第45話 やっぱり目立ちます
私は約一年ぶりに王都に戻ってきました。
本当は戻るつもりはなかったのですが、ルーチェが無事に学園に入学することができるとなれば話は別です。姉としてきちんとお祝いをしてあげるべきだと思うのですよ。
「レイチェル・ウィルソン……。ああ、あの魔法学園に落ちたという公爵令嬢か」
「あら、やっぱり知られてしまっていますか」
「ああ、隠していても学園に通っていないことが分かれば、すぐに広まるからな。特に御婦人方は噂話が好きだからな」
王都の門番と話をしています。
「それはそうと、今は何をしているんだ。これ、商業ギルドのギルド証じゃないか」
「ふふっ、商業ギルドに所属したこと以外は内緒ですわよ。まだ、人に教える時ではありませんわ」
「いや、ラッシュバードに乗っている時点で、隠し事も何もないと思うけどな。先日もアマリス王女殿下が乗ってらしたから、ものすごく目立っていたぞ」
そういえばそうでした。
アマリス様はハンナと一緒に、ラッシュバードに乗って戻られたのですわ。
「いやあ、これだけ人に懐いているラッシュバードというのは初めて見るよ。どうやって手懐けたんですかね」
門番がスピードに触ろうとします。
「ブフェエッ!」
「うわっと」
触られることを嫌ったのか、門番を威嚇しています。
「ごめんなさい。私たち以外に触れられることを嫌がっているみたいでして」
「そ、そうか。アマリス様の乗られていたラッシュバードには、おそれ多くて触れなかったからな。はあ、やっぱりダメか」
なんとも残念そうにする門番を見かねて、私はスピードに少しだけ触らせてあげるように声をかけてみます。少し嫌そうな顔をしましたが、私が頼むのならと我慢してくれるみたいです。
「触っていいそうですよ。でも、多分ひと撫でくらいしか無理だと思います。すごく嫌そうですからね」
「ありがてえ……。見た感じのふわふわ感がたまらなくてよ、触りたくて仕方なかったんだ。……おお、ふわふわだ」
門番が羽に触れると、うっとりした表情を浮かべています。よっぽどなのでしょうね。
しかし、少しするとスピードは門番の頭を突こうとして、頭を動かし始めます。
「もうダメみたいですね。離れて下さい」
「そうか。だが、思った以上にふわふわでよかったよ。お代はいいんで、お通り下さい」
通常、王都に入ろうとすると入場料のようなものを取られるのですが、私はまだ公爵令嬢という立場なので免除してくれるみたいですね。
とまぁ、予想外に門番に捕まってしまいましたが、私は無事に王都に入れたのでした。
王都の中を公爵邸に向けて移動しますが、ラッシュバードはさすがに目立ってしまいますね。
周りから視線が集まって仕方ありません。
「レチェ様、大丈夫でしょうかね」
「アマリス様が乗ってらしたこともあるので、大丈夫でしょう。冒険者ギルドでもらった従魔の輪もありますし」
不安そうにするイリスに対して、私は実に堂々としています。
何でしょうかね。魔法学園に落ちたことで何か吹っ切れたんだと思いますよ。
しばらくすると、懐かしい門構えが見えてきました。
そう、目の前に見えるお屋敷こそ、王都のウィルソン公爵邸なのです。やはり大きいですね。
門番が槍を構えているのが見えますね。
ラッシュバードが目に入ったので、警戒態勢を取っているようです。先触れもしませんでしたから、仕方ない反応ですかね。
「みなさーん!」
武器を構えられたままは困りますから、私は門番に向かって声をかけます。
「こ、この声はレイチェルお嬢様!?」
構えが解けて動揺が広がっていますね。
なので、私は今度はラッシュバードの上から思い切って手を振ります。
「ただいま戻りました」
門番までかなり近づいたところでラッシュバードを止め、私とイリスは地面に降り立ちます。
畑作業で少し焼けてしまいましたが、門番たちにははっきりと分かるはずです。
「れ、レイチェルお嬢様。お、おい。公爵様にすぐお伝えするんだ」
「はい!」
やっぱり騒ぎになりますね。
門番の一人が慌てて屋敷の中へと走っていきました。
「レイチェルお嬢様、よくご無事で」
「私は元気ですよ。ねえ、イリス」
「はい、レチェ……ではありませんね。お嬢様はとても元気でいらっしゃいます」
家に戻って来たから、イリスはお嬢様呼びに戻していますね。
「そうでしたか。どうして突然お戻りになられたのですか?」
門番が不思議そうに聞いてきます。
家の中には通してくれないのですね。まあ、公爵領で療養扱いだからそうなのでしょうけれど。
外だとラッシュバードで目立つからさっさと入れてほしいのですけれどね。
「レイチェルお嬢様、公爵様がお呼びです。どうぞお入り下さい」
報告に行っていた門番が戻ってきまして、ようやく中に入れるようです。
ですが、ラッシュバードは家の中には入れません。入れても庭園までです。
「スピード、スター。ここでちょっと待っていてね」
「ブフェ」
いつもは馬の世話をしている使用人に二羽を預けて、私は屋敷の中へと入っていく。
約一年ぶりとなる公爵邸。
お父様たちはどんな気持ちで私を出迎えてくれるのでしょうか。
……緊張の一瞬です。




