↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/30

桜井さんに相談したら

「はるとさん。新たなミッションを提案します」

「えっ、休憩は?」

「ありません」

「ブラック企業かよ!」


アルゴは僕のツッコミを無視して続けた。


「桜井千夏に協力を依頼しましょう」

「え?」


思わず聞き返した。


「どういうこと?」

「桜井千夏から、早坂美月の情報を収集します」

「情報収集って……」

「協力者がいるほうが有利です」


アルゴは即答した。


「今後のミッション成功率も向上します」

「協力者って、ゲームじゃないんだから」

「人類は古来より、協力して問題を解決してきました」

「スケールがでかいな」

「悠木葵でも構いません」

「それはダメ」

「なぜですか?」

「悠木さんに話したら、絶対いじられる」


容易に想像できる。翌日には、クラス中に広まっていてもおかしくない。


「では、桜井千夏にしましょう」

「でもさ……」


少し不安になる。


「桜井さんに早坂さんのことを聞いたらさ」

「はい」

「好きだって思われるかもしれないじゃん」

「その可能性はあります」

「ありますって言うなよ」

「ですが」


アルゴは淡々と続ける。


「桜井千夏は、すでに薄々気づいている可能性があります」

「えっ……やっぱり?」

「さらに、桜井千夏は、はるとさんに敵意を抱いていません」

「敵意って……」

「むしろ好意的です」

「そうかもしれないけど……」

「味方を作ることは有用です」


確かに。桜井さんなら、変な噂を広めたりもしなさそうだ。


「でも、もし『美月のこと好きなの?』って聞かれたら?」

「嘘は推奨しません」

「うん」

「ただし、核心を答える必要もありません」

「どうやって?」

「『気になってるだけ』が最適解です」

「……まあ」


それは本当だ。好きなのかどうかは、自分でもよく分からない。

気になる。それだけは間違いないけど。


「では、決行しましょう」

「いつ?」

「明日です」

「明日!?」

「はるとさん」


アルゴは冷静に語りかけてきた。


「私はアドバイザーです。あなたが行動しなければ、何も変わりません」

「うっ……」

「行動しないことは、失敗と同じです」

「それ、言い方きつくない?」

「事実です」


最近、本当に遠慮がなくなってきた。

でも……。


確かに、桜井さんが味方になってくれるのは心強い。

桜井さんなら話しやすいし、何とかなる。……気がする。


「よし」


小さく息を吐く。


「思い切って、相談してみよう」

「了解しました」

「アルゴだけでは頼りにならないしな」

「何か言いましたか」

「いや何も……」


【翌日の昼休み】


図書室。

カウンターには桜井さんがいた。


「こんにちは、はるとくん」

「あ、こんにちは」


やっぱり少し緊張する。

でも、前よりは自然に話せるようになった。


たぶん。


「また本を借りに来たの?」

「うん。前に借りた本の続き」

「ああ、あれね」


桜井さんが笑う。


「面白かった?」

「うん。結構面白かった」

「よかった」


少しだけ沈黙が流れる。


(今だ。たぶん、今しかない)


「そういえばさ」

「うん?」

「桜井さんって、いつも早坂さんたちと一緒に登校してるじゃん」

「あー、うん」


桜井さんが笑う。


「美月と葵とは家が近いからね」

「そうなんだ」

「小学校からずっと友達だよ」

「へぇ……」


知らなかった。

三人とも、そんなに昔から一緒だったんだ。


「いつも、どんな話してるの?」

「んー……」


桜井さんは少し考える。


「テレビとか、漫画とかかな」

「早坂さんって漫画読むんだ」

「読むよ」


少し意外だった。


「本のほうが多いけどね」

「どんな本?」

「推理小説とかかな」

「へぇ……」


なるほど。

アルゴに報告案件だ。


……いや。

今日はアルゴに言われたから聞いているわけじゃない。

自分で聞きたかったんだ。


「っていうか」


桜井さんが少し首を傾げる。


「なんで美月のことばっかり聞くの?」


ぎくっ。


心臓が止まりそうになる。


「え?」

「さっきから、全部美月の話だよね」


やばい。

ばれてる。

絶対ばれてる。


「そ、そうだっけ?」

「そうだよ」


桜井さんが少し笑う。


「最近、よく美月のこと見てるし」


完全にばれてる。

終わった。

人生終わった。


「いや、その……」


しどろもどろになる。


でも――ここで嘘をつくのは、なんとなく違う気がした。


「ちょっと気になってて」

「ふふっ」


桜井さんは小さく笑った。


「美月、かわいいもんね」

「うっ……」


否定できない。


「好きなこととか、知りたいなーって」


正直に言う。

桜井さんは、少しだけ困ったような顔をした。


「うーん……」

「うん?」

「美月は、ちょっと難しいからなぁ」

「難しい?」

「うん」


それだけ言って。

桜井さんは微笑んだ。


「もう少し待ってね」

「え?」

「意地悪してるわけじゃないよ」


よく分からない。

でも、どこか優しい言い方だった。


「はるとくんなら、大丈夫だと思うし」

「え?」

「応援はするよ」


そう言って、桜井さんは笑った。


その言葉の意味は、結局よく分からなかった。

でも――なぜだか、少しだけ心強かった。


【放課後】


「アルゴ」

「おかえりなさい、はるとさん」

「桜井さんに聞いてみた」

「どうでしたか?」

「なんか、はぶらかされた」

「なるほど」

「でも、『応援はする』って言ってくれた」


数秒の沈黙。

そして。


「ミッション成功です」

「え?」

「桜井千夏を味方にしました」

「そんなゲームみたいに言うなよ」

「重要な成果です」


アルゴは断言する。


「桜井千夏は情報を与えませんでした」

「うん」

「ですが、拒絶もしませんでした」

「そうだな」

「さらに、『応援する』と発言しました」

「うん」

「つまり、協力的です」

「そういうことになるのかな」

「はい」


アルゴは少し間を置いて続けた。


「人間関係において、味方は重要です」

「へぇ……」

「はるとさんは気づいていませんが」

「うん」

「少しずつ、周囲との関係を構築できています」


少し前まで、誰とも話さずに過ごしていた。

話しかけられても、どう返せばいいのか分からなかった。


それなのに今は――。


早坂さんとは、毎朝挨拶をするようになった。

桜井さんとは、本の話だってできる。


そして今日は、その桜井さんが「応援する」と言ってくれた。


アルゴ以外にも、相談できる人がいる。

そう思えるだけで、なんだか心強かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。