24.カレーが食べたい
奈緒さんが来てから五日が経った。
徐々に奈緒さんはここに慣れてきたように見える。
ヨハン先生と医務室で先生と話したり、こちらの世界の薬を見せてもらっているそうだ。
食事も食べているし、体調も良さそう。
さて、私は今日は厨房の裏の畑にいる。
まだ畑の記録ノートは見つからない。
ゴローが付いてきたそうにしていたが、犬には危険な植物もあるかもしれないので、こっそり一人で来てみた。
畑の端に、葉の細い香りの強い植物が植わっている。掘ると土の中から節のある根のようなものが出てきた。
「あれ?これ生姜じゃないかな?」
他の場所も見てみると、細長い葉が出ていたので掘ってみる。
「これは…もしかしてニンニク?」
宝探しみたいで面白くなってきた。
葉っぱが生い茂っているところを見てみると、よくわからないがなんだか食べられそうな実も何種類かあるので収穫する。
異世界の植物だから、畑にあったといえど、私には食用なのかわからない。
ヨハン先生に教えてもらおう。
そうだ、ついでにミントも摘んで行こう。
ノックをして声をかける
「メイです。ヨハン先生、今よろしいですか?」
「おお、お入り」
失礼しまーす、と入室すると部屋には奈緒さんもいた。
「どうしたんじゃ?」
「畑で取ってきたんですが、食べられるものかわからなくて。
先生に教えていただこうかと」
「おお、どれどれ。見せておくれ」
テーブルに収穫を入れたザルごと置く。
「これはジンジャー、こっちはガーリック、この実はレンコで、こっちはクレソン。
大丈夫、どれも食用じゃ」
「いろんなものが畑にあるんですね」
奈緒さんが感心しながら言う。
「あら、ミントがたくさんあるならミントティーにもできますね。
私、好きなんです。カレーの後はいつもミントティーを飲んでました」
カレー、懐かしい響きである。
思い出したらカレーの匂いがした気がする。
「…それ聞いたら、カレー食べたくなってきちゃった」
「いいですね!カレー私も好きです!日本にいる時はたまにスパイスを調合してカレー作ってました」
「カレーってなんじゃ?」
ヨハン先生が聞いてきた。
「カレーというのは肉や魚、野菜などの具材をスパイスで煮込んだ、スパイシーな料理です。
先ほど見せていただいたターメリック、コリアンダー、クミンなどを使います」
「料理に使うのか!おもしろそうじゃな、食べてみたい」
ヨハン先生も興味津々だ。
「ここのスパイスをつかってかまわんぞ、後は何が必要じゃ?」
「チリペッパーはありますか?」
「あるぞい。全部はいかんが、料理に使う分くらいなら持って行ってかまわんぞ」
これは…いけるかもしれない、異世界カレー。
ワクワクしながら聞いてみる。
「じゃあ、今日の夕食は…」
「カレーでどうですか?」
奈緒さんがにっこり笑った。
「では、カレーを作りましょう」
「はーい」
厨房には私、ナオさん、今日の食事当番のギランさん、エルンさん、ロイドさん、それと見学のヨハン先生がいる。
今日は奈緒さんがリーダーだ。
「ではまず、分担しましょう。
野菜はメイさん達に切ってもらいます。
私は玉ねぎのみじん切りをしてから、スパイスの調合をします。
今日は何人分作りますか?」
「はい!十五人分です!」
ギランさんが答える。
「十五人…おかわりも考えたら、倍は必要だね」
私も考えながら答える。
たぶん騎士さん達にカレーはウケるはず。
まぁ、残ったら二日目のカレーを楽しめばいいしね。
「わかりました。大きいすり鉢はありますか?」
「貯蔵庫から取ってくるっす!」
ロイドさんが素早く動いた。
「じゃあ僕は野菜を洗って剥くね。
玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、トマトでいいの?」
「はい、玉ねぎはみじん切りでお願いします。
トマトは洗って湯むきします。
メイさん、お米は足りそうですか?」
「大丈夫!何回かに分けて炊くから。
私はお米を炊くね」
はーい、とエルンさんが手を挙げる。
「湯むきって何ですか?」
あー、そうか、わかんないか。
ん?湯むきより軽く冷凍した方が皮がつるっとむけるかも?
