第六話 発情
木々の葉が紅々と色付き始めた頃、いつもより飢えがまとわりつく。
身体が要求している。
もっと、もっとだと。
幸い、縄張りの中にはまだ喰い物がある。
また喰わねばならぬと、巣穴から這い出した。
ん…?
水辺の主とは違うが、間違いなく同じ生き物が縄張りにいる。
匂いは、複数いると警告していた。
この縄張りに立ち入ることは許されない。
この山は、我のものだ。
探せ、嗅げ、逃がすな。
痕跡にはすぐに辿り着いた。
水場に、小さな親に似た生き物が二つ、そして親と同じ姿が一つ。
匂いは…
我は観察もせず、一直線に走り出していた。
いつもなら、生きる術としてまず観る、そして捕らえる。
だが今は違う。あの親に似た生き物は、飢えを満たすのとは違う、何か特別な匂いを放っている。
こちらの走り出す音に、水音が一瞬、親に似た生き物の反応を遅らせた。
小さなものが我に気付いて逃げる。だが眼中にはない。
踏み潰すと同時に頭が割れ、眼球が飛び出した。
地面にのめり込んだまま動かない。
もう一つの小さなものの前に、親に似た生き物が立ちはだかり、叫んだ。
来るな、と言いたいのか。
爪を振るう。一撃で親は倒れた。
すぐに起き上がったが、その時には小さなものはすでに我が爪で胴と首を分けられていた。
縄張りに入れば容赦はしない。
小さなものの頭を咥え、親の前で噛み砕いた。
まだだ。
まだ何かが満たされない。
我が欲求に従い、倒れた生き物に覆い被さり我は下半身を押し付けた。
無我夢中で動かす。
小さなものの側へ近寄ろうとするが、爪を腹に突き立てて止めた。
身動きはできない、が、ずっと叫んでいる。
この飢えとは違う欲求が満たされるまで、ただ動かし続けた。
腹の下から流れ出たものが何かも分からない。
だが、この親に似た生き物には満足した。
その後も、小さなものを心ゆくまで喰った。
喰い続ける間、ずっと見ていたはずのそれは、いつの間にかいなくなっていた。
満足だ。
縄張りを守り、飢えをしのいだ。
それだけではない。
今日の行為を、また繰り返さねばならない。
またこの満足を味わいたい――それだけではない。
頭の奥から響く。
継ぐのだ。と。




