第23話
夜が明けきらぬうちに、私は人目を忍んで宿を出た。
王都の南端、地図からすら消された一帯——「廃区」と呼ばれる場所へ向かうために。
表の華やかさの裏で、見えなくされた人々の声を確かめたかった。
(神蛇の力を振るう前に。……私は、この国を知らなくちゃいけない)
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瓦礫の隙間に、小さな靴音が響いた。
薄汚れたワンピースを着た少女が、がれきの上で何かを拾っていた。
「……お姉ちゃん、薬草、買える?」
突然話しかけられて、私はぎこちなくうなずいた。
少女は泥だらけの手で、干からびた薬草を差し出す。
「うちね、もう三日、ごはん食べてないの。弟、泣きすぎて熱が出ちゃって」
(……これが、“今のこの国”の現実)
心が冷たく締めつけられる。
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「昔はね、ちゃんと家があったの。壁も、屋根も。
でもね、お金払えなくて追い出されたの。……全部、税のせいだって、ママが泣いてた」
少女の声は、静かに、でも確かに私の胸をえぐった。
学院の中では見えなかった“現実”。
王宮で語られなかった“真実”。
この国の“王”は——いったい、誰のためにいるのだろう。
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少女の名前はアイリーン。弟はまだ幼くて、名前も満足に呼ばれないという。
私は彼女の傍にしゃがみ、小さな肩を優しく抱いた。
「あなたのこと、忘れない。必ず、……守る」
その瞬間、左腕の奥で、蛇の核がぴたりと動いた気がした。
(……これは、“王を壊すため”の力じゃない)
これは、“民を守るため”の力にする。
その決意が、心の奥で静かに燃えた。
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宿に戻った私を、月明かりが迎える。
私は筆を取り、日記帳にそっと書き記す。
「——私の力は、あの子たちのために使う」
神蛇の巫女として。
この国を変えるために。




