↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四十五歳、犬と異世界で砦暮らし  作者: 綾瀬たまき
第一章
PR
20/29

20.団長と三人目の来訪者(騎士団員達)

 ガレスの突然のプロポーズからメイの逃走まで、その場にいた者たちは固まることしかできなかった。


 メイが畑に逃げて、一番先に石化が解けたのはエルンだった。

「…え?今の本気のプロポーズなの?」

 それをきっかけに口々に皆が騒ぎ出す。

「団長、あれ本気なのか?」

「あの団長だぞ、冗談であんなこと言わないだろう」

「俺、団長は女嫌いなんだと思ってた」

「いやでもプロポーズだぞ?こんなとこでするか?」

「まあ、普通はしないよな」

「俺、びっくりしすぎてパン落としちまった」

「俺もむせそうになった」

「メイさんと団長、そんなことになってたのか⁈」

「いやいや、そんな感じはなかったと思うぞ?」

「メイさん、あれ逃げたよな?」

 ざわざわと騒ぎ続けて収拾がつかない。

 いつもならガレスの雷が落ちるだろうが、当の本人が騒ぎのタネだ。

 しかもこの食堂にはもういない。

「お前ら!なんだこの騒ぎは!やかましいぞ!」

 代わりに副団長のオスカーが食堂に現れた。

「大変なんす!団長がメイさんに公開プロポーズしたんすよ!」

 ロイドが皆を代表して説明する。

 オスカーは、ああ、団長はついに自分の気持ちに気づいたのか…と遠い目になった。

 それにしても、なんでよりによってこんなところでプロポーズしたのか、さっぱり訳がわからない。


「まあ、ヨハン先生が言ってたとおり、お似合いなのかもしれんな」

 トマスがうなずく。

「年も同い年だって言ってたな」

 ディーンが思い出したようにつぶやく。

「え?メイさんてそんな年なのか?」

 何人かの騎士が驚く。

 たしかに来訪者は実年齢より若く見えることが多い、と騎士学校でも教えられてはいた。

 だが、毎日メイを見ていると、そんな年齢にはとても思えなかったのだ。

「でも、思い返せば団長、前からおかしかったんだよな」

「え?どんなところが?」

「やけに気にかけてるなーって思うことはあった」

「最初は保護対象の女性だからか、と思ったんだけどな」

「ちょっとなんか、そういうのとは違う気がするな」

「ああ、確かにメイさんのことはすぐ気づく」

「厨房にやたら顔を出す」

「あ、あとメイさんにはけっこう長く話してる!

 いつも団長、俺らには『いけ』『やれ』とか、そんな感じじゃないか?」

「ああ、団長の口数が増えた」

「笑う回数も増えた」

「たしかに!」

「トンカツの時は『喜んで食べてもらえてうれしい』ってメイさんに言ってたぞ」

「味噌の時はうれしそうに味噌玉投げてた」

「コロッケの時の、アブラマケでメイさんが飯食えなくなった時、ちょっとオロオロしてたぞ」

「それで俺達に『揚げ物覚えろ』になったしな」

「ゴローにも甘いよな」

「団長室で足元に寝かせたまま仕事してるし」

「それはうらやましい」

「あと、あの補給官の件、団長かなり怒ってたよな」

「あれはそりゃ誰でも怒るだろ」

 あちらこちらで、かねてから思っていたことが口に出る。

「あの!団長が英雄って呼ばれてたのは本当ですか?」

 エルンが挙手をして問いかける。

「ああ黒灰竜討伐の話だな」

 オスカーがうなずいて答える。

「そうか、もう十五年前だからエルンは知らないか」

「えらい騒ぎだったんだぞ」

「黒灰竜を団長が仕留めたんだろ?」

 オスカーが口を開いた。

「お前ら、英雄って団長の前で言うなよ」

「え?なんでですか?」

 エルンがキョトンとして聞く。

 オスカーは全員に聞かせるように話し出す。

 古参の団員には知れた話だが、若手の騎士達は知らないかもしれないからだ。

「団長は自分が英雄だ、なんて思っていない。

 あれは、たまたま弱点に気づいた自分が止めを刺しただけ、だと思っている。

 それどころか、部下を守れなかった事を今でも悔いてるんだ」

「あの顔の傷はその時ついたっすか?」

「ああ、部下を庇った時にな」

 オスカーが遠くを見るような目をした。

 当時のことを思い出しているようだ。

「副団長、くわしいですね」

「俺もあの討伐に団長の部下として参加したからな。

 かれこれ二十年、団長の部下だ。

 団長が褒賞を受け取るのを嫌がってたのも、英雄と持て囃されて憔悴していったのも見てたよ。

 団長はそれで王都に嫌気が差して、自分からこの砦に来たんだ」

 一瞬だけ食堂が静まり返る。

 しかし、すぐに誰かかまた話し出す。

「そういや、メイさんは団長の顔の傷とか気にしてないよな」

「腹が据わってるというか、転移してきた翌朝に普通にゴローの散歩してたし」

「ああ、あれは驚いたな」

「あの補給官にメイさんがブチギレたのも驚いたよな」

「あれ、メイさん自分のことじゃなくて俺らの事でキレたよな」

「俺、ちょっと感動した」

「最初は、来訪者がずっと砦にいるって聞いて、どうなることかと思ったけどな」

「今じゃメイさんがいるのが当たり前だもんな」

「飯だけじゃないぞ。俺らのこと、よく見てくれてるし」

「そういや、メイさんが来てから食堂が賑やかになったよな」

「前からうるさかっただろ」

「そうだけど、前とはなんか違うんだよ」

「砦に母ちゃんがいるみたいなんだよな」

「おまっ、怒られるぞ。姉ちゃんにしとけ」

「…あの二人、うまくいくといいよな」

 その一言に全員がうなずく。

 その時だけは食堂が静かになった。

 しかし、誰かがまた話し始める。

「…団長が振られたりしたら気まずいぞ」

「えーっ、それはないだろ」

「わかんないぞー」

「だってメイさん逃げちゃったぞ」

「照れてるだけじゃないのか?」

「そうだよ、メイさんだって団長のこと嫌いじゃないはずだ」

「女心は難しいからなぁ」

「お前が言うな」

「えー、メイさんがここからいなくなったら嫌だなぁ」

「癒しのゴローまでいなくなる」

「いやいやいや、きっと大丈夫だって!」

 またガヤガヤとうるさくなり始めた。

「とにかく!」

 オスカーは再度一喝した。

「二人がどんな結果になっても、騒がずに見守れ!

 わかったな!あと早くメシを食え!」

「はーい」

 オスカーはやっと朝食のトレイに手を伸ばした。

「…そもそも、なんだってそんなことになったんだ?」

 隣に座っていたトマスにそっと聞いてみる。

 味噌汁の顛末を聞いたオスカーは軽く目眩がした。

 メイの軽い冗談に、ガレスが大真面目に返答したという、まったく常識外れな話だった。

 あの男はプロポーズをなんだと思っているのか。

 決断力があるのは充分知っていたが、なにもこんな場面で発揮しなくてもいいだろう。

 オスカーはスープを掬いながら考える。

 とりあえず、執務室に戻ったら団長に説教しなくては。


 まだざわめきの残る食堂に、畑からメイの叫び声が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。