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11/30

観察してみたら、早坂さんのことが少し分かった

情報収集か。

アルゴによると、『早坂美月を周辺視野で観察してください』らしい。


いや。そんな高度な技術、中学生に求める?


とりあえず、やってみる。


ちらっ。

早坂さん。


ちらっ。

早坂さん。


うん。無理だ。どうしても見てしまう。

そのときだった。


「はると、さっきから何してるの?」


やばい。悠木さんだ。


「え?」

「なんか目が血走ってるよ?」

「ち、血走ってないよ!」

「血走ってるって」

「血走ってない!」

「ふーん」


悠木さんがニヤニヤしている。

やばい。完全に怪しいやつになってる。


気づかれないようにしないと。

今度は自然に。教室全体を見渡す感じで――。


ちらっ。

早坂さん。


ちらっ。

早坂さん。


うん。やっぱり無理だ。

授業中なら大丈夫か。


……いや、ダメだ。

みんな前を向いているのに、僕だけ横を見ている。

完全に不審者である。


数時間後。


「はると」


また来た。


「今日、やっぱりキョロキョロしてない?」

「してないよ」

「してるよね?」

「してない」

「絶対してる」


まずい。追及モードに入ってる。


すると――。


「葵ちゃん、何してるの?」


桜井さんがやって来た。

助かった。救世主だ。


「千夏ちゃん」


悠木さんが言う。


「なんか今日のはると、変なんだよ」

「べ、別に変じゃないよ」

「そう?」


桜井さんが首を傾げる。

そして――。


「あ、そうだ」


何か思い出したように言った。


「はるとくん。この前借りた本、どうだった?」

「あ、読んでるよ」

「面白かった?」

「うん。思ったより面白かった」

「よかった」


桜井さんが少し笑う。


「続きもあるから、今度借りてみる?」

「借りる、借りる」

「何の話?」


悠木さんが聞く。


「本の話」

「へー」


その瞬間、僕は心の中でガッツポーズした。

助かった。本当に助かった。


……だが、このミッションは無理じゃないか?

いや。アルゴは前にも言っていた。毎日続けることが大事だとか、なんとか。


もう少し続けてみようか。


【数日後】


「はるとさん。おかえりなさい」

「あ、アルゴ。ただいま」

「情報収集の状況はどうですか?」

「あ、うん。まあまあかな」

「『まあまあ』では判断できません。詳細に説明してください」


うん。


「最初はうまくできなくて、悠木さんに不審がられたんだけど……」

「はい」

「あきらめずに続けていたら、あまり視線を動かさずにできるようになってきて、少しわかったことがあるんだ」

「はい。収集結果を報告してください」


なんかスパイみたいだな。


「早坂さんって、すごく周りを見てるんだよ」

「具体的には?」

「日直が黒板を消し忘れてたら、代わりに消してたり」

「はい」

「掲示物が剥がれかけてたら、貼り直してたり」

「はい」

「棚が散らかってたら、整理してたり」


アルゴが少し考える。


「なるほど」

「あと――」

「はい」

「桜井さんや悠木さんだけじゃなくて、誰とでも話してる」

「誰とでも?」

「うん」

「男子とも?」

「話してる」

「興味深いですね」


アルゴの分析モードが始まった。


「たださ」

「はい」

「男子と話してるときは、少し違う気がした」

「違う?」

「なんて言うんだろ」


少し考える。


「距離を取ってるというか……」

「警戒している?」

「そう。警戒してるというか、一歩引いてる感じ?」

「なるほど」

「でも、前山良助とは普通に話してた」


アルゴがすぐに反応した。


「前山良助。サッカー部の生徒ですね」

「知ってるの?」

「はい。クラスでも人気があります」


やっぱりか。なんとなく、そんな気はしていた。


「やっぱりさ……」


思わずため息が出る。


「早坂さんも、ああいうやつが好きなんだろうな」


前山は明るい。友達も多い。サッカーもできる。どう考えても主人公タイプだ。

それに比べて僕は――モブですらない。背景その一くらいだ。


すると、アルゴが言った。


「それは分かりません」

「え?」

「人気があることと、好意を持つことは別です」

「そうなの?」

「はい」


アルゴは続ける。


「人は、外から見える情報だけでは判断できません」

「まあ、そうか」

「また、はるとさんは前山良助の長所ばかり見ています」

「だって、長所しかないじゃん」

「そんなことはありません」


即答だった。


「人間に完璧な人はいません」

「でもさ……」


今日の観察結果を思い出す。

早坂さんはどうなんだろう。


「早坂さんって、誰にでも優しいし。気も利くし。話もできるし……」


少し考える。


「……なんか完璧すぎない?」


少し沈黙。

そして、アルゴが答えた。


「完璧ではありません」

「そうかな」

「きっと苦手なこともあります」

「苦手なこと?」

「はい。弱さや苦手な部分を知ることは、相手を理解することにつながります」

「なるほど」

「人は完璧だから親しくなるのではありません」

「うん」

「不完全だからこそ、親しくなれるのです」


少しだけ、その言葉が頭に残った。


完璧に見える早坂さんにも、苦手なことがあるのだろうか。

もしあるのなら――僕にも何かできることがあるのかもしれない。


……まあ、今の僕には何も思いつかないけど。


「次のミッションです」


アルゴが言う。


「もう?」

「はい」

「ちょっと休ませてくれない?」

「休息は重要です」

「おお」

「ですが――」

「ですが?」

「休息は次のミッション後に実行します」

「結局やるのかよ!」

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