第46話 久しぶりの我が家
お父様たちはお父様の部屋に集まっているとのことです。私たちはしばらく待たされたのち、ゆっくりと案内されます。
自分の家のはずなのに、なんなのでしょうかね、この緊張感は。
部屋の扉の前に立って、使用人が扉を叩く。
「旦那様、レイチェルお嬢様をお連れしました」
「うむ、入ってよいぞ」
緊張の一瞬がやってきました。
執事が扉を開けて、私の目の前にお父様たちの姿が見えてきました。
約一年ぶりの再会です。
「入ってきなさい、レイチェル」
「失礼致します」
令嬢らしくきちんとした作法で、私は部屋の中へと入っていきます。
正面にはお父様が。その両隣にはお母様と……ルーチェですよね?
私はルーチェを見た瞬間に、誰だか一瞬分かりませんでした。
えっと、一年で成長し過ぎではないでしょうか?
「どうしたのだ、レイチェル」
固まっている私に、お父様が声をかけてきます。
「だから言ったのです、お父様。お姉様は一瞬私が分からなくなるって」
ああ、声を聞けば確かにルーチェです。
一年間で、背も胸も大きくなりましたね……。
私は自分の体に視線を落として、ついルーチェと比べてしまいます。悪いですわね、どうせ絶壁ですよ。
「ただいま戻りました。お父様、お母様。それと、合格おめでとう、ルーチェ」
「うむ、よく戻ったな、レイチェル」
「ありがとうございます、お姉様」
戸惑いから回復した私は、どうにか普通に挨拶をします。
「レイチェル、一応報告は受けているぞ。お前の作った野菜はかなり評判がいいらしいな」
「はい。でも、それはノームたちのおかげです」
「ノーム?」
お父様から確認されましたが、自分だけの力ではないと答えておきます。やはり、土の精霊ノームの力が大きいですからね。
「それでしたら、私がアマリス様からお聞きしました。これくらいの見た目がもぐらとかいう小動物によく似た存在なんだそうです」
「それは、王女殿下も見えてらっしゃるということか?」
「はい、アマリス様はそう仰られておりました」
お父様が絶句しておりますわね。
精霊が見えるだけでも珍しいですし、友好関係になって使役できるとなれば、なおさらです。
「……なぜ、試験に落ちたのだ?」
「私が知りとうございます」
お父様の言葉に、私は静かに即答しておきました。
勉強不足な部分はあったでしょうけれど、改めて自分が落ちた理由がさっぱり分かりません。
「まあいい。改めて問うが、なにゆえに戻って来たのだ? もうこちらには戻ってこないつもりではなかったのかな?」
お父様から理由を尋ねられています。
なので、私は理由を正直に話すことにします。
「アマリス様とルーチェが、無事に魔法学園に入学できると聞きまして、合格祝いをしに戻って来たのです」
「お姉様……。大変でしょうに、わざわざ私たちのためにですか?」
ルーチェが驚いていますが、私は首を縦に振っておきます。
「それで、お祝いとしてお菓子を作ってきたんです。将来的にはゆったりと食事できる場所も提供したいですので、その一歩ですね」
私はイリスに持たせていた箱を受け取ります。
土魔法でこしらえた箱ですので、なんとも高級感なんてものはないですけれどね。
「自分のところで採れた小麦と、近くの街で仕入れたミルクを使ったと菓子です」
私が箱ごと差し出すと、お父様たちは顔を見合わせています。
「すぐにお茶の準備をさせるから、ルーチェ、レイチェルと一緒に部屋に行きなさい」
「はい、お父様」
しばらく考え込んだお父様は、私とルーチェを二人きりにさせることにしたようです。
そういうわけでして、私はルーチェの部屋で使用人たちはいますが二人っきりとなりました。
「お姉様、ずいぶんと楽しんでいらっしゃるようですね。アマリス様からお聞きしましたよ」
「ああ、アマリス様ってば……。その様子ですと、全部話されてしまったようですね」
「はい、その通りです。精霊のこともですけれど、ラッシュバードという魔物を手懐けられたそうですね」
そこまで全部聞いていたようです。アマリス様、さすがに話し過ぎですよ。
「ラッシュバードは、手懐けたというよりも、鳥の習性を利用しただけです」
「そうなのですね」
さっさとお祝いを渡したいのですけれど、ルーチェがあれこれ私に声をかけてくるので、タイミングがなかなか難しいですね。
ルーチェからあれやこれやと、私の近況に対する質問が飛んできます。
それに対して、私は他言無用という条件を付けて、話せる範囲でルーチェに答えてあげます。甘いでしょうかね?
「ルーチェお嬢様、お茶をお持ちしました」
ある程度時間が経ったところで、扉がノックされました。
どうやら飲み物がようやく用意できたようです。お湯を沸かすのに、少し時間がかかりますものね。
でも、助かりましたよ。根掘り葉掘り聞いてくるものですから、そろそろ対処が難しくなってましたからね。
ルーチェが入室を許可して、使用人がお茶を淹れていきます。
お茶が入ったところで、ルーチェがにっこりとして私に話し掛けてきます。
「さて、お姉様」
「なんでしょうか、ルーチェ」
「先程仰られていたお菓子を、お出し願えませんか?」
私が出そうと思っていましたのに、ルーチェに先手を取られてしまいましたね。
私はイリスに声をかけて、テーブルの上に例の箱を置いてもらいます。
いよいよ、王都でのお菓子の初お披露目です。
ルーチェの反応が気になりますが、私はゆっくりと箱のふたを開けたのです。




