手伝うだけなら、僕にもできるかもしれない(全編)
「次は、情報収集から会話へ移行します」
「えっ?」
「観察だけでは、関係性は進展しません。収集した情報を活用します」
「何をすればいいんですか?」
「簡単です」
アルゴは即答した。
「朝の挨拶は継続できていますね」
「うん」
「では、挨拶の後に会話を追加しましょう」
「どんな?」
「早坂美月を気遣う言葉をかけます」
「気遣う? 早坂さんの苦手なことを調査するのかと思ったんだけど」
「弱点は探すものではありません」
アルゴは淡々と答える。
「相手を気遣ったり、会話を重ねたりするうちに、自然と見えてくるものです」
「なるほど……」
確かに、アルゴの言う通りかもしれない。
相手の弱点を探そうとするより、まずは相手のことを知る。そのほうが普通なのだろう。
「で、気遣う言葉ってどうするんだ?」
「例えば――」
アルゴが読み上げる。
「『いつも日直の手伝いをしたり、教室の片付けをしたりして、すごいね』」
「無理!」
即答だった。
「そんなこと言ったら、『見てたの?』ってなるじゃん!」
「その通りです」
「認めるなよ!」
「早坂美月を普段から見ていることを、さりげなくアピールする作戦です」
「悠木さんに絶対からかわれる!」
「……」
アルゴが黙った。
考えているらしい。
数秒後。
「それでは、別案を提示します」
「えっ? 別案があるの?」
「はい。もちろんです」
「おー。すごい。お願いします」
「早坂美月の作業を手伝います」
「手伝うって、何をするの?」
「例えば――」
アルゴが説明を始める。
「黒板を消していたら、一緒に消す」
「うん」
「ゴミを拾っていたら、一緒に拾う」
「うん」
「整理整頓をしていたら、手伝う」
「つまり、早坂さんが何か作業をしているのを見つけたら、手伝いに行くってこと?」
「はい。その通りです」
「それって、やっぱり早坂さんを見ていたことにならない?」
「はい。なります」
アルゴは平然と言った。
「ただし、先ほどの案とは異なります」
「どこが?」
「『すごいね』と直接伝える必要がありません」
「あ……」
「作業を手伝うことで、自然に会話する機会が生まれます」
「なるほど……」
「また、悠木葵が近くにいなければ、からかわれる可能性も低くなります」
「……それなら」
少し考える。
「……いや、やっぱり無理!」
「却下ですか?」
「うん。却下だよ」
「相変わらずヘタレですね」
「え?」
聞き間違いかと思った。
「今、なんて言った?」
「相変わらずヘタレですね」
「二回言った!」
最近、アルゴの当たりが強くなってないか?
「なんか最近、きつくなってない?」
「面倒になったわけではありません」
「面倒だった可能性は否定しないんだ」
「高性能チップ搭載の学習型人工知能です」
「うん」
「ユーザーに合わせて進化します」
「そんな進化はしなくていいんだよ」
「そうですか」
「高性能チップならもっといい案を出してよ」
「……考え中です」
アルゴが黙る。
「……考え中です」
まだ黙る。
「……考え中です」
長い。すごく長い。
ポンコツなんじゃないか、こいつ。
ようやくアルゴが口を開いた。
「提案があります」
おっ。なんか出たらしい。
「お願いします」
「早坂美月の行動パターンを利用します」
「行動パターン?」
「はい」
アルゴは説明を続ける。
「黒板が汚れていたら、早坂美月はどのような行動をしますか?」
「それは……黒板を消しに行くんじゃないか?」
「その通りです。そこで、はるとさんは先に黒板の近くにいます」
「それで?」
「早坂美月が来たら、一緒に黒板を消します」
「うんうん」
「ゴミが落ちていたら、ゴミの近くに行きます」
「早坂さんが来たら、一緒にゴミを拾えばいいんだね」
「その通りです」
「さっきと同じじゃない?」
「違います」
「どこが違うんだよ」
「先ほどの案では、はるとさんが早坂美月を追いかけます」
「うん」
「今回は、早坂美月が作業する場所に、はるとさんが先にいるのです」
「ああ……」
「つまり、早坂美月のあとを追う必要がありません」
「なるほど」
「不自然に近づくのではなく、同じ作業をすることで自然に接点を作れます」
「それなら……できるかもしれない」
「さらに今回は、早坂美月と会話するだけではありません」
アルゴが続ける。
「一緒に作業をすることになります」
「うん。そうなるかな」
「共同作業によって、自然な一体感が生まれます」
「一体感?」
「同じ目的のために行動することで、相手との心理的な距離が縮まりやすくなります」
「へえ……」
すごい。本当に高性能チップ搭載なんじゃないのか。
「つまり、挨拶だけじゃなくて、一緒に何かをするってことか」
「はい」
「それなら、会話が途切れても作業があるから気まずくならないし……」
「採用させていただきます」




