第二十三話 三方良し
出立の、前日だった。
俺は、陣を歩き回って、小西行長を探していた。
見つけたのは、兵糧方の小屋の裏だった。
二十四万石の大名が、袖をたくし上げて、積まれた菰の数を自分で数えていた。
(……この人、変わってないな)
「――摂津守様」
「おお、先生やないですか」
小西行長が、振り向いた。
「どないしはりました。こんなむさ苦しいところまで」
「折り入って、お願いがございます」
俺は、頭を下げた。
「関白様より、足利の姫を側室に迎えよとの上意を賜りましてございます」
行長の手が、止まった。
「……ほう」
それきり、この人は何も聞かなかった。
「めでとうござる」とも言わない。「難儀やな」とも言わない。
(商人だ)
こっちの顔を見て、どちらの言葉が要らないかを、一息で決めた男の黙り方だった。
「つきましては、堺より品を取り寄せていただきとう存じます」
俺は、懐から紙を出した。
「これが、頂戴したい品の目録にございます。……代銀は、必ずお支払いいたします」
行長は、紙を開いた。
「太刀一腰……絹十疋、紬五疋、真綿三十把、小袖三領……奉書紙一束」
男は、顔を上げた。
「先生。これ、女子一人に贈る品やおまへんな」
「三人にございます」
「三人?」
「姫と、そのご舎弟が二人。……足利の御家にございます」
行長の目が、細くなった。
「……ははぁ。太刀が一番上に書いてある理由が、分かりましたわ」
(さすがだな)
絹でも真綿でもなく、太刀を最初に書く。
これは「食い扶持をやる」ではなく「家の主として遇する」という意味になる。
順番だけで、それが伝わる。
「摂津守様。……間に合いましょうか」
「先生」
小西行長は、自分の胸を、どんと叩いた。
「任しといておくれやす。――最高のお品を、用意させてもらいます」
「もう一つ、お願いがございます」
「まだあるんかいな」
「輿を、三挺」
俺は、もう一度、頭を下げた。
「奥州まで、徒歩で歩かせるわけには参りませぬ」
行長は、少しの間、俺を見ていた。
「……よろしおます」
俺は、銀の包みを出した。
「あきまへん」
行長が、手を振った。
「先生からは、もらえまへん」
「三方良しと申します」
行長が、動きを止めた。
「……はて。聞かん言葉でおますな」
「近江の商人が申しておりました」
俺は言った。
「売り手よし、買い手よし、世間よし。――三方が良うて、初めて商いにございます」
「某がただで受け取れば、摂津守様の帳面に穴が空きまする」
「その穴は、いずれ誰かが埋めねばなりませぬ。……埋めさせられるのは、たいてい、一番下の者にございます」
小西行長は、しばらく黙っていた。
それから、包みを受け取った。
「――先生には、敵いませんわ」
男は笑って、菰の山の向こうへ消えていった。
(……前世でも、あったな、これ)
「今回はサービスで」と元請けが言う。
その一言が、どこの誰の徹夜になったか。俺は嫌というほど知っている。
(俺は、あれをやる側になりたくない)
陣へ戻ると、石田三成が待っていた。
その後ろに、三人、立っていた。
女人が一人と、少年が二人。
木綿だった。
三人とも、洗い晒しの木綿を着ていた。
(……この人が、連れてきたのか)
俺は、まず三成に向き直った。
順番を間違えてはいけない。
ここで先に三人へ声をかければ、奉行の用件を後回しにしたことになる。
「羽柴殿。――高札の写しにござる」
差し出された紙には、関白の朱印が捺してあった。
――当知行の地において、乱妨狼藉・放火・押買、堅く停止のこと。
――逃散の百姓は速やかに立ち帰り、耕作に励むべきこと。
