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第22話 お酒を楽しみたいので頑張ります

 情報量が多かったせいかロベルト枢機卿、ベルンハルト枢機卿は食事が終わっても顔が真っ青だった。


「少し情報を精査したい。……明日改めて詳細を聞いても良いでしょうか?」

「自分も同じく」


 深刻そうな2人の顔を見て快諾する。


「もちろんです! 大事なことなので各陣営同士、しっかり話し合ってくださいませ」


 せっかくなので、証拠(エビデンス)として鑑定に書かれていた内容の一部を羊皮紙に転写して渡すことにした。こういう物があったほうが信用されやすいだろうし。


「神々も今の世界を憂いているからこそ、私をここに寄越したのですから」


 神様的都合とは違うが、それでも観光とは安全で平和だからこそ楽しめるわけで、面倒な政治やら国家間の問題はささっと解決してしまうに限る。彼らが立たないなら他にもやり方はいくらでもあるのだ。

 私が御旗となって立つつもりはまったくない。そういうのはこの世界に暮らしている人がすべきことだ。私は旅人で、異邦人なのだから。


「「聖女モモカ、良い一日を」」

「ええ、お二人も」


 レストランから出るとランドルフ騎士団長たちと共に部屋に戻る。こちらもこちらで今後の話をすべきだ。そう55階層の街の探索だ。

 もちろん、今まで集めたアイテムや薬草を売って換金も忘れない。でもまずは街の探索。これは絶対に譲れないし、夜になったらお酒も飲みたい!


「ランドルフ騎士団長、エイブラム卿、オウカ様。この後の相談をしたいのですが、時間をいただけませんか?」

「もちろんです」

「当然」

「某も問題ありませんよ」


 二つ返事でOKを貰えた。みんな立場があるのに私のことを優先してくれる。なんて頼もしく優しい人たちなのだろう!



 ***



 そんな訳で早速、街の散策を提案したのだが──。


「許可できません」

「ダメだな」

「……流石に今日は難しいんじゃないか?」

「え」


 全人一致で外出禁止を言い渡されてしまった。どうして! とっても楽しみにしていたのに!


「ご、55階層は、ダンジョン内でも生活圏内だから安全なのでしょう? ちょっとぐらい街を見て回っても平気だと思うのだけど!?」


 やっと観光ができると思っていたのに、なんという所業! これは絶対に譲れないわ!


「時期が悪い」

「じき……?」


 街が混む時期とかイベントとか混み合うとか?


「……枢機卿の二人が直々に辺鄙なダンジョンに来ているとなれば、当然次席を狙う者たちに狙われる。今や55階層にはさまざまな勢力が集まり、虎視眈々と機会を伺っているのです。そんな状況下で、聖女様が出歩いていれば一瞬で身柄確保の争奪戦となります!!」


 枢機卿のせいか!! 

 ランドルフ騎士団長が力説するのだ間違いないだろう。そもそも危険な場所になんで若い枢機卿二人は来ているのよ! 後釜を狙っている人間からすれば美味しい状況なのはなんとなくわかったけれど!


「大袈裟な。それは枢機卿たちが目立つってだけで……」

「いや姫さん、本当に今回はヤバイからな。魔物よりも人間のほうが怖いんだぞ」

「いっそ手を出したら問答無用で斬れるんだがな」


 エイブラム卿がなんだか怖いこと言っている! そんなに危ない状況なの? うーん、クエストとか特にないのだけれど。

 しかし危険だというのならわざわざ死地に飛び込むのは馬鹿なことだ。妥協はすべき、そう妥協は。


「それなら午後の視察は諦めて夜! 飲みに行くのは? ほ、ほら本来の姿に戻れば大丈夫でしょう!」


 名案だと思ったのだが、部屋の空気が一気に氷点下まで下がった。あれ? 名案だと思ったのにどうして?


「ええっと?」

「モモカ様。本来の姿に戻るということは、そのご尊顔を周囲に見せるということになるのですよ?」

「うん?」

「姫さん、その美貌が視界に入ったら人攫いと求婚者で、大変なことになるってさすがに分かるだろう?」


 いや分からんよ? 私の顔でそんなことになるのなら私よりも織姫のほうに殺到すると思うのだけど。無言のエイブラム卿を見ると固まっていた。


「いっそのこと求婚してしまえば……いやその前にデートを」


 なぜに求婚することを前提に考えているのだろう。なんだか話がおかしな方向に向かっていたので軌道修正をはかる。


「まず私は男装して認識阻害の魔導具を使うので大丈夫でしょう」


 男装の服と、魔導具はあとでポイントを使って購入すれば良い。すでにそういうアイテムが購入できることは確認済みだ。それに自分の身を守る魔導具も準備はある。その旨を三人に説明した。


 二時間後。


「……そこまで言うのでしたら、いいでしょう」

「やったぁ!」

「しかし姫さん、そこまでしなくともホテルの中にもbarやレストランで飲めるだろう? どうしてそうまでして外で飲みたがるんだ?」


 オウカ様の質問にランドルフ騎士団長も「たしかに」と不思議がっていた。「それは観光旅行の醍醐味だから」と、言いたかったけれどもう一つ理由がある。


「むしろホテルの中には知り合いしかいないでしょう。……もしのんびり飲みたいのに枢機卿のお二人が同席したいとか言い出したらどう思います」

「それは嫌ですね」

「嫌だな」

「酒が不味くなる」


 三人ともその当たりは察したようだ。そう接待のみほど辛いことはない。特にあまり親しくもない上官というのは地獄だと思う。

 とにもかくにも夜ご飯を食べた後にエイブラム卿オススメのお店に行くことが決定したのだった。


 もっとも問題だったのは織姫とハクが同行したい、というものだった。どっちも連れて行ったら即バレするのは確実だ。


「織姫は私の代役をしてほしいの」

「……おるすばん」


 目を潤ませて泣きそうな姿に心が折れそうになる。けれど今回ばかりは折れるわけにはいかない。異世界のお酒が私を待っている!


