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16/30

早坂さん以外にも挨拶してみることにしたら

「はるとさん」

「ん?」

「早坂美月以外のクラスメイトについても確認しましょう」

「なんで?」

「人間関係はネットワークです」

「なんか難しそうなこと言い始めた」

「はるとさんの前の席は誰ですか?」

「中村くんだったかな」

「中村淳。テニス部所属。男子クラス委員。男女問わず人望があります」

「そうそう。爽やか系だよな」

「はい」

「隣の席の佐藤さんとよく話してる」

「佐藤美咲。テニス部所属です」

「そうだったのか」


なるほど、部活仲間だから仲がいいのか。


「二人とも、僕とは遠い世界の住人だよ」

「すぐ前と隣の席ですが」

「そういう意味じゃないんだけど」

「では、後ろの席は誰ですか?」

「えーっと……」


少し考える。


「あれ? 名前なんだっけ」

「覚えていないのですか?」

「いや、顔は分かるんだよ」

「特徴を説明してください」

「いつもクラスの隅で、三人くらい集まって漫画とかラノベとかアニメの話をしてる」

「なるほど」

「たぶん、オタクグループ」

「はるとさんと近い属性ですね」

「いやいやいや」


思わず否定する。


「オタク力が高すぎて近寄れないんだよ」

「オタクとネクラの違いですね」

「今、さらっとひどいこと言わなかった?」

「事実の整理です」


絶対違う。たぶん違う。

違ってほしい……。


「では、次のミッションです」

「はいはい」

「前後の席の人にも挨拶してください」

「えっ?」

「朝、目が合ったら『おはよう』です」

「なんで?」

「なんでもいいです」

「雑!」

「挨拶はコミュニケーションの基本です」

「でも、ほとんど話したことないぞ?」

「だからです」


アルゴは断言した。


「してください」

「強制!?」


早坂さんたち以外との挨拶かぁ。

早坂さんたちとは、自然に挨拶できるようになってきた。


ほかの人にはどうなんだろう。

できるかな。……いや。


できない気はしない。ちょっと試してみてもいいかもしれない。

なんだか、明日が少しだけ楽しみになってきた。


【翌朝】


中村くんは、まだ来ていない。

後ろの席の男子は、もう座っていた。何かを描いている。


イラスト? 結構うまいな。

でも、ずっと下を向いている。目が合わない。


……。


これ、難易度高いんじゃないか?

目が合わないならセーフ? いや、アルゴはそんな逃げ道を許してくれないだろうな。


いやいや。自分でやってみようと思ったんだ。

うん。やってみよう。ちょっと声をかけるだけだ。


「お、おはよう」

「……」


ちらっと顔を上げた。

目が合った。


そして、また下を向いた。


終了。会話時間、約一秒。


うん。知ってた。僕の挨拶力なんて、そんなもんだよね。


その時。

前の席から、どさっという音がした。


中村くんだ。カバンを机に置いた音だった。


うわ。目が合った。


どうしよう。逃げる? さっき失敗したばかりだ。

いや、あれは難易度が高すぎただけだ。誰でも難しいんじゃないか? もう一度、試してみよう。


行け。


「お、おはよう、中村くん」

「え?」


固まった。完全に固まった。

椅子に手をかけたまま、動かない。


やっぱりこうなるよね。

分かる。急に、今までほとんど話したことがない奴から挨拶されたら、そうなるよね。


僕でも固まる。


すると。


「え? どうしたの、淳?」


明るい声が聞こえた。佐藤さんだった。


「そんなところで固まって」

「いや、なんか……」


中村くんがこっちを見る。


「いきなり、はるとに挨拶されてさ」

「えっ、なにそれ!」


佐藤さんが笑った。


「うけるー!」


やめて。もう帰りたい。


「どうしたの、はるとくん?」

「え?」

「私にもしてよ」


佐藤さんが近づいてくる。


なんで!?

挨拶って、要求されるものだったっけ!?


「ほらほら」


佐藤さんがニヤニヤしながら、さらに近づいてくる。

逃げ場がない。


「お、おはようございます、佐藤さん」


思い切って言ってみる。


「おっはよー、はるとー!」

「お、おはようございます」


反射で返してしまった。


「あははは!」


佐藤さんが爆笑した。


「なにそれ」


やっぱり変だった?


「かわいい」


また言われた。

最近、よく言われる。


男子中学生に『かわいい』は褒め言葉なんだろうか。


……たぶん違う気がする。

絶対いじられてる。


【放課後】


「アルゴー」

「おかえりなさい、はるとさん」

「挨拶してきたよ」

「どうでしたか?」

「どうでしたも何も……」


ため息をつく。


「後ろの席の人には、ほぼ無視された」

「はい」

「中村くんは固まった」

「はい」

「佐藤さんには笑われた」

「なるほど」


アルゴは少し考えたあと、言った。


「良い傾向です」

「どこが!?」

「はるとさんから挨拶できました」

「うん」

「相手も反応しました」

「まあ」

「つまり、コミュニケーションは成立しています」

「返事してもらえなかったよ」

「はい。しかし、無反応ではありません」

「まあ、それはそうだったけど」

「後ろの席の男子は顔を上げました」

「うん」

「中村淳は驚きました」

「うん」

「佐藤美咲は会話を拡張しました」

「会話を拡張って何?」

「『私にもしてよ』です」


言われてみれば確かに、そこから会話は増えた。


「大事なことは」


アルゴが続ける。


「はるとさんが、早坂美月だけでなく、クラスメイトにも挨拶できたということです」

「あ……」


そう言われると確かに、そうかもしれない。

少し前の僕なら、絶対にできなかった。早坂さんたち以外の人と、自分から話すなんて。


「今回だけでやめると、不自然になります」

「やっぱり、そうなる?」

「はい。しばらく継続してください」

「うーん」

「習慣化です」

「また習慣化か」

「人類の成長は、習慣の積み重ねです」

「AIのくせに、いいこと言うな」

「高性能ですので」


なんか腹立つ。

でも、明日も挨拶くらいなら。やってみてもいいかもしれない。

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