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四十五歳、犬と異世界で砦暮らし  作者: 綾瀬たまき
第一章
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5.日本人の魂

 砦で保護された日から十日たった。

 元の世界に戻る方法はまだわからない。

 あれから私の毎日は変わらない。

 朝はゴローと散歩してから朝食を作りに厨房へ行く。

 洗濯を済ませたら昼食を作り、夕方にはまた夕食の支度をする。

 夕食後、片付けと翌朝の仕込みまで終えたら、ようやくゴローと部屋に戻る。

 日本にいた頃は会社にいた時間より、今は厨房にいる時間が長くなった。

 でも、その方が今はありがたかった。

 暇な時間を作りたくなかった。

 騎士さん達のこともだいぶ見分けがつくようになり、名前も少しづつ覚えてきた。

 すこぶる順調な砦生活であるとは思う。


 しかし、一つだけ悩みがあった。

 白米。

 そろそろ白いご飯が食べたいのだ。

 どこかにないだろうか?


「ありますよ」

 意を決して今日の食事当番、ウィルさんに聞いてみたらあっさり答えられた。

「え?あるんですか?」

「はい、ただうまくないんで食べてないだけです」

 日本のお米とは種類が違うのかもしれない。

 この際、まずいお米だっていい、白米であるならば!

「貯蔵庫のどっかにあると思いますよ。

 探しに行きましょう」

 ウィルさんと一緒に貯蔵庫へ向かう。

 廊下を歩いていたゴローも、私たちがどこへ行くのか気になったのか、そのまま後ろからついてきた。


 貯蔵庫は整頓されてはいる。

 しかし壺や箱に何が入ってるのかは私には読めない。

 不思議なことに来訪者は言葉は通じる。

 だが読み書きは習わないと覚えられないと団長さんが言っていた。

「えーっと、米… ありましたよ!

 これです」

 ウィルさんが袋を開けて見せてくれる。

 紛うことなきお米だった。

「やったぁぁ!」

「米でそんなに⁈」

「米は日本人の魂なんですよ!」


 厨房に戻り、鍋に米を入れて研ぐ。

「そんなに何回も洗うんですか?」

「何回か水を替えながら研ぐんです」

 次は水加減。ここには計量カップなんてないから、私は自分の手を使う。

 お米の上に手のひらをそっと置き、手首の少し下まで水がくるようにする。

 三十分程度、吸水させてから、鍋に蓋をして火をつける。

 最初は中火にして、蓋から泡が出たら弱火にする。

「吹きこぼれてますよ!」

 ともう一人の食事当番のエディさんが鍋の蓋を開けようとする。

「開けちゃだめ!」

 思ったより強い声が出た。

「ごめんなさい、エディさん。

 お米はこれでいいんです」

「え?そうなんですか?」

「いつもどうやって食べてたんですか?

「茹でてました」

 お米を茹でる…

 やったことはないけど、それはどうなんだろう?

 お粥的なものになるんだろうか?

 鍋からパチパチ、と音がし始めたので、火を消して蒸らす。

 エディさんはここでも蓋を開けようとして、私に止められたのだった。


「さて、炊けました。」

 鍋の蓋を開けるとふわりと蒸気があがる。

 木べらでかき混ぜてみると、底に少しおこげが出来ていた。

「ごはんだ…」お皿に乗せて、一口食べる。

 ちゃんとごはんになっている。

 気がつけば涙が出ていた。

 足元にいたゴローが、どうしたの、とでもいうように私の膝へ鼻先を押しつけてくる。

「ちょ、メイさん大丈夫ですか⁈」

 エディさんとウィルさんが慌て出す。

 泣き止まなきゃ、と頭では思うのに次々に涙がこぼれてくるのだ。


「あ!団長!」

 廊下を通りかかった団長さんをウィルさんが厨房に引っ張ってくる。

「なんだ、どうした… メイ、何かあったのか?」

 泣いている私を見て団長さんが驚いている。

「どうした?何があったんだ?」

 団長さんがウィルさんたちに聞いている。

 まずい、このままだと誤解されそうだ。

「ごはんが、ごはんが炊けたんです」

「は?ごはん?炊けるってなんだ?」

「メイさんが米が欲しいって…」


 しばらくして落ち着いた私は、塩むすびを三つ作った。

 団長さん、ウィルさん、エディさんに味見してもらうためだ。

「塩むすびです。

 おにぎりともいいます、どうぞ」

「いただこう」

「いただきます」

 3人は塩むすびを半分齧って、残りをしげしげと見ている。

「うまいです、これ」

「米って、これが正解なのか」

「塩気と甘味のバランスがいいな」

 よかった、好評である。

「これ、今日の夕食に出してもいいんじゃないですかね」

「ああ、評判が良ければ補給部隊に申請して在庫を増やそう」

「今日の夕飯のチキンソテーにも合いそうです」

 まだ涙の跡が残る私を気遣って、みんなそっとしておいてくれた。

 ここの人たちはホントに優しい人ばっかりだ。

「チキンソテーにごはんは絶対合います!

 じゃあ、夕食の準備しましょうか」

 ちょっとがんばって笑ってみた私に、団長さんが

「ああ。米は故郷の味なんだろう?

 いつでも食べられるようにしておく」

 と言ってくれた。


 夕食に出した、炊いたお米は騎士さん達に意外なほど喜ばれて、あっという間になくなった。

 団長さんは、翌日から私が食べる分のお米は毎日炊いていい、と許可をくれた。


 夕食の片付けも終わり、ゴローと部屋に戻る。

 ゴローはベッド横のいつもの場所で丸くなる。

「ゴロー、ごはん食べられるって。

 うれしいねぇ」

 ゴローの背を撫でながら、今日の出来事をかみしめる。

 この世界でも、なんとか生きていけるような気がした。

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