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四十五歳、犬と異世界で砦暮らし  作者: 綾瀬たまき
第一章
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7/28

7.管理官と補給官

「貯蔵庫の整理は終わってるか?」

 朝一番に副団長のオスカーさんが厨房にやってきた。

「はい!終わってます」

「在庫の確認もしました!」

 今朝の食事当番、レオンさん、マルクさん、ディーンさんが答える。

「わかった。

 今日は補給官の確認があるからな。

 ああ、メイさん」

「はい」

「今日は朝食が終わったら、食堂で待っていてください。

 準備が出来たら呼びに来ますから」

「はい、なんだか緊張しますね」

 するとオスカーさんはニコッと笑って

「大丈夫です。

 来訪者の様子を確認するために来るだけです。

 できればゴローも一緒に」

 と言ってくれた。


 朝食が終わり、言われたとおりに食堂で待つ。

「どんな人なんだろうね、ゴロー」

 ゴローの背中を撫でながら話しかける。

 そういえば、ゴローだってこの世界では来訪者みたいなものだ。どこかに連れて行かれたりしないよね?

「メイさーん、応接室にお願いしますって伝言ですよー」

 エルンさんが呼びに来てくれた。

「ありがとうございます!

 応接室って団長室の隣ですよね?」

「そうですよ!

 僕が案内するから着いてきてください」

 今日は初対面の人に会うから、ゴローにもリードをつけた。


 エルンさんの後にゴローと続いて歩くと、エルンさんがプハっと笑う。

「大丈夫ですよ、そんな緊張しなくても。

 …はい、着きました」

 エルンさんが2回ノックする。

「入れ」と団長さんの声がした。

 よかった… 団長さんもいてくれるなら少し安心だ。

 失礼します、と入室すると団長さんの向かいに知らない服を着た、五十代後半くらいの男性と若い男性が座っていた。

 見知らぬ男性達は立ち上がり、五十代くらいの男性がやわらかな笑顔を浮かべて言う。

「はじめまして、管理官のセドリック・ローヴェルです。

 あなたがメイさんですね?」

 うん、この人絶対偉い人だ。

「はい、メイ・ヤマシタです。

 今日はよろしくお願いします。

 この子がゴローです」

「こちらこそ。

 この子がゴローですか。いい犬だ。

 では、さっそくですがお話を聞かせてください。

 ではガレス団長、終わりましたらお知らせします」

「ああ、よろしく頼みます」

 えっ、団長さん退席しちゃうの⁈

 それからはセドリックさんに聞かれるままに、この世界に来た時の状況や、今の状況を話した。

 若い男性が記録を取っている。

「何か困っていることや不自由なことはありませんか?」

「まだこの世界の文字が難しくて… 騎士さん達にも教えていただいてるんですが、なかなか覚えられません」

「そうですか、では王都から教材を持ってきていますので、今日置いていきますね。

 それと王都の保護施設ですが、犬も受け入れ可能になりました。

 移る意思はありますか?」

 王都にゴローと移る。

 この砦を離れて暮らす姿を想像してみたが、どうもしっくり来なかった。

「いえ、移ることは考えてません。

 こちらで引き続きお世話になりたいです」

「わかりました。

 メイさんの意思を尊重します。

 我々はあなた方の味方です。

 私の祖母もニホンから来た人でした。

 これからも、何かあれば遠慮なく頼ってください」

「お祖母様が…そうなんですね。

 ありがとうございます」

「この砦はガレス団長の目が行き届いていますし、信頼できる者ばかりですから安心してください。

 それと、ゴローにも何かあれば連絡を。

 獣医師を派遣します」

 ゴローにまで気を配ってくれるなんて!

