表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の夢  作者: ろっかふ
2/4

教会の鐘

 私が初めて1人でした旅は、文字通り私の人生を変えてしまった。大学生だった私は授業を受けながらアルバイトに励み、旅行代を貯めると夢だったイギリス旅行に出発した。当時はまだ大学生でも旅行に行けるぐらい飛行機のチケット代などは安かった。

 イギリスに着くと、私は教会を見回ることに決めていたので地図を見ながら沢山の小さな教会に足を運んだ。私が訪れた教会の1つに、セント・フォン・グスタル教会という場所がある。この教会は、はるか昔ピューリタン革命の時代よりも古く、計り知れない歴史があった。木製の長椅子は深く暗い輝きを放ち、天井のシャンデリアの灯りが柔らかく温かい明るさを頭上から振りかけてきていた。教会は観光地というよりかは地元の人のためのもの、という印象で、私が訪れた時には腰が曲がり、風が吹くだけで倒れてしまいそうな老いた神父が1人と、静かに祈る老夫婦が1組いるだけであった。私はキリスト教徒ではなかったが、椅子に腰掛けると無意識に祈り、神は救ってくれるのだろうか、と考えていた。老神父が近づいてきているのにも気づかず、肩に手を置かれてようやく彼に気がついたほどであった。貴方はこの辺りの人ではありませんな、と神父は問うた。私はそうだと答え、何か問題があるのかと尋ねる。「ここへ来られるとはなんと冒険好きなお方だろう、貴方の心を満たせるかどうかは分からぬが1つ面白いものを見せよう。」そう言うと老神父は私を立たせ、前の方にある説教台へと連れて行く。説教台に立ち前を見ると、老夫婦はいつのまにかいなくなっており、私と老神父だけになっていた。老神父は私の横に立ち、軽く足を踏み鳴らした。その途端、頭上から重々しい鐘の音が鳴り響く。あまりの大きな音に驚き、横に立っている老神父を見て私はさらに驚いた。曲がっていた腰はほぼ垂直と言って良いほどに真っ直ぐになっており、少なくなっていた白髪も茶色くなり若々しく茂っていた。「冒険者よ、窓の外を覗いてみるといい。」そう言うと彼は私の手を引き、窓のそばへと導いた。果たして窓の外には現代的なものは一つとして立っておらず、ゴシック様式の建物がほとんどだった。また道を走るのは自動車ではなく、ほとんどが馬車で、道を歩く人々はどこか古めかしいような懐かしい服装をしていた。呆気に取られた私を横目に神父は再び説教台へと私を連れ戻し、再び足を踏み鳴らす。先ほどと同じようにまた、教会の尖塔の中に揺れる鐘から大きな重々しい音が響く。気がつけば周りに壁は無くなっており、ただ石造りの塀のようなもので囲われた空間に立っていた。神父は服装こそ変わらなかったものの、さらに若くなっているように見えた。神父は、ここはブリトン人の祭壇であり、この地は昔から祈りのための地であったと小さな声で説明した。神父は説明し終わると同時に、再び足を踏み鳴らした。今度は鐘の音は聞こえなかったが、代わりに束の間強い風が吹き、私は倒れこんでしまった。

 やはり慣れないと倒れてしまうか、と言いながら神父は側に来ていたようだった。彼が差し出した手を握って私はぎょっとした。人の手とは思えぬほどぬるっとしていたのだ。慌てて神父の顔を仰ぎ見てさらにぎょっとした。その顔は人のそれではなく、蝙蝠(こうもり)のような気味悪くむっとしてしまうような顔だった。私は慌てて自力で立ち上がると、走り出したと同時に立ちすくんでしまった。目の前に広がる景色は地球のものとは似ても似つかない異国情緒あふれたものであったのだ。いや、異国というよりも別世界、別の惑星のものであった。道を闊歩するのは人ではなく、黒い半液体のようなもので、それが金属の腕輪のような妙に光るものを様々なところに着けていた。神父だった()()は、再び私の隣にきて、喉を鳴らすようにして言葉を発した。私にその言葉は理解できなかったが、その場所のものは理解できたらしく、神父と同じような蝙蝠顔の奇妙な生き物が私の周りに群がってきた。彼らはその鋭い鉤爪のような手で、私の四肢を引っ張った。私は恐怖のあまり、ひどく暴れ、蝙蝠のような生き物から逃れようともがいた。彼らは私を掴み、引っ張り合いながら空へと持ち上げた。気がつけば教会のあった台地から転げ落ち、奈落の深みへと落ちていた。私にはここまでの記憶しかないが、後日私は路地裏で着ぐるみを剥がされ持ち物を奪われた姿で見たかったらしい。強盗に変な薬でも飲まされたのだろうと話を聞いてくれた警察官も、大使館の職員も口を揃えて言ってきた。しかしどうだろう、彼らは私の体に数多と残る引っ掻き傷はどう説明しようと言うのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