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ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします  作者: 未羊


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第44話 お土産を手に

 いやまあ、本当に魔法って便利ですね。

 ただのミルクからクリームとバターが作れてしまったんですから。それも、成分無調整のとれたてミルクのおかげですね。

 というわけで、ミルクを加工してクリームバターサンドを作ります。

 卵はなくても大丈夫です。


「お菓子なんですね、これ」


「はい、お菓子です。見たことがないでしょう?」


「見たことないですね。クッキーやビスケットくらいでしたらありますけれど、クリームでしたっけ、それを挟み込んだものなんて見たことがないです」


「でしょうでしょう?」


 でき上がったお菓子の感想に、私はつい嬉しくなってしまいます。


「はい、イリス。試食をどうぞ。ルーチェたちにお祝いに渡すものですから、毒見ですね」


「レチェ様、いい方……」


 私の言い方に、冷静にツッコミを入れてくれます。イリスのこういうところは好きですよ。


「ビスケットですかね、これは」


「はい。バターを練り込んだビスケット生地で、クリームを挟み込んだものになります。ただ、消費期限が短……、すぐに傷んでしまうのが悩みですね。ミルクはそれだけ足が早いですから」


「では、どうなさるのですか。王都まで何日かかると思われているのです?」


 当然、イリスが尋ねてきますよね?

 ですけれど、私には秘策があるのです。


「じゃーん。これで大丈夫だと思います」


「箱?」


「はい、箱です。私が土魔法で作りました。ここに冷気属性を閉じ込めた魔石を入れます。そして、魔力を流します」


 私がそう言って魔石に魔力を流すと、石が青く光り始めます。


「さあ、手を入れてみてごらんなさい」


「は、はい。……冷たい!」


 ひんやりとした空気に驚いて、イリスが手をすぐに取り出してしまいました。実験は成功ですね。


「名付けて保冷箱です。氷が張るような温度まで下げてあげますと、物は一気に腐りにくくなります。とはいえ、冷やしすぎると今度は霜がついて風味が落ちます。その間の絶妙な温度を保ってくれるのが、この保冷箱なのです」


 魔石が稼働していれば、ふたが開いていても動作します。

 これが、昨日のクリームやバターを作っていたあとで思い出して、急ごしらえした箱なんですよ。

 先程イリスが指摘していたように、私の今いる場所から王都までの距離を失念していたんですね。

 移動はスピードとスターに頼むとしても、馬の全力とあまり変わらないでしょう。馬車と比べて最大で三分の一程度にしか短くなりません。

 王都の公爵邸から、領地の公爵邸までは八日間。そこからここまではさらに半日ほどかかります。なので、ラッシュバードの力をもってしても、最低三日はかかる予想なのですよ。

 腐りやすいものでも冷やして劣化を遅らせてあげれば、おそらくは余裕でもつはずです。


「そんなわけですので、私とイリスは王都に向かいます。ギルバートはその間、お留守番をお願いしますね?」


「はあ? なんで俺何ですか」


 やっぱり、残れといいますとギルバートが反発してきましたね。

 仕方ないじゃないですか。ラッシュバードの背中に乗れるのは一人だけなんですからね。誰か残るのなら、力のあるギルバートが最適なんですよ。


「鍛錬だと思って下さい。畑を耕したり草を抜いたり、いい運動ではありませんか」


「……飯はどうするんですか」


「ギルバートなら作れますでしょう? 私の手料理がないとダメなのですか?」


 冗談半分に言いますと、ギルバートは黙り込んでしまいました。これは予想外でしたね。

 ちょっとおいしいものに慣れさせ過ぎてしまいましたか。これは失敗ですね。


「はあ、仕方ありませんね。留守を無事に預かって下さいましたら、ご褒美に何かを作って差し上げます。それでよろしいですか?」


「命に代えても守り通します」


 なんて早い変わり身なのでしょうか。呆れてしまいますね。

 でも、これで安心して留守を預かってもらえます、


「では、レチェ様。持っていかれるのは先日作られましたバターロールとクリームバターサンドでよろしいのでしょうか」


「そうですね。ラッシュバードの卵が手に入るようになれば、もっとバリエーションは増えるとは思いますが、お祝いに珍しい手作りお菓子というのは、悪くはないでしょう?」


「はい、喜ばれるかと存じます」


 イリスは正直ですね。

 そんなわけでして、翌日の出発に備えて、私たちは準備に取り掛かります。

 王都に戻りましたら、せっかくですからお店を見て回りましょうかね。自分で開発した気になってますが、もしかしたら既に存在するかもしれませんし。まだ知らない食材や調味料があるかもしれません。


「お菓子よし、保冷箱よし、留守番よし」


 すべてをチェックして、翌朝の私はイリスと一緒に出る準備をします。

 王都に行くのですから、以前着ていたドレスを引っ張り出してきましたよ。少し小さくなりましたかね。


「最後に俺を指差したのはなんですかね」


「確認ですよ、確認。心配ですから当然です」


 私は腰に手を当ててギルバートに言い放ちます。本当に気がかりなんですよね。料理が下手ですからね、ギルバートは。


「スピードとスターの小屋も、きちんと掃除しておいて下さいね。汚いと突かれますよ」


「うへぇ、分かりましたよ。どのくらいで戻って来られるんですかね」


「王都を少し見て回りますので、十日ほどかと思います」


「分かりました。ちゃんと留守は預かりますから、気を付けて行ってきてくださいよ」


「はい」


 私はギルバートと言葉を交わすと、イリスを乗せたスターを引き連れてスピードを走らせます。

 約一年ぶりの王都への帰還にドキドキしていますが、それと同時に久しぶりにアマリス様や妹のルーチェに会うことに、ワクワクを募らせているのでした。

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長距離の移動をするのに留守番って、護衛の存在意義…
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