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黄昏の夢  作者: ろっかふ
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海の中には

 どのくらいそうしていたのかは分からないが、気がつくと私の目の前には海が広がっていた。そこは砂浜で、足元の砂の中には貝殻や色とりどりのシーグラスが落ちているのがわかった。波の音は、耳に優しく穏やかに響いてきた。仕事に忙殺され休む間もない普段の生活の疲れが、一気に消えていくようだった。そこでふと昔、祖父から何度も聞かされていた話を思い出す。海には海の神様がいて、彼らは深海にある宮殿で、宴会を開いて楽しく過ごしているのだと、祖父はいつも幼い私に語って聞かせてくれていた。

「いつだったか忘れたが、わしがまだ小さかったころ海の近くに住んでいてな。危ないから1人で海に行ってはいけないと何度も言われていたが、我慢できなくて行ってしまった時があった。」祖父は続ける。

「わしは1人で自由に泳げると思い、そのまま海に入るといつも通り、たくさん泳いだ。そうしていると海の中に七色に光るものが落ちているのを見つけたんじゃ。潜って拾い上げると、それは赤子の拳ほどの真珠で、とても綺麗だったのを覚えている。」

幼かった私はその時、祖父に今その真珠はどこにあるのか、と尋ねた。

「そこからが不思議な話で、拾い上げて海から出した途端、海の向こうから同じような七色の光が真っ直ぐ手の中の真珠に向かって伸びてきての。その光の先から小舟がやってきたんじゃ。その船には、それは綺麗な女の人が乗っておって、真珠を返してくれればお返しをしようと言ったのをよく覚えておる。」

 ここまで思い出すと、私は自分の眼前に広がる海に似たように光るものは無いかと無意識に探していることに気がついた。そんなに都合よくあるはずがないと苦笑し、そろそろ帰らねばと腕時計を見た時、足元に何か光るものが落ちているのに気がついた。拾ってみると、まさしく赤子の拳ほどの大きさの真珠だった。1つ祖父が拾った真珠と違うところがあるとすれば、私が拾ったのは黒真珠であるということだった。あまりの綺麗さに見惚れていたので、目の前に人が立っていることにも、すぐには気がつかなかった。彼は小さな口で今にも消えてしまいそうな小さな声で私に話しかけた。「それを返せ。」声を聞いた途端、なにか寒気を感じ、すぐさま言われた通りに、彼の広げた手の中に黒真珠を置く。「礼をしよう。」そういうと彼は、私の手を取り半ば強引に波打ち際へと連れていく。海の中から黒々とした半液体のようなものが、彼の足元に広がってきた。黒い液体は今や私の足元を覆い、船のように海に浮いている。本能的に恐怖を感じた私は、陸地に戻ろうとするが半液体はそれを許すはずはなく、私の足を固く掴んでいる。私は、家には帰れないかもしれないという恐怖を感じると、もはや何も考えられなくなり、祖父の話の続きを思い出す。

 「彼女は私の手を引くと小舟へと乗せてくれた。そうしてそのまま、海底の彼女らの宮殿へと連れて行ってくれた。そこでわしは美味しいものを食べ、綺麗な女性たちと楽しいひと時を過ごした。しばらくすると、彼女らはそろそろ家に帰る頃だと言い、何か飲み物をわしに飲ませた。気がつくと、いつもの海辺にいたが、家に帰ったころには家を出た日から3日経っていたんじゃ。わしはその後何度もあの9点に行こうとしたが無駄だった。あの日以来、七色に光る真珠を見たことはないな。」祖父はそう言って話し終えた。

 そこで私は、はっと気がつく。祖父が育った街に、確かに海はあったが内海で穏やかな海だった。それに比べて私がいるのは、波の荒さからしておそらく外海だろう。内海と外海。穏やかさと荒々しさ。確かに海には神がいた。祖父が一つ間違えていたことがあるとすれば、神は1人ではないのであろう。外の海の神は人に寛容ではなかった。彼は、私を秘密を秘めた青い海へと連れていく。

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