第21話 セイジョデスからは魔法の言葉
「なっ、なにを……」
「……っ」
「教会に楯突くと言うのか!?」
怒鳴り声に体がびくりとする。元夫の癇癪を思い出して、トラウマが蘇る。一瞬呼吸ができなくなるも、ハクと織姫の温もりに「ふう」と吐息が漏れた。
「我らの聖女にずいぶんと無礼じゃないか」
「そうだな。威圧する、それがお主らの騎士道精神か?」
「エイブラム、オウカ」
ランドルフ騎士団長が止めるも、その目は怒っているのがヒシヒシと伝わってきた。私の代わりに誰かが怒ってくれていること、守ろうと抱きしめてくれていること。
大丈夫。自分のそう言えるぐらいに私は周りに大切にされている。
「ランドルフ騎士団長、エイブラム卿、オウカ様。私は平気です」
護衛聖騎士の一人、ええっと第三聖騎士団ロメオ・ファーゴ。岩みたいな屈強そうな巨漢の男性だが、レベルは50とこの中で一番低い。
ちなみに彼には青い黒い小さな小鳥姿の精霊が傍にいる。この人も見えていないのだろうな。一方通行なのが、見ていて切ない。だからついお節介を焼いてしまうのだ。
「神や精霊の言葉を借りればそうですね。今の教会を壊してほしい。でないと手遅れになると憂いているわ」
「戯言を」
そう吐き捨てるように言い切ったロメオに、ランドルフ騎士団長、エイブラム卿、オウカ様の殺意が増した。ついでに織姫とハクはすでにブチ切れています。はい。
今高速撫でまわしをしているので、押さえているけど時間の問題ね。
「ロメオ・ファーゴ。レベルは50。貴方の小鳥の精霊も震えているのに、貴方は見捨てる選択をなさるのね。昔捧げてくれた食べた桃饅頭が美味しかったこと、小さな祠の前で、可愛らしい歌を歌ってくれた。それが嬉しかったから、その小鳥は貴方に加護を与えた。でももう消える寸前よ。その理由、原因に貴方は心当たりがあるんじゃない?」
「なっ!? ぴーちゃんが傍に!?」
名前ぐらいは調べれば分かるだろうけれど、レベルと精霊については本人なら何かしら気づくかも知れない。というか今、この人、ぴーちゃんって言った?
こほん、と咳払いをしつつ言葉を続ける。
「私には鑑定の能──贈物があるわ。例えばロベルト枢機卿の傍にいるのは、第三聖騎士団オルヴォ・ペチーレでレベルは53。花の妖精が傍にいるわね。お花を育てるのが趣味で、密かな趣味……」
「なぜそれを!? 誰にも話していないのに!」
真っ赤な顔をして照れている。そこまで変な趣味じゃないと思うのだけれど?
「そしてその花にいつも愛を囁いていた。でも愛を囁くよりも、美しさを求めるようになったのは、いつかしら。貴方が花に付けた名前を呼ばなくなったのと、同じ時期かしらね」
「──っ!? フランソワーズ・アルルティ! 傍に居るのか」
ロメオと同じくらいに厳格そうな中年のオジサンが、思わず叫んだ。まさかのフルネーム。いやいるのは右じゃなくているのは左だからね。
本当は能力のようなものだけれど、この世界の人たち的には贈物の言い回しのほうが印象は良さそうね。
「聖女モモカ、君は……」
「まさか鑑定……だがそれにしてはあまりにも正確すぎる」
2人の枢機卿にジッと見つめられ、私は魔法の言葉を使う。
「……セイジョデスカラ!」
これで大体押し切る。ランドルフ騎士団長たちもこれで納得したので、この手でいく!
案の定、「おお!」と声が上がった。チョロい。良いのかそれで。私としては説明を省けるのでありがたいけれど!
「私の鑑定では何でもまるっとお見通し、趣味まで見えるんです。ベルンハルト枢機卿の第二聖騎士団マルクス・アモーレのレベルは55、趣味は修道院巡りをして、寄付を定期的に行っている。審判の神と慈愛の神が『いいぞ、もっとやれ!』と喜んでいるので、近々お参りに行くと吉……(途端に鑑定テロップが御神籤みたいな内容になった!? 吉ってこの世界の人たち分からないでしょ!)」
「え、あ、はい? ありがとうございます??」
この鑑定……もしかしなくても、神様が時々介入して文章を変えている??
じっとウインドー画面を眺めていたら、「(・ω<) テヘペロ」という顔文字が表示された。おい、プライバシーはどうなっているん??
鑑定内容自体は適切です。
鑑定内容自体は適切です。
鑑定内容自体は適切です。
3回も表示された……うん。そこに関しては疑っていないよ?
生配信中だし、さくさくと進めちゃいましょうか。間延びほど飽きるものはないもの。なんて感想を持ちつつもう一人の聖騎士を見た。
「ニーロ・カルリージ、レベル54。『最近、気になる子ができたが、その子は5股しているのでやめたほうがいい。いつも本を借りる時にいる控えめで地味な子が吉』……だそうです(もう吉の説明とかしてないけど良いか……)」
「5股……」
見た目がチャラそうな青年は、かなり凹んでいた。何だか遊び慣れていそう。まあ神様のありがたい(?)忠告をどう受けるのとかは、本人に任せよう。本題はこっちだ。枢機卿攻略開始!
