第22話
王都の朝は、驚くほど冷たい風が吹いていた。
けれど、それより冷たいのは——人々の表情だった。
私が市場に降り立ったとき、まず目に入ったのは、土の上にうずくまる小さな背中。
裸足の子どもが、寒さに肩を震わせながら、パン屑を拾っていた。
(……こんなに、飢えてるの?)
驚いた。衝撃だった。
私がいた学院の中では、食べきれないほどの料理が毎日並んでいたのに。
「お姉ちゃん……これ、半分でいいから……」
かすれた声が、私の裾を引いた。
見れば、泥だらけの手に、固くなったパンを差し出している。
買ってくれたら、お金で母さんの薬を買える——と。
(……私、この国のこと、何も知らなかったんだ)
心の奥に、ゆっくりとひびが入る音がした。
さらに、子どもの母親が、申し訳なさそうに笑った。
「すみません……この子、昨日から何も食べてなくて……」
声が震えていた。
けれど、涙はこぼれていなかった。
泣く余裕すらないのだと、私は気づいてしまった。
「王家がもっとまともだったら、税も、ここまで高くならなかったのに……」
その言葉に、私は動けなくなった。
⸻
(……王子は民の状況を知っていたんだろうか?)
あの人は、私が手を差し伸べなかったから、腕を切り落とされたと聞いた。
今は王宮の奥で幽閉されているらしい。
呪いの残滓が暴れ、処遇すら決められないという。
そして、王は言った。「もう一度、助けてくれ」と。
何ひとつ、謝りもせず。
私は、立ち尽くすしかなかった。
そして——王族たちはこの国の民を、こんなにも苦しめている。
⸻
夜、宿に戻っても、胸の奥がざわざわして眠れなかった。
窓から覗いた夜空に、月が静かに浮かんでいる。
(私は、神蛇の巫女。
でもそれ以上に、一人の人間として——)
見なきゃいけない。聞かなきゃいけない。
この国の“本当の姿”を。
左腕の包帯の下で、蛇がふわりと動いた。
それはまるで、「答えはおまえ自身の中にある」と言っているようで——
私はそっと、目を閉じた。