「その代わり、織姫のお願いをなんでも聞いてあげる」

「おるすばんする」


 織姫が良い子で助かったわ。あとはハクの説得だけだ。


『やだやだやだ! 桃花と一緒にいく!!』


 仰向けで前足をジタバタするハクはとても可愛らしい。駄々をこねている姿も微笑ましい限りだ。


「ハクの姿はすぐに神獣だってバレちゃうから連れて行けないの。ごめんね」

『じゃあ、この姿を変える!』

「え?」


 ぼふん、という音と共にハクの姿が変わった。別の小動物にでも変わったのかと想ったが、私の予想は大きく外れる。

 白銀色の長い髪、琥珀色の美しい瞳、長身で目鼻立ちも整った偉丈夫が姿を見せる。あまりにも美しすぎる。エイブラム卿は野性味のあるワイルドなハンサム。オウカ様は褐色の肌がエキゾチックかつ色気のある二枚目。ランドルフ騎士団長は太陽のような快活なイケオジ。

 でもハクのこの姿は彫刻のような美しさに加えて儚い系の偉丈夫なのだ。本当にこの世界の顔面偏差値がえぐい。


「桃花! これなら良いだろう!」


 えええええええええーーーー!?

 とびきりの笑顔に直視できない。しかしハクは当然のように私に抱きついてくる。


「桃花!」


 ぎゃあああああああーーー、イケメンだけれど中身はハクだからあああああ。あああ情報処理が上手くできなくて死ぬぅううう!

 ちゃんと男の人だわ。中身はハクのままだけど!

 ハクは聖職者のような神官服に身を包んでいるので控えめに言って天使!? いやもうこれ神様レベルだと思う。キラキラエフェクトが三倍増しになって眩しすぎる。うちの子は可愛くてかっこいい……。


「桃花??」

「は、ハク!? あなたこんなにイケメンだったの?」

「いけめん? 桃花気に入った?」


 ぎゅうぎゅうに抱きついてくる。ハクは甘えて私をお人形のように抱きかかえてしまう。今は私のほうが子どもだから完全に立場逆転な状態だ。


「桃花? もしかして僕がこの姿になるの嫌?」

「そ、そんなことないわ。すごくかっこよくてビックリしたの!」

「かっこいい? えへへ、桃花大好き」


 さらにご機嫌になったハクは私の頬にキスをしてくる。このあたりも普段の姿なら気にしないのだが、いかんせん今は人の姿だ。こんなイケメンに抱擁、抱っこ、キスというのはキャパオーバーだ。


「ハ、ハク! そういうのは人の姿で誰にでもしたら駄目だからね。それと甘い物とかキラキラした物をあげると言われても、絶対についていったら駄目よ!」

「うん。僕がこうするのは桃花だけだ。偉い?」

「偉い、偉い」


 それはそれでいいのだろうか。うーん、まあ今はそれでいっか。この時、ハクが私を抱きしめたままエイブラム卿たちに対してほくそ笑んでいたのに全く気づかないった。



 ***



 短髪用のカツラに、男物の服装。胸はサラシがないので、織姫の織った布を巻きつける。


「軽くて、銃弾も弾く」

「……また凄い布を織ったのね」

「えっへん」


 織姫に頭を撫でると、機嫌が良くなった。お留守番なので、たくさんかまってあげよう。男装した格好でギュッと抱きしめた。


「あるじ」


 一瞬でデレデレになった。ふふふ、かわいいやつめ。認識阻害の魔導具である耳飾りを付けて、護身用に腕輪と指輪。これでいいだろう。服装は白のチュニックに黒の軍用のズボン、厚手のブーツ、それと黒のローブだ。

 なんだか駆け出し冒険者って感じだわ。


「桃香!」

「わあ!?」


 いつものようにハクは私に抱きついてくる。人型で大人の姿なので、私が本来の姿だと後ろからハグされている感じだ。

 本来の姿からこそ余計にハクが男の人だと嫌でも認識させられる。逞しい胸板に、低い声、骨ばった手は硬い。エイブラム卿のような騎士の手とは違うけれど、男の人だと思うとドキドキしてしまう。


「桃香、桃花! 一緒にお出かけ楽しみ」

「ハク!」


 バツイチだけど、夫婦間でこんな甘々イチャイチャしたことなかった。

 免疫なんて無いようなもの! 狐吸いしていた時のようなお日様の匂いではなく、なんかお香のような不思議な匂いがする。ハク自身の匂いとか?

 私にベッタリなのはいつもと同じなのに、姿が変わるとこうも印象が変わるとは思いもよらなかった。ハクが大好きなのは変わらないけれど、抵抗というか、慣れない? うーん。


「……もしかして桃花は、僕のこと嫌いになった?」

「え?」

「だってこの姿になってから、ハグもチューも毛繕いもブラッシングもしてくれないじゃ無いか!」


 毛繕いという言葉に一瞬「?」となった。そもそも子狐の姿でも毛繕いをした記憶が無い。それとも爪切りとか狐吸いとかが毛繕いの部類に入っているのだどうか。いや今はそんなことよりもなんて答えるかだ。

 慎重に。そして言葉を選ぶ。


「あるじが困っている。その姿が問題?」

「!?」


 織姫!?? どうしてズバッと言っちゃうの!! 間違ってないけども!!

楽しんでいただけたのなら幸いです⸜(●˙꒳˙●)⸝


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