第24話
夜が明ける前、私は再び王都の奥深くへ向かった。
今度は、聖堂へ──だが、そこは教え込まれてきた聖なる場所ではなく、絶望に沈む涙と空腹の声に満ちていた。
聖堂と名のつく病棟は、人知れず負傷者と病人が集う場所だった。
薄暗い廊下、ろうそくのほのかな光、布で簡易ベッドを作った人々の姿。
私は変装を解き、聖堂の司祭に挨拶した。
彼は震える声で言った。
「この場所は、貧しい人々の最後の砦。
しかし薬も人手も足りず、毎日誰かが命を落としているんです……」
朽ちた木のベッドに、老女が寝ていた。
頬はこけ、呼吸は浅く、涼しい風でも震えるほどだ。
「おかあさんを……治してほしいです……」
若い娘が老女の手を握りしめて訴える。
司祭は俯きながら、
「薬を買う金も尽き、王宮にも許しを請いましたが、
“もう救えない”と冷たく断られました……」
その言葉に教会の雰囲気が凍りつく。
老女の嘆きは、私の胸に重く響いた。
祖母の顔が頭をよぎり、涙がこぼれそうになる。
(いつから、命を救うはずの“王”が、こうして無視するようになった?)
心臓が締め付けられるようだった。
アリアナ・リース――私は、“民の声”を聞くためにここにいる。
老女と若い娘を見つめながら、私はそっと包帯をほどくと、左腕を見せた。
「わたしが……力を使えば、傷を癒せます。
でも、それは“今だけ”。
本当に必要なのは、薬と医者と、制度です」
その手に、静かだけれど確かな強さが宿った。
「私は“神蛇の巫女”。でも、神秘も宗教も、私の目的は民です。
私は約束します──あの子たちに、薬を届ける、医を届ける、
そして、聖なる制度を取り戻すために動きます」
その場にいた人々の視線が、静かに変わった。
司祭は涙をこらえながら、
「……あなたが“神蛇の巫女”なら、
奇跡ではなく、制度を……民を救ってください」
と、震える声で言った。
私は頷き、老女の手をそっと握った。
左腕がほんのり暖かく、包帯越しに力が回っていくのを感じた。
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夜、私は宿の窓辺に座っていた。
外は静まり返り、月明かりだけが部屋を照らす。
日記帳にペンを走らせる。
「——聖堂で民の声を聞いた。
病と貧困は、呪い以上に重い。
これからは、
神蛇の力を“救う制度”にするために使いたい」
左腕の蛇がくねり、温もりを返す。
(これが、巫女としての最初の仕事。
王家を倒す覚悟と同じくらい――私は、尽くす覚悟ができた)
ページを閉じたとき、私は微笑んだ。