「ベルンハルト枢機卿は、黒ずんだ蛇と赤黒い蛇の精霊。……いえ元は神様だったのかも知れないですね。それとロベルト枢機卿は灰とくすんだ黄金の獅子の精霊。……どちらもそう長くない。このままでは……ね」
私の言葉に半信半疑のようだ。うーん、やっぱり6歳児だと軽んじられてしまう?
見えないものを信じてもらうって、どうすれば……。
『あるじ?』
「あ、織姫。元のサイズに戻ることはできる?」
『できる。……あるじにひどいこと言ったら、ぐるぐる巻きにする?』
「う……うん。そうならないことを願っているけれど……」
織姫が上半身は絶世の美女姿で下半身蜘蛛、背には蝶の羽を見せた。唐突に現れた織姫の存在に、その場にいた枢機卿と護衛聖騎士は一斉に跪く。
ん??? え、なにこれ?
「この神々しいお姿とオーラは間違いなく、天上におられる女神様……!」
「いえ違いますよ」
「女神はあるじだ」
「織姫、それも違うからね。話をややこしくしないの」
「はい」
織姫は私と契約した精霊です。女神並みに綺麗なのは、そうだけれど! とっても美人さんなのは誇らしいけれど、違うからね。
「女神様!」
「このような場にまで顕現していただけれるとは……」
「この子、織姫は私と契約した精霊で神様ではないですよ?」
「は?」
「そんなわけあるか!? 神の御前であからさまな嘘を──」
「これ以上私の主人を侮辱するのなら、片腕をもぐぞ」
「織姫!? 糸でぐるぐる巻きにするんじゃないの?」
糸で身動きが取れなくなるのなら、危険はないかと思っていたけれど、もいだらダメ。もいだら織姫が危険だと思われちゃうもの。
「主人は優しすぎる。言うことを効かせるために、強い立場なのを知らしめないと」
「最終手段であって、今からやったら話が拗れるからやめようね」
「……わかった」
織姫は私に向き直ると、ぎゅうぎゅうに抱きついてくる。思った以上に織姫はストレスを溜めていたらしい。よしよしと頭を撫でると、ほんのすこーーーし落ち着いたらようだった。ハクが狡いという顔をしているので抱っこしてあげる。本当にハクは甘えん坊なのだから。
「ご安心召されよ。織姫様が動く前に聖女様を非難する者は、早々に叩き伏せますゆえ」
オウカ様は笑顔で言いながら既に柄を握っている状態だ。今すぐにでも居合い斬り出来る。
「ぎゃああーーー! オウカ様ステイ! 落ち着いて!」
「いえいえ、オウカの言う通り、やる時はやるべきかと」
「ランドルフ騎士団長!? エイブラム卿も構えないで」
「しかし」
「そうだぞ。ちゃんと実力で知らしめないと後でうるさいだろうが」
味方側を宥めるのに思いの外、苦労するとは思わなかった。みんな沸点が低すぎる! 挑発に乗ったら拗れるのでやめようね!? みんないい大人なんだから、落ち着いて!
「聖女モモカ様。……お恥ずかしながら、2人で双星教皇となるには実績や力が足りません」
ロベルト枢機卿の的確な発言だったが、そんなのは想定済みだ。
2人の枢機卿の鑑定には、クエスト中というテロップがあり、その試練をクリアするとドロップアイテム的な褒美が得られると書かれている。
ただ本人が、そのクエストに気づいてすらいない。本来伝えてくれるはずの精霊や妖精との意思疎通ができていないからこそ、色々と空回ってこの有様なのだろう。
「功績を手に入れればいいじゃない」
「いやですが、そう簡単に」
「できる」
言い切った。
その断言に空気が変わったのがわかる。ここからが勝負所だ。私には彼らの希望を叶えるだけの手札が揃っているのだから。
ピコン、と電子音が響いた。
特別クエストとポップアップが表示される。
若き枢機卿たちに助言せよ。
イージーすぎる。
それはここで彼らと出会い、鑑定したことで得た知識が教えてくれているのだから。
「王家出身のロベルト枢機卿は聖剣と神盾を手にして奇跡を起こし、剣は王家で盾は教会に貸し出す形で教皇の証にすればいいわ。ベルンハルト枢機卿は2匹の蛇の精霊を神に祀り直して、今領地に起こっている病ごと治せば教皇レベルのロッドが出現するから、それを同じく教皇の証にすれば双教皇としてやっていけるんじゃないの?」
「え」
「は?」
「ああもちろん、聖剣と神盾の場所のマッピングはすんでいるから教えれば簡単。ああ、でも王家の血を持つ者が取りに行かないと駄目だから。それとベルンハルト枢機卿のほうは上等なワインを用意すること。後聞きたいことは?」
「「はあああああああああああ!?」」
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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※2026年3月20日に内容を調整しました。大筋は同じです。




