田舎者には刺激が強すぎる
将軍を私の部屋に通すわけにもいかないので、貴人用の応接室へ移動した。既に将軍は応接室にいるらしく、私はドアノブに手を伸ばす前に、深く呼吸する。
「スイ様、ご安心ください。将軍の目的が何か分かりませんが、私が傍にいますので」
「僕もいますよ!」
「二人とも……ありがとう!」
もちろん、私が一人で将軍を相手するわけにもいかないので、レックスさんとベイルくんが一緒にきてくれた。私にとって、この二人以上に頼りになる人物はいない。相手が将軍であろうと、絶対に大丈夫だ。
「えーいっ、勝負!」
私は気合を入れ、応接室のドアを開く。貴人用のスペースだけあって、美しい装飾が施された室内。その中央に置かれたソファに、将軍をゆったりと座っていた。が、私たちを見るとゆっくりと立ち、深々と頭を下げた。
咄嗟にファイティングポーズを取りかけた私を制して、レックスさんが前に出る。
「将軍、どのようなご用件でしょうか?」
「私の屋敷で大聖女様に無礼があった。それにも関わらず、聖女様は屋敷に迫る霧を払ってくださった。だから、謝罪と礼を言いにきた」
私に?
普通はベイルくんに、じゃないのか?
同じ違和感を抱いたかどうか、レックスさんも困惑しているみたいだった。
「何も将軍自ら来られなくても……」
「自分で伝えたかった。それだけだが?」
相変わらずの鋭い眼光に、さすがのレックスさんも少し逃げ腰だ。しかし、この態度と面の皮の厚さ……一言かましてやろうじゃないの!!
「冗談じゃない!」
私はレックスさんを押しのけ、前に出た。
「こっちは暗殺されそうになった挙句、監禁されて、出てきたと思ったら、また殺されかけたのよ?? 謝罪の一つや二つで許されると思っているわけ!?」
びしっ、と言ってやったぜ。
でも、将軍からの反応はいつもより鋭い視線だけ。
……ちょっとだけ、ベイルくんの後ろに隠れておこうかな。
「暗殺、監禁など私には覚えがない。それに、屋敷での出来事はベイリール様の名を騙るテロリストという懸念があったための対応だ」
くそおおおぉぉぉ、言い切りやがる!
だけど、こっちも決定的な証拠はないんだよね。このまま、言い負かされるのか、と思ったけど……
将軍は再び深々と頭を下げた。
「だが、大いに迷惑をかけた。そして、助けられた。だからこそ、謝罪と礼を言いに来たのだ」
「謝罪だけじゃあ物足りないね。こっちはぎゃふんと言ってもらうって決めてたんだから」
将軍は顔を上げると、腕を組んで頑なな態度を見せる私を見つめる。鋭い目で睨まれると、こっちが謝った方が良いような気がしてくるけど……絶対折れないから!
嫌な雰囲気が続くかとも思われたが、将軍が鋭い目つきのまま言った。
「……ぎゃふん」
「え、あ、はい……?」
その姿が、あまりに滑稽だったので、私も言葉を失ってしまう。だが、将軍の謝罪と礼は、これだけで終わらなかった。
「もちろん、言葉だけではない。聖女様が好みそうな品をいくつか持ってきた。サスケ、例のものを」
「はっ!」
うわぁ、びっくりした!!
将軍しかいないと思っていたけど、どこからかともなく、やせ型の男性が現れた。もしかして、あれが噂に聞く、武家に仕えるニンジャってやつ??
サスケさんは一度部屋から出ると、荷車を引いて戻ってきた。それを見た将軍は満足げに頷き、荷車からカラフルな小箱を取り出す。
「まずはこれ。超人気店ロデュルのマカローン。王都でも王城周辺のザーギンエリアでしか売られていない、お洒落女子に人気の一品だ」
「えええぇぇぇーーー!? それ、土曜朝の番組『お姫様の朝食』で紹介されていた、めちゃくちゃ並ばないと手に入らないやつ!?」
知ってる!
伝説のお菓子だよね??
マジかよ、テレビで紹介される王都のグルメは、全部お伽噺みたいなものだと思ってたけど、実在していたんだ!!
「レックス……。マカローンって、まだ流行っているの?」
「いえ、ベイル様。今はすでに下火と聞いてますが……」
後ろの二人が何やらぶつぶつ言っているけど、関係ない!
私としては大興奮だ!!
「次はこれ。超人気店のカヌーレ。こっちはマリートッツァ。どっちもザーギンでしか売っていない代物」
「セレブの街、ザーギン!! やばっ!! やばぁーーーっ!!」
「さらに、これはタッピー・オカの飲み放題券。しかも一年間有効」
「うわぁぁぁぁ!! 夢のタッピー・オカ!! 都会の若者にとって外出中にこれを飲むと飲まないとでは、社会的地位に大きな差が出てしまう、というアレ!! 飲まなくては! 飲まなくては!!」
それからも、将軍のお詫びの品々は続いた。どれも、私が実家のテレビで見ながら、羨んでいたものばかりだった。ベイルくんは
「スイさんのツボを押さえ過ぎている……。リリアのやつ、仕込んだな?」
と、邪推していたけど、そんなことはどうでも良かった。
「嗚呼、王都に来てよかった!! 夢が一気に叶ったよ。ありがとう、将軍! あと、私を選んでくれてありがとう、ベイルくん!!」
思わずベイルくんを抱き上げ、ぶんぶんと音を立てながら、十回転もしてしまった。ベイルくんは目を回しながら、ニコニコして「スイさんが喜んでくれて、僕も嬉しいです」と言ってくれたのだけれど。
「で、ここからが本題なのだが」
急に将軍が神妙な面持ちで言った。そして、鋭い眼光が私に向けられる。
「聖女様と二人きりで話したい。申し訳ないが、ベイリール様と騎士団長は少しだけ席を外してもらいたい」
たっぷりと飴を与えられて油断していたけど……もしかして、ここからがガチ説教か?
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