おっさん……どうした?
「いえ、将軍。スイ様にお伝えしたいことがあれば、まずは我々が聞きます」
真っ先に将軍の注文に反対したのはレックスさんだ。
「騎士団長、安心してほしい。これ以上、聖女様に無礼を働くつもりはない。それとも、私のような愚直な武人は信じられない、とでも?」
「そ、そういう意味ではなく……」
しかし、将軍の圧はいつも以上で、レックスさんもつい怯んでしまう。
「せめて、僕が一緒ではダメでしょうか!?」
次にベイルくんが右手をピンッと伸ばして挑むが、将軍はなぜか時計をちらりと見た。
「そういえば、ベイリール様はそろそろリリアの見舞いに行く時間では? 昨日も時間通りにきていただけなかった、とリリアも泣いていました。どうか、もう少し気にかけていただけると有難い」
「ぐっ……」
奥歯を噛みしめるベイルくん。
そういえば、昨日のこの時間、ベイルくんは私の部屋にきてトランプしてたけど、リリアちゃんのお見舞いの時間だったの??
「ダメじゃない、ベイルくん! ちゃんと行かないと!」
「スイさんまで……!!」
ベイルくんは情けない顔で一歩下がる。
「で、でも、スイさんは僕のパートナーです! いくら将軍と言え、二人きりは……!!」
「許嫁候補であるリリアはほったらかしなのに? ベイリール様は家庭より仕事を優先するタイプですか。嗚呼、可哀想な我が娘……」
「そ、そういう意味ではなく!!」
地団太を踏み始めるベイルくん。場が収まらない、と判断したのか、将軍は深く溜め息を吐いた。
「分かりました。では、お二人は扉の外で待っていてください。大聖女様も何か不快に感じられたら、二人のことを大声で呼べばいい。どうか?」
レックスさんとベイルくんはまだ安心できないようだったので、最終的に私が折れることにした。
「いいじゃない。そんなに言いたいことがあるなら、一対一で決着付けましょう! 私は受けて立ちます。そして、将軍は武士! ここで卑怯な手を使うような、人間ではないと見ました。だから、二人は席を外して。後は私に任せなさい!!」
レックスさんとベイルくんは顔を見合わせるが、二人の顔には「絶対、トラブルになるよね」って書いてあった。
……もう少し信頼してくれよ!
「大聖女様もこう言っておられるではないか。それに、私も武人の在り方まで忘れたつもりはない。どうか」
こうして、レックスさんとベイルくんは部屋を出て行ったのだけれど……。
いざ、将軍と二人きりになると、やっぱり凄い圧迫感でどうしても縮こまってしまう。だけど、将軍はなかなか喋り出すことなく、目の前のテーブルに視線を落とすだけで、数分が経つのだった。
「あ、あの……将軍?」
「……分かっている」
これ以上、黙るつもりはない、という意味だろうか。将軍はキッ、と私を見た。
「大聖女様、今日はお願いがあって、参上した。どうか、聞き入れてはくれないだろうか!」
「な、なんでしょう……??」
再び黙って、唇を震わせる将軍。何かをためらっているのかな? しかし、将軍は心の迷いを乗り越えたのか、再び口を開いた。
「こ、こ、こ」
「こ??」
「今度! 私と一緒に! 茶に行かんか!?」
「……はい?」
「さっきも話したけど、ザーギンの良い店がある。都会の若者に大人気なんだ。超流行っているところで、トレンドに乗っているナウいもんは全員行くような店だ。どうだ、一緒に行かんか?」
「な、なぜ私と? あ、ベイルくんやリリアちゃんと一緒に、ってこと? ですか?」
何とも鬼気迫るような将軍の雰囲気に、さっきとは別の恐怖心を抱く私。だが、将軍の方は顔を赤くし、こめかみに浮かべた血管をヒクヒクと動かした。
「えーい、違うわ! まどろっこしい!」
将軍はなぜか上着を脱ぐと、テーブルに両手を着いた。
「大聖女、スイ・ムラクモ! いや、スイちゃん」
……ちゃん?
「私はお前に惚れた! お前ほど強気な女、武家の娘でも珍しい! あんなに力強い目で見つめられたの、何年ぶりか! ぜひ私のものにしたい! 側室になれ。どうだ? どうだ!?」
そ、ソクシツってなに??
って言うか、えええ?
惚れたって? 私に?
このオッサン、冗談はその無駄に多い髭だけにしろよ!!
……まさか、本気じゃないよね? よね??
「本気だ!」
うえぇ?? 心読んだ??
「分かっている! こんなオッサンから急にコクられたら、ビビるのは分かる! キモイっていうのも分かる! でも! だからこそ、まずはデートからで! そこから少しずつで良いから!!」
「いやいやいやいや! おかしいでしょ! なんか将軍、キャラ変わっているし! それに、私……男の人と二人っきりでデートとか、まだしたことないし!」
「じゃあ、私が最初でオッケー?? 将軍、頑張るから! 最高のジェネラルデートにするからっ!!」
「ダメぇぇぇーーーっ!!」
お城中に響くような、大拒絶の叫びは、私のものではなく、部屋に飛び込んできたベイルくんだ。それを見た将軍は、忌々しいと言わんばかりに小さく舌打ちする。
「ダメですよ、将軍! 何をお考えなのですか!!」
レックスさんもちょっと焦った感じで部屋の中に入ってきた。だが、将軍は悪びれた様子もなく……。
「聞こえていたか」
と呟くだけだった。このオッサン……マジで何考えているか分からん。
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