ふふっ」


早坂さんが笑った。


「はい。いいですよ」


「はぁ――っ」


どっと疲れた。

名前を呼ぶだけなのに、なんでこんなに疲れるんだ。


一人のほうが楽だったんじゃないか。


……いや。たぶん、違う。


三人が机を囲んでいる。それだけで、さっきまでの教室とは全然違って見えた。


三人の作業が始まった。


桜井さんは資料を読みながら必要なページに付箋を貼り、早坂さんはそれを見ながら年表を作っていく。

葵さんは人物資料を探しながら、時々、


「これって敵? 味方?」


なんて聞いてくる。

そのたびに、僕も本を覗き込んで答える。


気づけば、さっきまで山にしか見えなかった本が、少しずつ整理され始めていた。


一人だったら、絶望的に感じていた作業。

それなのに――三人でやると、不思議なくらい進んでいく。


そして何より――楽しかった。


「はるとくん、これってどういう意味?」

「えっと……それは――」

「じゃあ、こっちは?」

「それはね……」


気づけば、僕も自然に話していた。


文化発表会。

もしかして――ちょっとだけ、楽しいかもしれない。

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