そんな場合じゃない!
「な、何者だ! そこを動くな!」
屋敷を出ようとする私たちだったが、さっそくサムライたちに見付かってしまう。しかし、ベイルくんは少しも慌てた様子はなかった。
「私はベイリール・トランドスト。訳あってこのような姿だが、偽りはない。私に手を出したら、王族に対する非礼では済まされないぞ」
道を塞ぐサムライたちだったが、ベイルくんの名を聞いて、動揺しているようだ。
「確かに、若いころの国王にそっくりだ」
「噂は本当だったのか」
「でも、そんなことあり得るか?」
どうやら既に、ベイルくんが大人の姿になる、という噂は流れているらしい。サムライたちはどう対処すべきか迷っていたが……。
「騒がしい。何事か」
通路に現れる、大柄な男性の姿。
それを見て、サムライたちは瞬時に姿勢を正した。
「しょ、将軍!!」
あの髭将軍!
街が霧に包まれて大変だって言うのに、自宅でのんびりしてやがったのか!!
サムライたちの一人が素早く将軍の横へ移動し、何やら耳打ちをした。状況を伝えたのだろう。将軍は小さく頷いた、ように見えた。
「ベイリール様を名乗るお方、こう姿が変わっていては、貴方がご本人かどうか、判断できない。申し訳ないが、信じるに足る証拠、もしくは証人が現れるまでお待ちいただけないか」
「将軍、そうはいきません。ただちに霧を払わなければ、王都が吞まれてしまうかもしれない。すぐに呪木のもとへ向かわねば」
「しかし、ライオネス将軍家の屋敷に入り込んだ、不審者かもしれない男を易々と外に出すわけにもいかない。王家の方ならば、こちらの事情も理解できるはずだが?」
ベイルくんが黙り込んでしまう。
おいおい、何を躊躇しているんだ。仕方ない、ここは私の出番か。
「だから、そんなこと言ってられないんだって! 霧は今も王都の地を蝕んで、デモンを発生させているんだよ? 少しでも早く何とかしないと、被害は広がる。土地が汚染されたら、それこそ何年も続く問題になるんだから」
ギロッと将軍の目がこちらに。
このオッサン……
なんでこんなに圧があるわけ?
思ってたより怖いんですけど……。
「どこの娘か知らんが、私に馴れ馴れしい口を叩くとは、相当の田舎者と見える」
こ、こいつ……。
私のこと知らないとか言いながら、私のコンプレックスをしっかり把握しているじゃないの。
「私は田舎者ではなく、ベイルくんの専属聖女です。王族聖女の資格だって、ちゃーんと持っているんですからね」
「だからと言って、私に無礼な口を叩いていい身分ではあるまい。それに」
将軍は私ではなく、ベイルくんの方に視線を向ける。
「この娘が何者であっても、貴方がベイリール様である証拠にはならない」
そりゃそうだ。
もう強行突破で良いんじゃないの??
今のベイルくんはそれくらい強いでしょ。
「聖女様。できるだけ穏便に」
私の考えを察したのか、ベイルくんがチラッとこちらを見てから釘を刺してくる。
「だったら、どうするのさ! ……そうだ、ベイルくん! 今すぐ小さくなれないの??」
「な、なるほど。やってみます……」
ベイルくんは少し中腰になって、何やら念じ始めるが……。
「無理ですね」
「だよねー」
やっぱり、そんな便利なものじゃないらしい。そんな私たちのやり取りを見て、将軍は小さく鼻を鳴らす。
「それでは、少しの間だけ地下牢で大人しくしていただきたい」
将軍が指先で合図すると、サムライたちが一斉に前へ出て、再び私たちを囲った。
「ちょ、待って! そんな暇ないから! 霧をなんとかしないと!!」
私の主張など聞く耳を持ってくれないようだ。さすがのベイルくんも強行突破を決断したのか、サムライたちの接近に備え、腰を落とした。しかし――。
「将軍!!」
どこからか現れたサムライが、将軍の方へ駆け寄る。
「誠に騒がしい夜だ……。何事か」
「西部に発生した霧が急激に拡大。このエリアに緊急警報が出されました!」
つ、つまり……霧がこの屋敷の近くまで迫っているってこと??
こんなところで言い争っている場合じゃないよ!!
私が将軍の顔色を窺うが、彼はわずかに目を細めるだけで、少しも慌てる様子はなかった。
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