「奈緒さん、トマトは軽く冷凍したらどうかな?」
「いいですね!その方が楽そうです。
じゃあ、みなさんがんばりましょう!」
「おー!」
「…目が痛い…」
エルンさんがグスグスしながら玉ねぎを刻む。
「がんばりましょう。もうすぐ終わりですよ」
横で奈緒さんも目を赤くしながら玉ねぎを刻んでいる。
ちょっと離れたところでギランさんとロイドさんがじゃがいもの皮を剥いている。
「ほぉ、こうやって見るとすごい量じゃのう」
ヨハン先生は感心している。
私はひたすらお米を研いでいた。
「玉ねぎ終わりました。
私はこれからスパイスを調合します。
エルンさん、生姜とニンニクもみじん切りしてください」
奈緒さんはすり鉢にスパイスを入れてゴリゴリとすっていく。
「不思議な匂いがするな」
ギランさんが鼻をくんくんさせている
「まだまだです。炒めたらもっといい香りになりますよ」
奈緒さんはどこかうれしそうだ。
見ているうちにヨハン先生も参加したくなったらしい。
奈緒さんと交代してすり鉢をすっている。
「先生、ありがとございます。
じゃあ私は玉ねぎを炒めますね」
奈緒さんは鍋の前に移動する。
ここで私は重大なことに気づいた。
ヨーグルトがない!
「奈緒さん、ヨーグルトないけどどうしよう?」
「そうですね… 小麦粉入れて、日本式のカレーにするのはどうですか?
お米にはそっちの方が合いそうですし」
「じゃあ小麦粉もいるね!持ってくる!」
奈緒さんが大鍋にみじん切りの玉ねぎと油を入れて炒め始めた。
「玉ねぎが透きとおるまで炒めます。
エルンさん、生姜とニンニクください」
「はい、どうぞー」
生姜とニンニクを入れて炒めると、さっきまでとは違う香りになった。
「あー、なんかいい匂いしてきた」
エルンさんも鼻をくんくんしている。
食堂のいつもの定位置で、ゴローもくんくん匂いを嗅いでいる。
「エルンさん、そろそろトマトの皮むこうか」
私とエルンさんは凍ったトマトを水につけ、皮をむいてからざく切りにする。
野菜の仕込みが終わったギランさん、ロイドさんにはお肉を切ってもらう。
今日は豚肉にした。
「じゃあスパイス入れますね」
奈緒さんが火を弱火にしてから、大鍋にスパイスを入れる。
ジュッと音がして、スパイスの強い香りが広がった。
「ほお、スパイスを炒めるのか」
ヨハン先生が感心している。
「次はトマトも炒めます。
ダマになりやすいので、少し水分を飛ばしてから小麦粉を入れましょう」
なんせ三十人前である。
量があるから炒めるのが大変そうだ。
私も木べらを持って来て一緒に炒める。
「もう小麦粉入れて大丈夫です。
粉っぽさがなくなるまで炒めます」
厨房にはカレーの匂いがしてきた。
「はい、残りの野菜とお肉もいれてください。
全体にスパイスが絡むように炒めます」
「ナオさん、炒めるの代わりますよ」
ギランさんが奈緒さんと交代し、私もロイドさんに交代してもらう。
ある程度、肉と野菜にスパイスが混ざったら水を少しずつ加えていく。
「一気に水はいれないんですね」
ギランさんが奈緒さんに聞いている。
「はい、少しずつ入れた方が混ざりやすいんです」
具材が浸るくらいまで、何回かに分けて水を入れて煮込む。
灰汁が浮いてきた。
「これなら得意っす!」
ロイドさんがお玉を手にして灰汁を掬う。
灰汁がとれたら、塩も入れて味付けする。
「あとはとろみがつくまで煮ます」
ここまで来たらもう大丈夫。
後は鍋をかき混ぜながら煮るだけ。
なんとなく皆がホッとした時だった。
「不思議な匂いがするんだが、今日は何を作ってるんだ?」
団長さんがやって来た。
聞くと、団長室までカレーの匂いが届いたそうだ。
嗅ぎ慣れない匂いで気になって、厨房を見に来たらしい。
「今日の夕飯のカレーです」
私が答えると
「カレー?なんだそれは?」
と団長さんにも聞かれる。
さっきのヨハン先生へしたのと同じ説明をしたが、
「スパイスを食べ物にするのか…」
と怪訝そうだ。
ちょうどいい。味見してもらおう。
「はい、味見お願いします。熱いから気をつけてくださいね」
小皿にカレーを少し掬って、スプーンを添えて団長さんに渡した。
団長さんが一匙口に入れる。
しばらく黙って味わっている。
「これは…なんだか後を引く味だな」
「これをご飯にかけて食べるんですよ」
どれ、私たちも味見しよう。
「もうちょっとお塩入れてもいいかも」
「そうですね、入れましょう」
ここで本物のカレーを知っているのは私とナオさんだけだ。
私たちがおいしいと感じたら、それで良しだと思う。
「ん、ちょうどよくなった!」
「成功ですね!」
私たちがニコニコしていると、食事係三人とヨハン先生も味見をしたがった。
「ん?不思議な味がする」
「ちょっと辛いけどうまいっす」
「団長が言うとおり、もっと食べたくなる!」
「どれどれ… ほぉ、こんな味になるのか!」
すると食堂から声がした。
「いいなー俺達も味見したいー!」
通りかかった騎士達がそのまま食堂に吸い寄せられたようだ。
「お前ら!持ち場に戻れ!」
団長さんに一喝されて全員逃げて行った。




