洗濯魔法完成
結局、イルはしぶしぶ自分の上着を差し出した。
「絶対変なことになる……!」
「大丈夫だって」
私は、顔を覆って嘆いているイルの肩をぽんと叩いた。
「じゃあ起動するぞ」
ハルが魔力を流し込む。
その瞬間。
タライの中の水が渦を巻き、イルの服が水と一緒にぐるぐると回り始めた。
「おお」
いい感じだった。
最初は。
「……ん?」
服の袖が、水と一緒ににゅるりと飛び出してきた。
「え?」
次の瞬間。
——べちっ!
ハルの顔に袖が直撃する。
「あだっ!」
同時に、水をまとった制服がイルに纏わりついた。
「え? ちょっ! なんで俺?! 冷たっ!」
「あー、拘束魔法の効果が服に出ちゃったのかな」
私は魔法陣を覗き込む。
「直さないといけないのは……ここ?」
「ここもじゃないか? 対象指定の方にも影響出てるだろ」
タオルで顔を拭きながら、ハルが魔法陣を指差す。
あ、それ、昨日床を拭いたタオルなんだけど。
「いや、魔法陣を直す前に! 魔法を止めて!」
水と服に捕まったまま、イルが叫ぶ。
「あ、確かに。ここもだね。……ハル兄、勘いいね」
「だろ?」
「領主になっても鈍ってないんだ」
「でも魔法の複雑さは、もうディアに敵わないな」
「ふふん、そうかもね」
「だから褒め合いする前に助けてくださいって!!」
イルが後ろでぴょこぴょこしている。
イルは盛大なため息をついてから、腕に力を入れた。
——バシャン!
イルを拘束していた水と服が弾け飛ぶ。
私はびっくりしてイルを見る。
「拘束魔法を力で解く人、初めて見た」
「いや、あなた達が解いてくれないからでしょう!」
その後も、回転速度が速すぎてボタンが吹き飛んだり。泡が増えすぎて洗濯場が埋まったり。乾燥機能をつけようとして服が燃えたり。
いろいろ失敗はあったけれど、試行錯誤して、ようやく。
「……できた」
タライの中では、水流が静かに回転している。
私は水流に入れていた制服を持ち上げた。
「やった。ちゃんと綺麗になってる」
「本当に完成させるとは……」
イルが疲れ切った顔で呟いた。
ハルがイルの背中をバシンと叩く。
「俺たち、天才だな!」
「その天才のせいで、俺の服が三回燃えたんですけど」
イルが間髪入れずに言い返す。
私は静かに頷いた。
「これで洗濯しなくて済む」
「だから洗濯はしてるんですって!!」




