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未結3


未結3


本多はチーズ蒸しパンを食べ始めた。

袋を開け、一口大にちぎり、口に入れる。

本多の部屋。物は少なく、全体としては整って見える。だが仕事場であるPC周りだけは別だった。本や資料、印刷された論文が無造作に積み重なっている。

PCの前の椅子に腰掛ける。少し前に電源を入れていた画面は、サインイン待ちの状態になっていた。IDとパスワードを入力し、デスクトップが開く。

そばにはペットショップの店員――白石梓がいた。


本多が手渡したマグカップを、梓は両手で包むように持ち、太ももの上に置いている。

本多は蒸しパンを机に置き、マグカップに手を伸ばし、中のコーヒーを一口飲む。

「データの圧縮ってさ、可逆圧縮と非可逆圧縮があるんだ」


梓に向かって、本多が話し始める。


「圧縮しても復元できる…元に戻せるのが可逆。大まかな内容は保てるけど、圧縮時に情報を削るから完全には戻せないのが非可逆」


「はぁ…」

梓は一言だけ相づちを打った。本多の説明に興味がないことは明らかだった。


「一見、可逆のほうが良さそうに聞こえる。でも元に戻すための情報を持ち続けるから、圧縮率は低い。非可逆は削ぎ落とすぶん、圧縮率は高い。」


蒸しパンを再び手に取り、親指と人差し指でぎゅっと潰して梓に見せた。


「企業にとってはね、データ保存のコストが大問題なんだよね。データ保存って大量の電気使うから、少しでもコストを抑えたいけど、セキュリティ性が高くなきゃいけない。安かろう悪かろうってわけにはいかない。」


コーヒーを一口。


「いま俺は圧縮率を上げる研究をしてる。上司からは“とにかく圧縮率上げろ”って。それはそれでいろいろ試してはいるんだけど、でもやっぱり限界があるよね。だから、それとは別にほかの方法も進めてたんだ。ごめんね。もうちょっとだけ時間ちょうだい」


キレイな顔立ちで作られた笑顔であっても、興味のないことは明らかな梓に、本多は説明を続ける。


「視点を変えてみた。圧縮じゃなくて――分解できないかって」


本多の声が少しだけ低くなる。


「データを最小単位まで分解する。画像なら色や配置。動画なら画像はもちろん音声や流れる順序。文書なら文字の配列。実際はもっと複雑な話だけど、媒体ごとに要素を解析して、記録する。

言ってみれば設計図を作る感じかな。復元用の設計図さえあれば、元データは消していい。

設計図自体もデータじゃないかって思うよね。でも、それも分解対象にしてしまえばいい。圧縮よりずっと少ない容量で済む」


本多の説明は続く。


「全国のデータセンターは莫大な電力を使ってる。データが減れば、消費電力も減る。分解された設計図は、復元しなければ何の意味もない…ただの文字の羅列。盗まれたところでデータが流出することはない。セキュリティ上の問題もない。実現すればデータ保存の根底を覆す」


その瞬間、梓を見る本多の目つきが鋭くなった。

しかしそれは本当に一瞬であり、本多は梓を見ながら口角を上げた。


「…実は成功しちゃったんだよね〜この分解と復元」


「へぇ。すごいですね」

話の内容としては興味は薄いものの、実現したことの大変さは梓でも理解していた。


「口で言うほど簡単じゃないけどね。半分は偶然。でも三年はかかったかな」


「良かったですね」

梓が興味がないことは本多もわかっていた。ただ、本多にとって、【本題】はここからであり、ほんのわずか前のめりになる。


「でね、なんで梓ちゃんにこんな話をしてるかっていうと……」

本多は勿体つけたように言う。


「この分解と復元…副産物があるんだ」


一瞬の間。

部屋の空気が、わずかに変わる。


「データ保存以外の使い道があってさ、それを梓ちゃんに見てほしくて来てもらったんだ」


本多はマグカップを机に置き、マウスに持ち替え、PCを操作した。



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