もう一つの解決案
「西部に発生した霧が急激に拡大。このエリアに緊急警報が出されました!」
どこからか現れたサムライの報告に対し、将軍はわずかに目を細めた。
「……ここに到達するまでの時間は?」
「おそらくは一時間程度かと」
先程まで、騒がしかった屋敷の廊下だが、今は誰もが将軍の判断を待って静まり返っている。しかし、将軍は指先で顎髭を弄ぶだけで、いつになっても何を指示を出さなかった。
「ちょっと、何を黙っているのさ!」
思わず前に出て声を荒げてしまう。
「自分のおうちが霧に呑まれるかもしれないんだよ? すぐに動けるドラクラだって、いないんだから。ほら、私たちの出番じゃない!」
私は一歩前に出る。
「さぁ、道を開けた! トランドスト王家の第一王子が、どれだけ強いか貴方たちに見せてあげるんだから」
この状況、もはや誰も止めることはあるまい、と思ったんだけど……。
「待て」
私が思っている以上に、将軍の頭は固いみたいだ。
「その方がベイリール様かどうか分からぬ限り、動いてもらっては困る」
「何度も言うけどね、そんなこと言ってられる状況じゃないでしょう! 一時間以内に助けにきてくれるフォグ・スイーパーがいるの? いないよね! うだうだ言っている間に、霧に呑まれても知らないよ!」
再び廊下が静まり返る。ここまで言ってやれば、さすがの将軍も反論しない、
はずなんだけど……。
「いや、別のドラクラが一人いる」
しつこいな、この髭親父は!!
――って、今何て言った??
「この屋敷に、私たち以外のフォグ・スイーパーがいるってこと?」
まさか、リリアちゃん?
いやいや、さすがに高熱出して寝ている自分の娘を戦わせないよね、この将軍も。
苦し紛れの負けず嫌いで言っているのか?と思ったが、そういうわけではないらしい。
「身元がハッキリとした、別のドラクラがいる、と言った」
「……え?」
「フレイル様をここに」
……あああぁぁぁーーー!!
そっか。私、フレイルくんと一緒にここまで来たじゃん!!
でも、待って。
彼をドラクラ化させる聖女はどこに??
困惑する私に、将軍が言った。
「田舎娘、お前も聖女なのだろう。王族聖女の資格も持っている、と言ったな?」
「も、持ってますけど……」
「では、フレイル様に血を与え、二人で霧を払うと良い。それなら、私も文句はない」
……いやいやいや!!
ダメだって!
ベイルくん以外のドラクラに私の血を飲ませたら、大変なことになるんだよ??
そんなことを知る由もない将軍は私を睨んだ。
「何を慌てている? まさか、聖女を騙って謀でも?」
「ち、違います! でも、私はベイルくんの聖女だから!」
「そんなことを言っていられる状況ではない」
わ、私がさっき言ったことを真似たな……?
なんて憎たらしい髭なんだ!
「だったら、私とベイルくんがやるから良いでしょ! その方が話が早い!」
「何度も同じことを言わせるな。それに、水掛け論を続ける気はない。現実的かつ不確定要素が少ない方法から試すだけだ」
ぐぬぬぬっ、と私は拳を握りしめる。これ以上、反論は出ないと判断したのか、将軍は私たちに背を向けた。
「時間がない。外で儀式を行う。フレイル様とそこの田舎娘を、門の前に連れてこい」
残される私たち。
サムライたちも、戸惑っているようだった。
そんな中、ベイルくんが心配そうに声をかけてきた。
「聖女様、フレイルに血を……?」
「なんか、そういう流れになっちゃったね。……どうしよう?」
「もしフレイルと同調できたら、聖女様は……」
そこまで言って、ベイルくんは口を閉ざす。何か言葉を飲み込んだように見えたけど、何か言いたかったのかな?
あ、そうか。
ベイルくんは普通のドラクラが私の血を飲んだらどうなるのか知っている。フレイルくんが私の血を飲んで大変な目に合わないか、心配なんだろう。
……でも、ベイルくんの弟であるフレイルくんなら、もしかして私と同調できるのかな?
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