一儲け?
「ん〜っ!」
私はお茶会の場所から少し離れたところで伸びをした。
開放感も相まって、空気が美味い。
お茶会は、イライザは扇子の奥から睨んでくるし、セシルは意味がわからなさすぎて怖いし、抜け出せて本当によかった。
たとえ制服が汚れようとも。自由でのびのびできる方が大事だ。
(でも、グランヴィルって名前聞いたことある気がするんだよな〜。)
セシル・グランヴィル。
シルヴェリア国の元貴族だったのかな?
(うーむ。いたっけ?そんな名前で、黒髪の貴族。)
どう頑張っても思い出せない。
「あの……」
私がもの思いに耽っていると横から声をかけられた。
「ん? ……何ですか?」
「申し遅れました。わたし、モニカ・マーシェントと申します」
栗色の髪の少女がぺこりと頭を下げる。
「そういえば言ってませんでしたね。クラウディア・シルヴェリアです」
「存じ上げております」
モニカは間髪入れず答える。
「え?」
「学園で知らない人はいないと思いますよ」
……複雑な気分だ。
「わたし、商家の娘で、貴族ではありませんので、敬語は必要ありませんよ」
「そう? じゃあ、私にも敬語はなくていいよ」
「いえいえ、そういう訳にはいきませんので」
モニカはぶんぶんと首を振る。
(本当になくていいんだけど。)
「さっきは話し合わせてくれてありがとうね」
「いえ。私も、あそこは窮屈でしたので、こうして出れて、ほっとしました」
そう言いながら、モニカは扉を見て立ち止まった。
「あ、ここですね、医務室」
そういえば、ここに向かっていたんだった。
モニカが医務室の扉をノックする。
「……校医の先生、いないんでしょうか」
中から返事が返ってこない。
「かもね。開けてみよ」
私は扉を開けて、中を覗いた。
「誰もいないね」
そう言いながら私は中に入る。
「そうですね。……先生がいらっしゃらないと替えの制服の場所もわからないですし、困りましたね」
モニカが眉を寄せてうーん、と唸った。
巻き込まれただけなのに、真面目に悩んでくれている。いい子だな。
「貸してもらえなくても大丈夫だよ」
「え?」
そう言って私は制服の上着を脱ぐ。
「ちょっ?!クラウディア様?!何してるんですか!」
下も脱ぐと思ったのか、モニカは慌てふためき、医務室の鍵を内から閉めた。
「男子生徒が入ってくるかもしれないんですよ! なんで急に脱ぐんですか!」
「最近、開発したの。洗濯魔法」
「へ?」
あの実験の後、さらに魔法陣を改良した。もうタライすら必要ない。
魔法陣を描けば、汚れた服をその場で洗えるはずだ。
「洗濯魔法って、なんですか?」
モニカはこてん、と首を傾げて言う。
「まあ見てて」
私はその場に魔法陣を手早く描いた。
制服を置くと、魔法陣が淡く光る。
次の瞬間。
魔法陣から水が溢れ、制服が水に包まれる。
「……っ!」
モニカが、小さく息を呑んだ。
水は、流れていかずに、つるんと丸く、楕円体のような形でその場でとどまっている。
すぐに、水の中で制服がぐるぐると回り出した。
「……不思議。水の中に、泡がたくさん」
「これは石鹸の泡だね」
モニカの呟きに私は答える。
しばらく見ていると、次第に水が魔法陣に引き始める。
「お、成功成功」
水が完全に魔法陣に吸い込まれると、今度は魔法陣から熱風が出てくる。風で制服が浮かび上がった。
空中で制服が舞い踊る様は、奇妙で少し面白い。
やがて、それも終わり、制服が下に落ちて、魔法陣の光が消える。
私は制服を拾い上げ、汚れの痕を確認した。
「うん、汚れ取れてるね」
「……」
モニカは光の消えた魔法陣を凝視したまま、しばらく黙っていた。
私は制服を羽織る。
「……クラウディア様」
「ん?」
「これ、一回いくらですか?」
「え? タダだけど」
お金なんて使ってないけど。
モニカは目を見開き、ダンッと音を立てて踏み込み、距離をつめてくる。
(ちかっ!)
私は思わずのけぞった。
「魔石代は?」
「? ……魔石使ってないよ。見てたでしょ」
「本当に使ってないんですか?こんなに魔力が必要そうな魔法で?」
「うん。攻撃魔法より効率いいから魔力量は少なくて済むよ」
「人件費は?」
「人件費?」
一体何の話だ。
モニカの視線が、魔法陣と私の制服を行き来する。
「洗う時間は数分。水も不要。魔石も不要……」
「え?」
「しかも強力な汚れが落ちる」
モニカはぶつぶつと呟きながら指を折る。
「……」
「……」
俯いてしばらく黙り込んだかと思うと、モニカは顔を勢いよく上げた。
「クラウディア様!」
「な、何?」
モニカが私の両手をガシッとつかむ。
「これ、一儲けできますよッ!」




