前起3
前起3
みんなでサーティワンに行って以来、話し相手が徐々に増え、美月は学校生活を楽しめるようになっていった。
休み時間にふざけ合い、お昼ご飯はみんなで一緒にお弁当を食べる。
「最初さぁ、美月ちゃんっていつも一人で窓の外見てたから、話しかけづらかったよね〜」
「そうそう。『私はあなたたちとは関わりません』オーラ出てたよね」
美月の人見知りは、クラスメイトに別の印象を与え、知らず知らずのうちに距離を生んでいたことを、このとき初めて知った。
「えー、そんなつもりないよ〜」
知っている人が一人もいなくて、みんなの輪に入りづらかったこと、自分はそんなクールなタイプではないことを美月は説明した。
「うん。それはもうバレてる」
「え!?」
謙遜のつもりで言った言葉は、詩織に即座に肯定された。
「確かに〜。サーティワンの帰り道で違うって気づいたね」
ほかのクラスメイトも詩織に同調する。
「天然の成分が配合されてるよね」
「わかる〜。微天然? 主成分じゃないから、しつこくなくて口当たりいいよね」
「え!? なに!? ちょっと!」
詩織が口火を切ると、堰を切ったようにみんなが美月をいじり始めた。
言い返せない美月は、卵焼きを口に運んだ箸をくわえたまま眉間に皺を寄せ、いじりが終わるのを待つしかなかった。
それ以降、美月と詩織はたくさんの時間を共に過ごした。
「篠崎さん」と「高倉さん」だった呼び方は、やがて「美月ちゃん」「詩織ちゃん」になり、さらに時が経つと、お互いを「美月」「詩織」と呼び捨てで呼び合うようになった。
高校を卒業し、それぞれ別の大学へ進学したあとも、就職したあとも、二人はたびたび会って近況を語り合った。
口に出すことはなかったが、お互いに一番の友達であることは疑いようがなかった。
その親友、詩織の裏切り。
悪いのは、きっと本多なのだろう。
あらゆる策を弄し、詩織をそそのかしたに違いない――そう思いながらも、簡単には割り切れなかった。
断りきれなかった詩織を、どうしても許せなかった。
雑念で仕事が手につかない。
仕事に集中できない苛立ちと、解決の糸口が見えない浮気問題が絡み合い、押し殺したため息が口から漏れる。
そのとき、美月のスマホが鳴った。
LINEにメッセージが届いたようだ。
送り主は姉の陽菜だった。
開いてみると、脈絡もなく猫のスタンプが送られてきていた。
そのあとに続いたメッセージは、
「猫に会わせなさい。週末行っていい?」
という一文だった。
美月はオーケーのスタンプを返す。最近お気に入りの、エジプトの壁画風スタンプだ。
「エジプト、ウケる」
陽菜からすぐに返信が届き、二人は週末に会う日程を調整した。
一人でいると、どうしても本多と詩織のことを考えてしまう。
だから今の美月にとって、陽菜が来てくれることはありがたかった。