 この国の制度に感謝しかない。

「来訪者には当面の生活費が支給されますので団長に預けておきます。

 今回は必要そうなものをいくつか持ってきましたが、ほかに必要なものがあれば遠慮なく買ってください」

「ありがとうございます。

 でも私、こっちのお金の価値がまだ全然わからなくて」

「そうでしたね。

 良く使うのは鉄貨、銅貨ですかね。

 鉄貨十枚で銅貨一枚、銅貨も十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚です」

「…銅貨一枚で、何が買えますか?」

「そうですね。

 …町の食堂なら、一食食べて少し釣りが来るくらいでしょうか」

 私は頭の中でざっくり計算する。

 銅貨一枚が千円くらい。

 銀貨が一万円、金貨が十万円。

 まあ、そのくらいに考えておけば買い物には困らなさそうだ。

 話が終わり、私はゴローと一緒に応接室を出た。

 廊下には団長さんが待っていた。

「終わったか」

「はい。

 思っていたより怖くなかったです」

「そうか。

 じゃあ次は補給官のところへ行くぞ」

「貯蔵庫ですか?」

「そうだ、今ごろ積荷を運び込んでいる頃だろう」

 ゴローのリードを外してやると、団長さんにあいさつしてから庭の方へ消えて行った。

 私と団長さんは貯蔵庫に向かった。


 貯蔵庫の前には、がっしりとした少し背の低い男性が仁王立ちしていた。

 帳簿をめくりながら、オスカーさんと物資の確認をしている。

「いままでより油と米、砂糖の減りが早いな」

「最近よく使うようになりましたからね」

「バルド補給官」

 団長さんが声をかけると、その人は振り向いた。

 ずいぶん髭が立派な人だった。

 息子がやっていたゲームに出てきたドワーフっぽい感じだ。

「おう、先に始めてるぞ。

 そっちの嬢ちゃんが例の来訪者か」

 嬢ちゃん⁈そんな年齢ではないんだけど、いいんだろうか?

 これはアレか、海外だと日本人は若く見えるってヤツだろうか。

「はじめまして、メイ・ヤマシタです。

 …すみません、揚げ物をして油を使ってしまいました。

 あと、嬢ちゃんと言っていただけるほど若くないです…」

 ぺこりと頭を下げる。

 バルドさんは豪快に笑った。

「俺から見たら嬢ちゃんみたいなモンだ。

 ああ、油のことは謝らんでいい。

 ここの奴らが今までほとんど使わん物質が減ってるから気になっただけだ」

「いままでは調理法が限られてたからな」

 団長さんがうんうん、とうなづく。

「今は嬢ちゃんが料理を作ってるんだって?

 米はどんな食い方してるんだ?」

「炊いて食べるか、おにぎりにします」

「炊く?おにぎり?…聞くだけじゃわからんな。

 実物があったら見てみたい」

「今はごはんがないので、夕食でお出しします。

 おにぎりも作るつもりです。

 今すぐお見せできるのは、クッキーですね」

「ああ、あれはいいな」

 団長さんがうなずくと、バルドさんの目がキラリと光る。

「あとでもらおう。

 ところで、今回の物資で新しいものもいくつかあるが、欲しいものはあるか?」

「豆があれば見せていただきたいんですが…」

「ああ、こっちの袋だ」

 バルドさんが見せてくれた豆の中に、見覚えのある豆がある。

「これ、大豆ですか?」

「そうだ、知ってるのか?」

「探してたんです!これで調味料を作りたくて。

 …あの!お酒を作る時に使う麹ってご存知ですか?」

「ああ、それも今回入ってきてるぞ。

 欲しいなら置いていくが」

「ありがとうございます!」

「ダイズとコウジだな、申請書類に追加しておこう」

 その後、せっかくだから他の物資も見せてもらった。

 見たことのない豆や乾燥した果物、香辛料らしいものもある。

 どれも気になる。

 気にはなるんだけど、今はもうそれどころではない!

 大豆と麹!

 これで味噌が作れる!

 団長さんとバルドさんが何か話していたけれど、私の耳にはほとんど入ってこない。

 頭の中は、味噌をどう仕込むかでいっぱいだった。

 私は味噌作りの手伝いはしたことがある。

 うちの祖母は自分で味噌を作る人だったから、子供の頃に手伝わされていたのだ。

 そんな私を見て、しかたないな、という顔で団長さんが笑う。

「メイ、気になるなら厨房で作業してていいぞ」

「いいんですか?」

「ああ。こっちはもう大丈夫だ」

 お礼を言って、大豆と麹を抱えて厨房へ向かう。

 さあ、味噌作りの始まりだ!

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