優雅?な紅茶タイム
「苦い……」
私は、自分で淹れた紅茶を飲んで呟いた。
「そりゃ、そんだけ濃ければそうなりますよ……」
隣の席に座っていた、栗色の髪をおさげにした少女が引き気味に言う。失礼な。
(ここの雰囲気は優雅でいいんだけどな)
木漏れ日のもと、白いテーブルの上で優美な柄が描かれたティーセットが輝いている。
私は今、学園の庭園で紅茶を嗜んでいる。
サボりではない。お茶会の授業だからだ。
大人になる前の予行演習として、お茶会の雰囲気を感じる授業らしい。
実態は、ただクラスメイト達とお茶を飲んで休憩しているだけだ。先生すらいない。
私はもう一度、カップの中の紅茶を見た。
カップの中の液体は、もはや紅茶というより黒い何かだった。罰ゲームを受けている気分になる。
「なんでこうなるかな」
茶葉の量も蒸らす時間も、言われた通りにやっているつもりなのに。
私は自分に言い聞かせるように言う。
「まあ、濃い方が香りはいいからね」
「いや、限度がありますから」
隣の少女が即座に返す。
「……」
私は気分を変えるように紅茶を一口飲んだ。強烈な苦味に、思わずむせそうになる。
「そんな顔をしてまで飲む必要があるのか、それは」
顔を顰めていると、上から声がかかった。顔を上げると、怪訝な顔をしたセドリックが立っている。
「……王子」
「それは紅茶か? 泥水ではなく?」
「失礼な。ちゃんと茶葉から淹れましたよ」
「ではなぜこんな色になる」
セドリックが私のカップを覗き込む。
「私が聞きたい」
隣の少女も小さく頷いた。
「私も聞きたいです」
セドリックは呆れたように言う。
「どうせこれも、昨日の祈りのように雑に淹れたのだろう」
全くこの男は。私をなんだと思ってるんだ。
「そう言う王子様は、さぞ完璧な紅茶を淹れられるんでしょうね」
セドリックは一瞬むっとしたように黙った。
セドリックが紅茶を淹れているところなんて見たことがない。いつも先回りして誰かが淹れている。
どうせそんなに、紅茶を淹れた経験なんてないだろう。
しかし——
「いいだろう。貸せ」
セドリックは、栗色の髪の少女とは反対側の、空いていた私の隣の席に座り、ポットを引き寄せる。
私は思わずセドリックの手元を凝視した。
セドリックは紅茶箱から茶葉を取り出し、滑らかにポットへ入れる。そして、お湯を高い位置から迷いなく注ぎ入れ、蓋をした。
「……随分手慣れてますね」
「お茶会での作法は一通り習得している。もちろん、ホストとして紅茶を淹れることもだ」
「王族で、紅茶を淹れる機会なんてなさそうなのに」
「何があるかわからないからな。王族は、貴族がやらなければならないことも全て教育される。王族が無様な姿を晒すわけにはいくまい」
私も元王族だが、教育は王族として必要なものだけだった。この国に比べれば小さい国だったし、緩かったんだろうな。
セドリックがポットを手に取った。琥珀色の液体がカップに注がれる。
「ほら。飲め」
セドリックがカップをこちらへ寄越す。
「……いただきます」
華やかで甘い香りが、鼻の奥いっぱいに広がる。
(ちっ。……めちゃくちゃ美味しい。)
セドリックがこちらを見ている。
感想でも待っているのだろうか。
「どうだ」
「……飲めなくはないですね」
「その顔でよく言うな」
どんな顔をしていると言うのだ。
「美味しいって顔に出てますよ」
隣の少女が、こっそり答えを教えてくれた。
「気のせいだよ」
「素直に褒めればいいものを」
セドリックが呆れたように言う。
「だから、美味しいなんて思ってないですから」
「いいや、絶対思っていた」
「思ってません」
セドリックとの舌戦を繰り広げていた、その時。
「あらまあ、楽しそうなお茶会ですこと」
甘ったるい声が聞こえた。