――違背の輩は、厳科に処すべきこと。
「塩谷の旧領、主だった宿と村に、すでに立て申した」
三成が言った。
「奥州の儀が片付き次第、貴殿の手で接収し、検地をなされよ。……よろしく頼み申す」
「畏まりました」
俺は答えて、一つだけ聞いた。
「――倉ヶ崎の城には、まだ塩谷の家来が残っておりましょうか」
三成の眉が、わずかに動いた。
「五十人ばかり、居座っておると聞く」
「主が逃げた城に、五十人」
「行き場が、ないのでござろう」
(……そうか)
検地帳のないことも、年貢の帳面のないことも、三日前にこの人から聞いている。
(――紙はない。だが、人はいる)
これが一番厄介なんだ、と俺は思った。
物のない現場は、銭と人を入れれば動く。
だが、行き場のない人間が居座っている現場は、追い出せば恨みが残り、置いておけば示しがつかない。
(……使えるやつは、使うか)
俺は、顔には出さずに一礼した。
三成が、半身を引いた。
後ろの三人が、露わになった。
「――足利嶋子殿。国朝殿。頼氏殿にござる」
三成は、名簿を読み上げるような声で言った。
「関白様の上意により、御三方の御身柄、本日より貴殿にお預け申す。奥州への道中の御差配は、貴殿の御随意に」
俺は、両手をついた。
「――確かに、お預かりつかまつりまする」
三成が、懐から書付を出した。
俺は、そこに名を書いた。
(……人を、受け取り書一枚で引き渡すのか)
(……いや)
(この人なりの、けじめかもしれない)
紙に残せば、この三人は「行き先の分からぬ者」ではなくなる。
誰が、誰に、いつ預けたかが残る。
残っていれば、後から誰も、無かったことにはできない。
(――そうか。この人は、名簿を作る側の人間だ)
三成が、行きかけて、足を止めた。
視線が、ほんの少しだけ、三人の方へ動いた。
「羽柴殿。――足利殿のこと、後は頼みました」
それだけ言って、この人は去っていった。
(……見てたのか、この人も)
冷たい男だと思っていた。
実際、冷たい。あの評定で、この人は俺から目を逸らした。
だが、逸らした先を、覚えている男でもあるらしい。
俺は、三人に向き直った。
上の子は、十九にしては痩せている。
下の子は、十一。俺の袖を掴めそうな背丈で、姉の背に半分隠れていた。
上の子は、姉の半歩前に立っていた。
庇っているつもりなのだろう。
腰に、刀が一本あった。
鞘の塗りが、ところどころ剥げていた。
柄巻もほつれて、下の鮫皮が覗いている。
(……手入れは、してあるな)
鞘の口だけが、よく拭われて光っていた。
塗り直す銭はない。だが、毎日拭いている。
そういう刀だった。
(――太刀を、一番上に書いておいて、よかった)
俺は、そう思った。
理由は、自分でもよく分からなかった。
嶋子が、姿勢を正し、両手を揃えて深く一礼した。
美しい所作だった。あの日と同じで、型が上等だった。
少年二人は、下げなかった。
俺を、じっと見ていた。
――警戒の目だった。
(……そりゃ、そうだ)
姉を側室に差し出せと言われた家の弟から見れば、俺は「差し出させた側」の男である。
しかも噂の中身が悪い。鶏を一羽盗った兵の首を刎ねる男、鬼羽柴。
(……俺、完全に悪役だな、これ)
バツが悪い。ものすごく、バツが悪い。
(――いや)
俺は、思い直した。
(バツが悪いのは俺の都合だ)
この三人には、今日、寝る場所がない。
城は取り上げられ、主は逃げ、家来はいない。明日どこへ行くのかを、誰も教えてくれていない。
俺の居心地の悪さなど、この三人の不安に比べれば、屁でもない。
俺は、正面から向き直った。
