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四十五歳、犬と異世界で砦暮らし  作者: 綾瀬たまき
第一章
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13/28

13.ソースとケチャップ

 目の前には揚げたてホカホカのサクサクコロッケ。

 さぁ、ソースをかけて、いただきまーす!

 あーんと口を開けて、食べようとした時に目が覚めた。

 ゴローが私のほっぺたを舐めている。

「…なんだ、夢かぁ」

 思い出したらもうダメだ。口がコロッケの口になってしまった。

 コロッケ、食べたいなぁ…


「コロッケ、ですか?」

 今日の食事当番のギランさんとハンスさんに聞いてみた。

「クロケット、とも言うかも?

 ゆでたじゃがいもに炒めたひき肉と玉ねぎ混ぜて、丸くしたのにパン粉の衣をつけて揚げるの。

 知らない?」

「なんだそれ、うまそう!メイさん作ってくれよー!」

 二人とも揚げ物と聞いて身を捩っている。

「コロッケ自体はできると思う。

 問題はソースなんだよね。

 ウスターソースとか中濃ソースってある?」

 二人とも知らないと言う。

 少なくとも砦にはない。

「それは作れないもんなの?」ハンスさんが聞く。

「がんばれば作れると思う… ここにミキサーってある?」

 二人とも首を傾げている。

 どうやらミキサーはないらしい。

 すり鉢でがんばるしかないか…

 実は私は、中濃ソースとケチャップを作ったことがある。

 子供達の夏休みの自由研究で作ったのだ。

 健(たける)は中濃ソース、美奈がケチャップ。

 私は仕事があったから、自由研究は休みの一日で終わるものにしていた。

 懐かしいな。

「じゃあ、作ろうか。二人とも、手伝ってくれるよね?」


「くっ…これがエルンが言ってた苦行か」

「目が痛い!」

 ハンスさんとギランさんにまずは玉ねぎをみじん切してもらう。

 私は残りの野菜を刻んだ。

 それから刻んだ野菜は二つの鍋に分ける。

 片方でケチャップを作り、もう片方で中濃ソースを作る作戦だ。

 貯蔵庫へ行き、ハーブの棚を見る。

 ローリエ、タイム、奥の方にシナモンとナツメグも見つけた。これくらいあればいいか。

 ケチャップの方にシナモンとローリエだけを入れて、中濃ソースの方には清潔な布でスパイスと香草を包んだものを煮込むときに入れる。こうすると取り出す時が楽だ。

 ソースの方にはリンゴを入れ、ケチャップの方はトマトを多く。

 それぞれの鍋を炒める。

 ハンスさんが中濃ソースの野菜を炒めてくれて、私はケチャップの鍋、ギランさんには昼食の下拵えに回ってもらう。

 炒め終わったら、砂糖、塩、水、ソースには香辛料の包みを入れてコトコト煮る。

「あとは焦がさないように煮る!最後に酢!

 じゃあ、昼食の準備しようか」

「…はーい」

 ハンスさんとギランさんはまだ玉ねぎの攻撃から回復していないようだ。

 ヨロヨロしている。


 昼食の支度の合間もちょこちょこ鍋をかき混ぜる。

 焦がさないように、おいしくなれと念じながら。

 どちらも中身がドロリとしてきたところで火を止める。

 昼食の片付け後、貯蔵庫を探したら裏漉し器があった。これを使えば、すり鉢を使わなくて済む!

 まずはケチャップから裏漉しし、酢を入れて煮詰める。

 とりあえず味見をしてみる。うーん、…もう少し塩を入れてみよう。

 ソースの裏漉しは一番力が必要そうなので、ちょっと休憩していたハンスさんとギランさんに来てもらった。

「これをこう…なすりつける感じで…」

 実演してみると二人ともやってくれると言うのでお願いした。

 さすが騎士だ。思ったより早く裏漉しが終わった。

 中濃ソースも酢を入れて、もうちょっと煮詰めよう。

「二人とも、味見…」

「する」二人同時に返事をするから笑ってしまう。

「赤い方、トマトの味が濃い!うまい」

「茶色の方は初めての味だな、でもうまい気がする」

「赤い方がケチャップ、茶色い方が中濃ソースだよ」

「チュウノウ?」

「長いからソースでいっか。

 ソースをコロッケにかけて食べると最高なんだけど…

 今から作れば夕食に出せると思うけど、どうする?」

「やるー!」また二人の声が揃った。仲良しだな。

「本当にいいの?疲れてない?」

「やるやる!揚げ物だろ?」

「食べたい揚げ物ー!」

「じゃあ、まずはタマネギのみじん切りから」


 シュワワ、パチパチ シュワー

「あー、いい匂いだなぁ…」

「俺達、今日がんばったよな…」

 コロッケを揚げながら、カウンター越しに食堂を見ると、ギランさんとハンスさんがテーブルに突っ伏していた。

 あれから玉ねぎのみじん切りを三人で交代しながらやり、じゃがいもの皮を剥き蒸して、じゃがいもを潰してコロッケの種を丸め、バッター液からの衣付けという工程を経て、今やっと私が揚げているのだ。

