二人の不貞反応
屋敷の外は冷たい風が吹いていた。門の前で待たされること数分で、フレイルくんが部下の騎士たちを引き連れてやってきた。
「俺が、スイさんと……?」
将軍の提案を聞いて、フレイルくんは苦々しい表情で私を見た。きっと、フレイルくんは私と同調することに、強い抵抗感があるのだろう。私と、と言うか、リリアちゃん以外の聖女と同調することに、抵抗感があるのだ。
「お気持ちは察しますが、時間も手段も限られている状況です。どうかご決断を」
将軍が淡々と説得するが、フレイルくんはなかなか前向きになれないようだ。
これは、聖女資格の試験勉強で知った知識なのだけれど、
フォグ・スイーパーは、同じ相手と何度も同調を繰り返すことで絆を深め、それに比例して力が増す。相性も大切だけれど、パートナーとの絆が深ければ深いほど、強く同調して強くなれるのだ。
ただ、それと同時にパートナー以外の相手と同調することに、抵抗感が生まれるらしい。それを「不貞反応」と言うらしいけど、
要は浮気しているような感覚になるのだろう。
「でも、俺は……リリアと」
やはり、フレイルくんは不貞反応でリリアちゃんに対する罪悪感が強いらしい。
「リリアには私から言っておきましょう。あれも将軍家の娘として自覚が強くなりつつある。王都の安全のためとならば、理解するはずです」
「……」
黙り込んでしまうフレイルくん。
ここまで嫌がられると、ちょっとショックだなぁ……。
まぁ、私は長く組んだパートナーがいないから、不貞反応がどんなものか理解できないだけだろうけど。
ん? 待てよ??
「そうだ、フレイルくん! 将軍は大きくなったベイルくんが偽物かもしれないから、戦わせたくないんだって!」
事情を説明し出した私に、フレイルくんは大人しく耳を傾けている。
よし、口を塞がれる前に、全部言ってやろう!
「だから、フレイルくんが大きくなったベイルくんが本当にベイルくんだって言ってくれれば、君は戦う必要はないよ! 私たちに任せて!」
将軍は、信じるに足る証拠、もしくは証人が現れるまでは、ベイルくんは不審者扱いだと言っていた。第二王子であるフレイルくんなら、完璧な証人じゃないか!
「将軍、どういうことですか?」
フレイルくんはいまいち状況が理解できないのか、将軍に問いかける。が、将軍は黙ったまま、説明する様子はない。
あ、あいつ……しらばっくれる気か??
「……フレイル様」
将軍がやっと口を開いた、と思ったが……。
「ご覧ください。霧が迫っています。早くあの聖女と同調を」
確かに、霧が肉眼で確認できる距離まで迫っていた。私たちに残された時間は、限りなく少ない。フレイルくんは霧を一瞥するが、すぐに将軍を真っ直ぐ見た。
「いえ、将軍。ちゃんと説明してください! 俺は、兄さんの……」
おおお、フレイルくんが証言してくれそうだ!
これは逆転か……??
しかし、事態は二転三転するのだった。
「ベイル! ベイル!!」
どこからか、絶叫に近い呼び声が。これは……。
「リリアの声??」
フレイルくんが振り返った方向。
そこには、パジャマ姿で外に出てきてしまったリリアちゃんが。
サムライの一人が彼女を制止するが、それを振り切りながら、こちらに駆けてくる。
「ダメ! その人と一緒に、戦わないで!」
高熱のせいで千鳥足のリリアちゃん。
朦朧とする意識の中、何とか歩いているみたいだけど……
ベイルくんを目の前にして力尽きるように倒れてしまった。
もちろん、ベイルくんは素早くリリアちゃんを抱き留めるが、彼女の息は荒く、瞼が閉じられてしまう。それでも、うわ言の様に呟く。
「お願い。貴方は、私がドラクラにする。だから、あの人とは……」
「リリア……」
健気な姿を見て、ベイルくんも胸が痛んだのか、苦々しい表情を見せた。
リリアちゃんはどうしても自分の血でベイルくんをドラクラにしたいみたいだけど……
不貞反応はどうなっているんだろう?
いやいや、今はそれどころじゃない。
「将軍、今の見たでしょ? 聞いたでしょ? リリアちゃんがベイルくんをベイルくんと呼んでいました。これ以上の証人がいますか??」
まさか自分の娘によって企みが壊されると思っていなかっただろう。
今度こそ言い逃れできないはず……!!
「いや」
それなのに、将軍は首を横に振った。
「あれは熱にうなされた子どもの妄言。信じるには足らん」
ま、マジかよこいつ!!
自分の娘の、あれだけ涙ぐましい姿を見ても、そんなことが言えるのか??
「じゃあ、フレイルくん! フレイルくんが証言してよ! あのベイルくんは、ベイルくんでしょ!?」
将軍!
どっちにしても、こっちにはフレイルくんがいるんだ。
もう言い逃れできないからな!
そうだろ、フレイルくん!?
「……リリア」
しかし、フレイルくんはベイルくんの腕の中で眠るリリアちゃんを見て、何やら葛藤しているようだった。
「フレイル様。どうなのですか?」
将軍がフレイルくんに問う。
「あの方は、本当にベイリール様なのでしょうか?」
なんだか将軍は自分の勝ちを確信したような、覇気に溢れているようだった。
もしかして、将軍はベイルくんの気持ちを……??
「俺は……」
おい、フレイルくん?
まさか、もしかして、本当に……?
「俺は、知りません! 兄さんがドラクラ化したときの姿を、覚えていない!!」
こ、これは……
終わった。
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