「羽柴秀定にございます」
「御三方の輿を、手配いたしておりまする。……間もなく、届きましょう」
俺は、頭を下げた。
「それまで、しばし陣中にてお寛ぎくださいませ」
弥七に目で合図をして、床几を三つ運ばせた。
日除けの幕を張らせ、水を汲ませた。
(――まず、座らせて、水を飲ませる)
前世からの癖だ。
現場に来た人間が疲れているかどうかは、顔ではなく、立ち方で分かる。
この三人は、三人とも、片足に体重を寄せていた。
「か……」
上の少年が、声を出した。
「かたじけのう、ござる」
声が、裏返った。
国朝は、真っ赤になって俯いた。
「某は、馬で……いや、徒歩で構いませぬ。輿など、その、身分に過ぎたるもので」
「なりませぬ」
俺は言った。
「足利の御当主を徒歩で歩かせたとあっては、豊臣の恥にございます。――どうか、お乗りくださいませ」
国朝が、目を見開いた。
(……ああ)
(この子、「当主」って言われたの、初めてかもしれないな)
*
一刻ほどして、輿が来た。
小西の手の者が、三挺、担ぎ込んできた。
塗りは黒。金具は控えめ。房も飾りもない。
(……分かってるな、あの人)
派手なものを寄越されたら、この三人は道中ずっと見世物になる。
落ちぶれた公方の姫が、豪華な輿で運ばれていく――そういう噂の立ち方をする。
黒塗りの、質のいい、目立たない輿。
(値の張り方が、正しい)
「輿が参りました」
俺は、三人に向き直った。
「――国朝殿より、お乗りくださいませ」
国朝が、また固まった。
「某から、でございますか」
「御当主が先にお乗りにならねば、御舎弟も、姉君も、お乗りになれませぬ」
これは、譲れない。
誰から乗るか。ただそれだけのことで、この家の序列が、担ぎ手にも、足軽にも、街道の百姓にも伝わる。
(――順番は、一番安い普請だ)
銭も紙も要らない。それで家の格が立つなら、いくらでもやる。
国朝が、深く息を吸って、輿に乗った。
次に、頼氏。
孫兵衛が、無言で手を添えてやった。
最後に、嶋子が残った。
俺は、その場で気がついた。
(……この人には、手を貸す女房が、一人もいないのか)
武家の姫が輿に乗る時、足元を支えるのは侍女の役目である。
この人には、それがいない。城を出るとき、誰も付いてこなかったということだ。
俺は、腰の扇を抜いた。
閉じたまま、横に倒して、差し出した。
「――お手を」
嶋子が、目を見開いた。
他家の姫の手を、直に取ることはしない。
取れば無礼になる。だが、支えねば足元が危ない。
だから、扇を渡す。
相手は扇の端を持つ。手は、触れない。
(前世で、施主の奥方を泥だらけの現場から車まで案内したときと、やることは同じだ)
(手は出さない。足元を照らして、傘を差す。それだけでいい)
嶋子の指が、扇の端に触れた。
軽かった。
ほとんど、重さがかかってこなかった。
(……遠慮してるな、この人)
嶋子が輿に乗り、簾が下りた。
下りきる直前に、内から、小さな声がした。
「……かたじけのう、存じまする」
俺は、頭を下げて、踵を返した。
――八月一日。
「出立!」
俺の号令で、隊が動いた。
足軽の背に、旗が立っていた。
黒地に、黄で、五七の桐。
四百十六人、一人残らずである。
関白からの祝儀だった。
「一門の家じゃ。ぼろを着せるな」と、それだけ言って寄越された。
侍には馬が下された。
岩室弥七、佐田新九郎、原孫兵衛。それに、十一歳の筆頭家老。
藤堂高吉は、自分の背丈の倍ある馬の上で、口を真一文字に結んでいた。
(落ちるなよ)
そして、馬印である。
黒い布に、黄で、一文字。
――鬼。
(……いや)
