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四十五歳、犬と異世界で砦暮らし  作者: 綾瀬たまき
第二章
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25/29

25.カレーの日

 騎士さん達を一喝した後、団長さんも戻って行った。

 後ろを、ゴローがうれしそうについていく。

 立ち去る姿をぼんやり見ていたら、大事なことを思い出した。

「あ!ミント!ミント干さなきゃ!」

 カレーに熱中しすぎて、ミントティーを忘れてた!

 慌てる私に、エルンさんが声をかけてくれた。

「ミント干すの? じゃあ僕達でやってくるよ!」

 エルンさんはミントの見分けができるから、遠慮なく食事係の三人にお願いした。

 私はこれから大量のご飯を炊かなくては!

 研ぎ終わった米から順に鍋にかけ、炊けたものは蒸らしていく。

 今日の夕食は野菜サラダとカレーだ。

 ああっ!サラダ!サラダも作らなきゃだ!

 どうも今日は、カレーに浮かれすぎてるみたい。

 いかんいかん、落ち着こう。

 サラダは葉物を洗って千切るだけだから、庭に行ったの三人が戻ったら、やってもらおう。

「ミント干すの終わったよー!

 あとレモユがなってたから採ってきたよ」

「レモユ?なあに、それ?」

 エルンさんたちが、両手にいっぱい黄色い実を抱えて戻ってきた。

 見てみると私の知らない名前の、夏みかんのような果実だった。

 試しに切ってみる。

 柑橘のいい香りが広がった。

 味見してみると、レモンとゆずを足したような感じだ。これはおいしい!

 三人に聞いてみると、庭の片隅に木があるそうだ。

 今まで全然気づかなかったなぁ。

「あとで場所を教えるっす」

 ロイドさんも知っていたらしい。

 そうだ、今日は塩と油とレモユの果汁でドレッシングを作ろう。

 さっぱりしたサラダになって、きっとカレーに合うはずだ。


 カレーも出来たし、お米も炊けた。

 サラダも盛り付けた。

 そろそろ夕食に騎士さん達が来る頃だ。

 廊下がにぎやかになって来た。

 カレー、受け入れてもらえるかな?

 なんだかドキドキしてきた。

 第一弾の騎士さん達が、ドヤドヤと食堂に入ってきた。

「あー、腹減ったー!」

「ずっと腹が減る匂いしてたもんな」

「楽しみだなぁ」

 そんなことを言いながら食堂に来た、騎士さん達の顔は皆ワクワクしている。


 しかし、カレーを見てちょっと驚いたようだ。

「これ…食べ物だよな?」

「茶色い…泥…?」

「いや、いままでメイさんがまずいもの作ったことはない!大丈夫だ、きっと」

「でも匂いはうまそう…」

 口々に戸惑っている。

 そうか、初めて見る人には泥に見えることもあるのか!

 すると、

「ホッホッホ、なんじゃ意気地がないのう。

 カレー、うまかったぞ」

 騎士さん達の戸惑いをヨハン先生が笑い飛ばした。

「…ヨハン先生のお墨付きなら…」

 えいっ!と騎士達が一口カレーを食べた。

「ん?」

「んん?」

「うまい!ちょっと辛いけどうまい!」

「俺はもう少し辛くてもいいな」

「こっちのサラダもうまい!レモユの味がする」

 どうやらみんなカレーの魅力に気づいたようだ。

 しめしめ。

「カレーは奈緒さんが教えてくれましたー!」

 そう言うと、騎士さん達が、おー!と拍手をする。

 奈緒さんはちょっと恥ずかしそうに、でもうれしそうにお辞儀していた。

「メイさん、カレーのおかわりあるか?」

 一杯目のカレーを食べ終わった、トマスさんがおかわりをしに来た。

 カレーが受け入れてもらえたことに、うれしくなる。

「カレー、いっぱいあるから、おかわりしてね!」

 みんなうれしそうにカレーを食べている。

 スプーンで掬う音が、カチャカチャとあちこちで聞こえてくる。

 ロイドさんが慌てて、食事当番が食べる分のカレーを別鍋に移している。

「やばい、これは俺達の分を確保しないと無くなる!」

 おかわりしよう、と次から次へと騎士さん達が、配膳テーブルにやってくる。


「大盛況だな」

 団長さんとオスカー副団長もやって来た。

 食堂の入り口に立って、皆の様子を見ている。

「はい!皆さん喜んでくれて、うれしいです」

 奈緒さんが顔をちょっと赤らめながら、にこにこして言う。

 私はよそったカレーを団長さんに渡しながら言う。

「団長さんもオスカーさんも、たくさん食べてくださいね」

 二人ともカレーを受け取って、ニヤリと笑った。


 ひととおり配膳も終わり、私達も団長さん達の横に座る。

 さあ、念願のカレーを食べよう!

 食べる前に、カレーの匂いを思い切り吸い込む。

 懐かしい香りだ。

「いただきます!」

 私と奈緒さんも、カレーにスプーンを差し込んだ。

「よかった、ちゃんと日本で作るのと同じ味になってる」

 奈緒さんがへにゃりと笑う。

「奈緒さん、このカレーおいしーい!」

 私は奈緒さんを尊敬の眼差しで見た。

 奈緒さんはニコニコしている。

「がんばった甲斐がありましたね!

 このドレッシングもおいしいです!」

「うん、レモユいいね!

 お菓子にも使えそうだし、使い道はいろいろありそう」

 やっぱりレモユドレッシングは、カレーに合う味だった。

「でもやっぱり…」

「カレー最高!」

 二人で声を揃えて言ってから、顔を見合わせて笑った。

 隣では団長さんとオスカーさんがスッと立ち上がる。

 こちらは二人揃っておかわりに行った。

 ふふ、やっぱり二人とも、カレーにハマると思ったんだよね。


 食後はミントティーを入れた。

 さっぱりしていて、スーッとする。

「あ、ほんとだ!ミントティーおいしいね」

 カレーといえばラッシーと思っていたけれど、ミントティーもなかなかだ。

「ミントは煎じて薬として飲んだことはあったんじゃが、茶として飲むのも良いのう」

 ヨハン先生がゆっくりミントティーを味わっている。

「カレー、毎日でも食べたい!」

 二杯目のおかわりから戻ったエルンさんが言う。

 ここにも一人、カレーにハマった人がいた。

「そういえば、日本でも海上自衛隊は毎週カレー食べてますよね?」

 奈緒さんが思い出したように言う。

「ニホンにも騎士団があるのか?」

 団長さんに聞かれて、私は答える。

「騎士団とは違いますが、国を守る組織なんです。

 確か金曜日がカレーの日だったんじゃないかな?」

「いいっすね!うちもやりましょう」

 私たちの話を聞いていた、ロイドさんがそう提案すると、

「さんせーい!」

 食堂にいた騎士さん全員が、声を揃えて返事をする。

 私も奈緒さんも、思わず笑ってしまった。

 足元では、ゴローがみんなのにぎやかな声を聞きながら、気持ちよさそうに伏せていた。


 夕食が終わり鍋を見ると、カレーはきれいさっぱりなくなっていた。

 うん、予想はしてた。

 でも、二日目のカレー、食べたかったなぁ…

 取り分けた別鍋も空っぽだ。

 でも、スパイスの配合は奈緒さんに教えてもらったから、また作ればいいよね…

 そして、団長さんの鶴の一声で、砦の金曜日の夕食もカレーと決まったのだった。

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