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19/30

文化発表会、押し付けられた担当が意外と楽しそうです

「こんにちは。深いため息が検出されました」

「うわっ」

「はるとさん。最近、何かもやもやすることがありますか? 早坂美月との関係構築について、何か問題が発生しましたか?」

「いや、問題がないこともないんだけど」

「はい」

「今回は別件なんだよ」

「別件ですか?」

「文化発表会の展示担当を押し付けられたんだ」

「それで、何が問題ですか?」

「問題っていうほどじゃないけど……押し付けられて、断れなかったのがなんだか悔しくて」


数秒の沈黙。

そして、アルゴは落ち着いた声で言った。


「そこが、はるとさんのいいところです」

「……?」

「はるとさんは、頼まれたら断りません」

「でも、今回は無理やりだよ」

「はい。依頼の仕方には問題がありました」

「うん。その通りだよ」

「ですが、お願いされていれば、はるとさんは引き受けていました」

「う。それはそうかもしれないけど……でも、なんだかすっきりしない」

「文化発表会の実行委員はミッションとして最適です」

「えっ?」


何を突然言い出すんだ。


「事前に実行委員選出の情報があれば、ミッションとして課していました」

「それってもしかして……」

「実行委員に立候補するのが次のミッションになっていました」


それって、またアルゴに無茶ぶりされるところだったのか。


「そんなことできるわけないじゃん」


あの静まり返った教室で手を挙げるなんて、想像すらできない。


「はい。ヘタレなはるとさんには、高難易度なミッションになっていたはずです」


う……。またヘタレって言ったか?


「実行担当を押し付けた実行委員の方に感謝しなければなりません」


本当にそうなのだろうか。

助かったのか。でも――。


「早坂美月も、はるとさんに担当してもらいたいと考えていた可能性があります」

「えっ」

「さらに桜井千夏も、はるとさんを推薦しようとしていました」


うん。桜井さんはそうだったかもしれないな。


「二人とも、はるとさんに期待していた可能性があります」

「え……。そうなるのかな」

「少なくとも、はるとさんに任せてもいいと判断した可能性は高いでしょう」

「……」


早坂さんや桜井さんは、本当に僕に期待してくれていたのだろうか。

もしそうなら――。


期待に応える、いい機会なんじゃないだろうか。


「でも、何をすればいいのか分からないんだよ」

「では、文化発表会について説明します」


アルゴは突然、説明モードに入った。


「文化発表会とは、生徒たちが学習活動や文化活動の成果を発表する学校行事です」

「うん」

「つまり、自分の興味や関心を、他者に伝えるイベントです」

「そう言われると、少し楽しそうに聞こえるな」

「はるとさんが今、一番興味を持っているものは何ですか?」

「え? いや……特にないな」

「早坂美月の次に、アニメ『覇王戦記』への関心が高いと判断しています」

「なんでそこで早坂さんが出てくるんだよ」

「違いますか?」

「違うことはないけど……」


少し考える。


「『覇王戦記』には興味あるかな」

「では、『覇王戦記』について発表しましょう」

「却下」


即答した。


「早いですね」

「アニメの発表なんて、通るわけないだろ」

「なぜですか?」

「学校だから」

「アニメは、日本を代表する文化の一つです」

「それはそうだけど」

「そして、文化発表会です」

「理屈としては正しいけどさ……」


アルゴは少し沈黙した。

どうやら、考えているらしい。


そして。


「修正版を提案します」

「聞こうじゃないか」

「『覇王戦記』と実際の中国史を比較する研究発表です」

「比較研究?」

「はい」


アルゴの声に、少しだけ熱が入った気がした。


「『覇王戦記』は古代中国をモチーフとしています」

「うん」

「登場人物のモデル」

「うん」

「戦乱や事件の元ネタ」

「うん」

「時代背景の比較」

「うん」

「史実との違い」

「おお……」


ちょっと面白そうだ。


「例えば」


アルゴは続ける。


「アニメに登場する〇〇将軍は、実在した誰をモデルにしているのか」

「うん」

「アニメの△△の戦いは、史実のどの戦いを参考にしているのか」

「なるほど」

「さらに、年表にすると時代の流れが視覚的にも分かりやすくなります」

「おお」


なんかちゃんと発表っぽい。


「さらに」


まだあるのか。


「イラストを描いて比較することもできます」

「え?」

「作中人物と史実の人物を並べて比較するのです」

「それ、面白そう」

「ですよね」


少しだけ、アルゴが得意そうに聞こえた。

気のせいかもしれないけど。


「でもなあ……」

「何ですか?」

「結構、大変そう」

「その通りです」

「認めるんだ」

「年表作成」

「うん」

「人物調査」

「うん」

「資料整理」

「うん」

「かなりの作業量があります」

「やっぱり無理じゃん」

「そこで、優先順位を付けましょう」


アルゴは淡々と言った。


「まず、年表」

「うん」

「次に、主要人物」

「うん」

「余裕があれば、イラストやコラムを追加します」

「なるほど」

「一度にすべてをやろうとするから、大変なのです」

「耳が痛い」

「はるとさんは、失敗する前に不安になる傾向があります」

「それも耳が痛い」

「まずは、調べることから始めましょう」

「うん」

「やってみますか?」


しばらく考えた。


正直、不安しかない。


でも――。

最初に早坂さんへ挨拶するときも、同じだった。


無理だと思った。

できないと思った。


それでも少しずつ進めてきた。


「……やってみるよ」

「はい」


アルゴが答える。


「何かあれば相談してください」

「うん」

「資料整理」

「うん」

「構成案の作成」

「うん」

「発表内容の添削」

「うん」

「すべて有料オプションです」

「おい」

「冗談です」

「お前、そんな機能あったのかよ」

「はい。高性能チップで学習しました」


出た。高性能チップ自慢。


でも――なんだか、少しだけ気持ちが和らいだ。


押し付けられた展示担当。

断れなくて悔しかった。情けなかった。


でも――。

早坂さんや桜井さんは、本当に僕に期待してくれていたのかもしれない。


だったら。

少しくらい、頑張ってみてもいいのかもしれない。


そう思うと――文化発表会が、少しだけ楽しみになった気がした。

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