なぶり殺し
霧はひどく濃く、フレイルくんの足取りは重たかった。
「呼吸が、できない。こんなの初めてだけど、霧が濃い、せいかな」
息苦しそうなフレイルくんだが、振り返ればベイルくんたちの姿が見えるほど、霧の中に入ったばかりで、呪木はまだまだ遠い。もしかして、私の血が……と不安を覚えた瞬間、獣のような唸り声が。
「フレイルくん、横! デモンがいる!!」
「なんだって!?」
フレイルくんは素早く反応するが、デモンはすでに目の前に。巨大な腕がフレイルくんの頭上へ落とされていた。
「なめるな!」
フレイルくんは剣でそれを受け止め、さらにデモンのお腹を蹴り付ける。デモンはよたよたと後退したけど、威嚇のつもりがフレイルくんに向かって吠える。
再び襲い掛かてきたデモンの攻撃を、フレイルくんは剣で捌くが、やや押され気味のように見えた。あれはどこにでも出てくるようなデモン。そんなやつを相手にフレイルくんが苦戦するなんて……。
「お、おかしい。息が……」
デモンと距離を取ったフレイルくんは肩で息をしながら、胸に手を当てた。
「援護するよ!」
私は自らの手を切って、大地と空間にアクセスし、デモンの足元に意識を潜り込ませる。
「捕まえた!」
デモンは巨大な手で足首を掴まれたように、その場から動けないようだ。
「今だよ、フレイルくん!」
とどめの一撃を期待するが……。
「ぐっ……」
フレイルくんは膝を付き、顔を歪めていた。
「フレイルくん……?」
ダメなんだ。私はすぐに状況を察した。いや、認めざるを得なかった。
「ごっ、ごえええぇぇぇーーー!!」
そして、フレイルくんが胃の中身を吐き出し、その場に倒れてしまう。
「フレイルくん!」
私はフレイルくんに駆け寄り、彼を背負う。大丈夫、すぐに霧を出て、ベイルくんたちと合流できるはずだ。それまで、あのデモンを拘束しておけば……。
しかし、妙な感覚があって振り返ると、霧の中で不気味に輝く赤い光が複数。
「おい、デモンの群れがいるぞ!!」
遠くからこちらを眺めていたサムライたちが騒ぎ出す。おいおい、先にフレイルくんの心配をしろよ!
「フレイル、聖女様!」
飛び出そうとするベイルくんだが、サムライたちに止められてしまう。
「フレイル様は我々が!!」
フレイルくんの部下の騎士たちが前に出る。しかし、彼らはフレイルくんと屋敷の前でいざこざを起こしたため、武装を取り上げられているみたいだった。そんな彼らを危険に合わせるわけには……。
だったら、こっちから行くしかない!
私はフレイルくんを背負ったまま、皆のもとへ全力疾走した。
「ベイルくん、助けてぇぇぇーーー!」
結果、私はデモンの群れを引き連れることに。
「で、デモンがこっちに!」
「将軍、どうすれば!?」
「ベイリール様、お助けを!!」
パニック状態になるサムライたち。それに対し、フレイルくんの部下の騎士たちは、我慢できなかったのか、全員飛び出してきた。
「フレイル様、今行きます!!」
せめて、騎士のみんなと合流できれば……!!
「ぎゃあっ!!」
あと少しでみんなのもとへたどり着いたのに、私はすっ転んでしまい、あっという間にデモンに囲まれてしまった。
「フレイル様!」
騎士たちがフレイルくんに呼びかけるが、彼らもデモンたちに阻まれ、それ以上は進めない。それを見たベイルくんが、ついにサムライの一人を突き飛ばし、カタナを奪うと、それを将軍に突きつけた。
「将軍、これ以上は邪魔をしないでいただきたい!」
しかし、将軍は冷静である。
「落ち着いてください、ドラクラの方。妙な動きをすると、あの者の手元が狂うかもしれん」
将軍が顎を上げ、何かを指し示す。その先には、弓を構えたサムライが。そして、それはどう見ても、私を狙っている。
「将軍! 貴方は何をしているのか、分かっているのですか……!!」
「デモンが霧から出てきたら、矢を射るだけです。しかし、貴方が暴れれば手元が狂うかもしれない。そう言っているだけですが?」
デモンが少しずつ私に近寄ってくる。
やばい。このままだと、なぶり殺しただ……。
せめてフレイルくんだけでも、と私は彼に覆いかぶさるが、恐怖で助けを求める声すら出なかった。そんな中、将軍の決断は……。
「矢を放て!」
「は、放とは……どちらに??」
指示を出されたサムライは混乱するが、将軍は落ち着いた調子で言う。
「フレイル様には当てるなよ」
「やめろ、聖女様に……!!」
ベイルくんの制止を聞かず、矢が放たれる。きっと、それは私を助けるため、デモンに向かって射られたはず。そう思ったのに……。
「痛っ!」
肩の辺りに痛みが。
やっぱり、将軍は……私を狙ったの?
「貴様、よくも聖女様に……!!」
将軍に詰め寄るベイルくん。同時に、騎士の一人が主張した。
「将軍、やり過ぎです! このままではフレイル様の命が……。ベイリール様に助けていただくしかありません!」
「その者がベイリール様かどうか、貴殿には分かるのか?」
「そ、それは……」
「もし、テロリストの一味だったらどうする? 貴殿が責任を取るのか? トランドスト騎士団がテロ行為の手助けをした、という汚名を背負えるか!?」
将軍の気迫に押し黙る騎士だったが、ベイルくんは違った。
「将軍! 私は貴方を許せそうにない。これ以上、邪魔をするならば……」
剣を構えるベイルくんだが……。
「無礼者! 私はトランドスト王国の将軍、ビーンズ・ライオネスだぞ! 私に刃を向けるとは、どういう意味か、分かっているのか! やはり、貴様……ベイリール様の名を騙るテロリストだな?」
どうやら、将軍はベイルくんのことをテロリストとして、ここで葬るつもりのようだ。でも……。
「もう! 何でも良いから、こっちを助けてよ!!」
私は何とか声を張った。だって、このままだと……なぶり殺しですからね?
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