(いやいやいやいや)
「関白様。恐れながら、これは……あまりに畏れ多く存じまする。何とぞ、ご勘弁を」
関白は、扇で俺の肩を叩いた。
「これを立てて、黒川城まで行け」
「は……」
「奥州の田舎侍どもに、よう見せてやるのじゃ。――鬼が来た、とな」
(社旗に「鬼」と大書して高速道路を走れと言われた気分だぞ、これは)
その鬼の旗の後ろを、女人一人と少年二人を乗せた輿が、静かについてくる。
(……何の行列なんだ、これは)
奥州街道を、北へ。
一日五里。半刻ごとに小休止、二刻ごとに大休止。
水は必ず煮る。器は熱湯を通す。厠は宿場の風下、川からは半町離す。
宿ごとに、俺は自分の高札を立てさせた。
――当隊の者、民より一物たりとも取るべからず。鶏一羽にても、首を刎ねる。
三日で、落伍者は一人も出なかった。
*
休みのたびに、俺は輿の脇を通った。
担ぎ手の肩と、足の運びを見るためである。
輿の中の三人にも、干飯と白湯を回させた。
頼氏は、それを両手で受け取った。
受け取って、すぐには口へ運ばなかった。
まず、隣の輿の簾を見た。
簾が少し上がって、姉の顔が覗いた。
嶋子が、小さく頷いた。
それから、頼氏は、干飯を齧った。
(……顔を見てから、食うのか)
二日目も、そうだった。
三度の休みの、三度ともそうだった。
前世の現場に、十六で入ってきた見習いがいた。
昼の弁当の蓋を、親方の顔を見てからでないと開けない子だった。
家で、そうしないと飯が減ったのだと、後で聞いた。
(――大人の顔色で、飯の量が決まる家か)
居候の家である。
姉が肩身を狭くしていれば、弟の椀も軽くなる。
十一の子は、理屈ではなく、腹でそれを覚える。
俺は、白湯の椀をもう一つ、頼氏の前に置かせた。
頼氏は、また、姉の顔を見た。
*
二日目の宿は、街道脇の寺だった。
夜、俺は、いつものように宿を一回りした。
厠の位置と、井戸の蓋と、火の始末を見て歩く。
前世で、夜の現場を一人で見て回っていた癖である。
足利の三人には、庫裏の奥の一間を空けさせてあった。
その前を通りかかったとき、襖の向こうで声がした。
「……姉上」
国朝の声だった。
低くて、昼より、ずっと幼く聞こえた。
「某が、不甲斐ないばかりに」
「――それは、言うてはなりませぬ」
嶋子の声だった。
静かで、少しも揺れていなかった。
「塩谷へ参られた時も、某は、何も」
「国朝」
名を呼ぶ声だけが、少し強かった。
「そなたは、足利の当主になるのです」
「……はい」
「当主は、詫びるものではありませぬ」
襖の向こうが、静かになった。
しばらくして、小さな寝息が聞こえた。
頼氏のものだろう。
(――聞くもんじゃないな、これは)
俺は、足音を殺して、その前を離れた。
離れながら、一つだけ、耳に残った。
――塩谷へ参られた時も。
(……あの子は、姉を塩谷へやったのを、自分のせいだと思ってる)
父が死に、家がなく、姉だけが嫁ぎ先を持っていた。
弟二人の飯と屋根は、姉の嫁ぎ先から出ていた。
十九の男が、それを三年、食ってきたのだ。
(刀を毎日拭いてたのは、そういうことか)
それしか、できることがなかったのだろう。
俺は、庭へ出て、井戸の蓋をもう一度確かめた。
確かめる必要は、なかった。
*
三日目の宿で、俺は大谷吉継の陣を訪ねた。
「刑部様。……お教えを、乞いに参りました」
頭巾の下から、驚いたような声が返ってきた。
「そなたが、わしに?」
「進物の目録の書き様にございます」
俺は、正直に言った。
「某は、公方の御家に物を贈ったことがございませぬ。……書き損じれば、かえって恥をかかせまする」
