前起2
前起2
「お昼一緒に食べない?」
「え…?う、うん。」
高倉詩織は自分の席の椅子を美月の席まで寄せて座ると、自身のバッグから、オレンジ色の生地にペイズリー柄が印字されたハンカチで包まれているお弁当を取り出し、美月の机に置いた。
入学してから昨日までは、一人でお弁当を食べる空気に緊張していたが、初めてクラスメイトと食べる昼食は、それ以上に緊張した。
「私もほんとは黒が欲しかったんだよね」
お弁当箱からコーンコロッケを箸で持ち上げ、一口で頬張ると、その箸で美月の筆箱にぶら下がったキーホルダーを指しながら、コーンコロッケを噛みつつ話した。
貴族の風貌でワイングラスを持ったキーホルダー、【猫男爵】は、女子中高生の間でブームになるほど売れているわけでもない。
表情に可愛げがないため、一世風靡するほどのポテンシャルは感じなかった。だからこそ、アウトローなその立ち位置に、思わず手に取ってしまう女子中高生も一部存在した。
「そうなんだぁ。でもバッグに入れてたりするとぶつかっちゃうのかな。色落ちてきちゃって」
刻んだ海苔と黄色のつぶつぶのふりかけがかかったご飯を口に入れると、一旦箸を置き、美月は筆箱にぶら下がった男爵の後頭部を詩織に見せた。
「ここ色が取れちゃって、油性ペンで上塗りしてるの」
パッと見ではわからないが、美月の男爵の後頭部は、身体の色とは若干違っていた。
「ほんとだぁ。うちのパパとハゲかた一緒じゃん」
ご飯を食べ終えたあとも、詩織はなんとなくその場に居座り、二人は話し続けた。中学のこと、部活のこと、学校のトイレが綺麗なこと。
「今日、学校の帰りに何人かでカラオケ行こっかって話してるんだけど、篠崎さんもどう?」
チャイムが鳴る直前、まわりの生徒が席に戻り始め、休み時間が終わる空気が教室に漂う中、椅子を戻しながら詩織は美月をカラオケに誘った。
「えっ?」
予想外の誘いに美月は驚き、弁当箱の片付けを止めた。誘われたことはもちろん、詩織の誘い方があまりに気さくで、「今日は天気いいね」くらい自然な流れだったことに驚きを隠せなかった。
「あれ?なんか予定あった?」
「ううん。私、行って大丈夫なの?」
「んー、わかんない。まぁ変な空気になったら二人でサーティワンのアイス食べに行こ」
「あ!私バニラ好き」
「えー!わざわざサーティワンでバニラ食べる人初めてだよ〜。サーティワンなんだからポッピングシャワーとか行こうよ」
「でもバニラも美味しいよ。レディボーデンみたいで」
「だったらスーパー行ってレディボーデン買って食べなさい」
詩織の正論に、美月は頬を膨らませた。
「今日はバニラ禁止ね。お姉さんが美味しいフレーバーを一緒に選んであげるから」
「はーい」
放課後、教室では緊急会議が開かれた。詩織からカラオケ参加予定者全員に、美月がサーティワンでよくバニラを食べることが報告される。
結果、カラオケは中止となり、全員でサーティワンへ直行。各自、美月へバニラ以外のフレーバーをプレゼンし、美月は初めてサーティワンのチョコミントを食べた。
「チョコミントもまあまあ無難なんだからね。全然冒険じゃないからね」
自分のプレゼンしたフレーバーが選ばれず不満げな詩織。自分のポッピングシャワーを一口、美月に食べさせた。