 途中、じゃがバターをあげたら多少復活してたけど。

 揚げ物の匂いに食堂の隅でゴローが反応している。


「今日は揚げ物なのか?」

 通りかかった団長さんが厨房を覗き込んだ。

 それから食堂の二人を見て

「なんだか訓練よりへばってないか?」

「あー、団長…」

「かなりハードでした」

 そんなヘロヘロの二人のところに、揚がったコロッケをフォークをつけて持っていく。

「はい、おつかれさまでした。

 コロッケの味見ですよ。

 まずはそのまま食べてみてください。

 団長さんもどうぞ」

「やったぁー!」

 二人は喜んで手を伸ばす。

 団長さんは手を振りながら断った。

「いや、そんなに苦労したものを、何もしていない俺が味見するわけにはいかない。

 夕食を楽しみにさせてもらうからいい」

 んー、そう言われたらそうなんだけど、できれば団長さんにも揚げたてを食べてほしいなぁ。

「じゃあ、私の分を食べてください。

 揚げ物してると、油の匂いでお腹いっぱいなもんで」

 へらりと笑って言ってみる。

 するとギランさんとハンスさんが畳みかける。

「団長、俺たちの成果をみてください!」

「そうです!一緒に食べましょう!」

「ワン!」タイミングよくゴローが鳴いた。

「ゴローにまで勧められたら断れないな。

 二人ともありがとう」

 団長さんもフォークを手に取る。

 サクッ!

 同時にコロッケを齧った3人が目を丸くする。

「…なんだこれ、うまい!」

「外はサクサクで、中はホクホクだ」

「…うまいな、これは」

 でしょう、でしょう!揚げたてコロッケは最高ですとも!

「で、このソースをつけて食べてみてください」

 三人がコロッケにソースをつけて、また一口。

「んんーっ!」

「さらにうまくなった!」

「…」

 団長さんに至ってはもう言葉が出ないらしい。

「これ、食パンに挟んで食べてもおいしいんですよ。

 じゃあ私は残りを揚げてきまーす」

 ひたすらコロッケに感動する三人を残して私は厨房に戻った。


 今日の夕食は一人コロッケ3個、千切りキャベツ、川魚の塩焼きに豆と野菜のスープ。

「あー!やっぱり揚げ物だ!」

「訓練中からいい匂いしてたもんな」

「だからお前、訓練に身が入ってなかったもんな」

「コロッケ?なんなんだろう?」

 ドヤドヤと騎士達がやってくる。

「いいか、おまえら。

 今日のコロッケは俺達の力作だ」

「特にソース!大事に使え!まずは何もつけずに食ってみろ!」

 ギランさんとハンスさんが力説している。

 うん、今日ちょっと働かせすぎたかもしれない…ごめん。

「なんだこれ、うめえ!」

「サクサクする!」

「ソースなしでもうまい」

「ソースかけたらもっとうまくなったぞ!」

 ちなみに千切りキャベツにはフレンチドレッシングとマヨネーズが用意されている。

 ソースは貴重だから、コロッケにかけてもらうだけにしたのだ。

 ケチャップはまだ温存。

 何に使おうかなー、楽しみだ。

「メイは食べないのか?」

 厨房で油の後始末をしていた私に団長さんが声をかけてきた。

「それが…油負けしちゃって…」

「アブラマケ?」

「油の匂いだけでお腹いっぱいになっちゃたんですよ」

 そう、私は甘くみていた。

 約60個のコロッケを揚げて揚げまくるのがどういう事か。

「明日…明日の朝、コロッケパンにして食べます」

「そうか…おつかれさまだったな。

 ところでそれは何をしてるんだ?」

「油を濾してます。こうすると、残りの油を再利用できるんですよ」

「そうなのか?それも含めてバルド補給官に報告だな」

「え?」

 忘れてた…そうだ、新しいものを作ってしまった…

 明日だときっと忘れる…今日やらなきゃ…

 ちょっと意識が遠のきかけたが、コロッケにわいわい喜んでいる皆を見たら、まあいいかと思えた。

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