(書物で見た覚えは、ある)
(だが、見た覚えと、書けるは、別物だ)
前世で、図面を読めるやつが引けるとは限らなかったのと同じである。
吉継は、しばらく黙っていた。
それから、筆と紙を出させた。
「品は、位の高い順に書く。太刀が先、絹はその次、真綿は末じゃ」
「日付は末尾。名は、その下に小さく書け。……大きく書く者は、下品じゃ」
「そして宛所じゃが」
吉継の筆が、紙の左端で止まった。
「――『足利国朝殿 人々御中』とせよ」
「人々、御中?」
「直に名を宛てるのは、目下に対する書き様じゃ。御側の者に宛てる形にして、初めて礼になる」
(……なるほど)
(本人に直で送らず、秘書室宛にするようなものか)
俺は、その場で三度、書いてみせた。
三度目に、吉継が頷いた。
「――上出来じゃ」
俺が礼を言って立とうとすると、吉継が言った。
「羽柴殿」
「はっ」
「知らぬことを知らぬと申して、頭を下げに来る者は、そうはおらぬ」
頭巾の奥の目が、細くなった。
「奥の差配は普請より難しいと申したがな。……そなたなら、あるいは」
品は、白河の二里手前の宿で追いついた。
小西の手の者が、桐の箱を担いで、汗だくで駆け込んできた。
箱を開けると、絹の白さで目が痛くなった。
(……堺の商人、化け物か)
俺は、その夜、奉書紙に目録を書いた。
二枚、書き損じた。
それから、原孫兵衛を呼んだ。
「孫兵衛。使いを頼みたい」
白い眉の老人が、無言で膝をついた。
「明日、白河の関にて、足利の御方三人にご面会を賜りたい。……その先触れを、頼む」
「はっ」
「衣裳の箱も、一緒に届けてくれ。明日の朝、着替える刻がいる」
(――会いたければ会いに行けばいい、というのは現場の理屈だ)
武家は違う。
段取りを踏まずに現れる面会は、無礼か、でなければ闇討ちの前触れになる。
先に人を立て、品を先に届け、身支度の刻を渡して、初めて礼になる。
孫兵衛が、顔を上げた。
「……なにゆえ、それがしに」
「この四百十六人で、まともに武家奉公をしたことがあるのは、お前だけだ」
俺は、正直に言った。
「弥七は根来の鉄砲を二十年撃っていた男だ。新九郎は算盤は立つが、家を焼かれてからこちら、あらたまった座に出たことがない」
「俺は、口上なら述べられる。……だが、取次の作法は知らん」
老人の眉が、ほんの少し動いた。
「武田では、それがし、使者の口上も務め申した」
「知っている。だから頼む」
「――承知」
孫兵衛は、具足を脱いだ。
小袖に袴だけになり、太刀も置いて、衣裳の桐箱を捧げて出ていった。
(……そうか)
(武装したまま行けば、それは脅しになるのか)
半刻ほどで、戻ってきた。
「刻限は、明日の昼の休息の折にと」
「口上は」
「主・秀定、明日白河の関にてご挨拶を申し上げたく存じ奉る。これは、その節に進上仕る品の目録にござる。――何とぞ、よろしきお刻限を賜りとう存じ奉る、と」
淀みがなかった。
この爺さんが、四百人の前で怒鳴るのしか、俺は見たことがなかった。
「……上出来だ。助かった」
孫兵衛は、下がりかけて、足を止めた。
「殿」
「なんだ」
「あの御方々、目録を……押し頂いておられ申した」
老人は、幕の外を見ていた。
「上の御舎弟は、太刀の一行を、指でなぞっておられた」
「……そうか」
「武田が滅びた年」
「うん」
「それがしの家にも、かような目録を持って参る者は、ついに一人も、ござらなんだ」
それだけ言って、出ていった。
(……そうか)
(この爺さんも、家を失った側だ)
(……明日だ)
俺は、書き上げた目録をもう一度読み返して、灯を落とした。




