文化発表会、僕の意思とは無関係に始まりました
「本日の議題は、来月予定されている文化発表会についてです」
ホームルームが始まると、教壇の前に立った早坂さんが説明を始めた。
隣には中村くん。
学級委員コンビである。
二人とも背筋が伸びていて、堂々としている。
すごいな。前に立つだけで胃が痛くなりそうなのに。
まあ――前に立ってくれているおかげで、堂々と観察できるんだけど。
……いや。「観察」って言い方はまずいな。
情報収集だ。アルゴ公認の。たぶん。
「では、文化発表会の実行委員を決めます」
早坂さんが教室を見渡した。
「誰か、やりたい人はいますか?」
沈黙。誰も手を挙げない。
みんな机を見たり、窓の外を見たりしている。
『興味ありません』オーラがすごい。
「誰かいませんか?」
早坂さんがもう一度聞く。
それでも手は挙がらない。
早坂さんが、少し困った顔をした。
あ。困ってる。
『困っているときは助けましょう』
アルゴがそう言っていた。
でも。
無理。無理なものは無理だ。
助けたい気持ちはある。
でも、手を挙げる勇気はない。
そんな勇気があるなら、今頃人生変わってる。
……あれ?
早坂さんが僕の方を見ている気がする。
そんな目で見ないでください。
僕は手を挙げるなんてことはできません。
「誰もいないのか?」
中村くんが一歩前に出た。
「じゃあ、推薦にしようかな」
爽やかな声が教室に響く。
「誰か適任だと思う人、いますか?」
みんな一斉にうつむいた。
分かる。指名されたくないもんな。
こういうとき、空気みたいに生きている僕は有利だ。
存在感ゼロ。
透明人間。
社会的保護色。
……やめよう。なんだか、情けなくなってきた。
ん?
なんか視線を感じる。
誰か僕を見ている?
周辺視野、発動!
桜井さんがこっちを見ている。
しかも、手を挙げようとしている。
(え……まさか、僕を推薦しようとしてる……!?)
そのときだった。
「お前ら、やれよー」
前山良介の声が響いた。
クラス中が一斉にそっちを見る。
良介が指差した先には、いつも一緒にいる男子二人がいた。
突然指名された二人は、露骨に嫌そうな顔をする。
「えー」
「なんでだよ」
「お前らがやれば終わるんだからさ」
良介は笑いながら言った。
「ぐだぐだ言わずにやれって」
二人は顔を見合わせる。
そして、良介の顔を見る。
……逆らえないらしい。
なんだかなあ。
そのやり取りを見ていた早坂さんは、さらに困った顔になっていた。
あー……。
そんな顔しないでほしい。
できるなら、代わってあげたい。
できるなら。
……できないけど。
「やってくれるかな」
中村くんが、空気を切り替えるように言った。
「……仕方ないなぁ」
「やってみるか」
二人はしぶしぶうなずいた。
「じゃあ、お願いします」
パチパチとみんなで拍手をする。決定。
ホームルームは終了した。
僕は帰ろうとして――。
「おい、はると」
呼び止められた。
振り返ると、さっきの二人がいた。
「な、なに?」
「文化発表会の展示担当、お前な」
「え?」
意味が分からない。
「だから」
一人が僕の肩に腕を回してくる。
「俺たち、実行委員の権限で、お前に任命してやるって言ってんだよ」
意味が分からない。二回目。
「いや、ちょっと待って」
「細かいこと気にすんなって」
「ちゃんとやっとけよ」
そう言って、二人は帰っていった。
丸投げだった。
完全に。
食物連鎖。
そんな言葉が頭をよぎった。
強い者が弱い者を利用する。
そして、最下層にいる僕へ仕事が流れてくる。
……理不尽だ。
【帰宅後】
「はぁ~~~~……」
特大のため息が部屋に響いた。
――もちろん、この理不尽な状況を、我が家の事象優秀なアドバイザーが黙って見過ごすはずもなかった。




