表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/64

57 どっち?


 俺はまた考えていた。


 おそらく記憶を取り戻した彩葉が、なぜあの時、“つきまとい”の話をしたのか…


 俺の反応を見て、確信を得たかった…?


 でもどうやって?


 あの時の彩葉は、どんな言葉を待っていた?


 ──あ…


 あれか?俺が一瞬だけ喉まで出かかった言葉…


 “それはもう大丈夫だよ”


 それを求めていたのか?


「おはよ」

「はよ」

「怖い顔しちゃってどったの?」

「今考え事してるから話しかけんな」

「優しくして?」


 俺は出勤してきたヤマダを無視して、推理を続けた。


 なぜ求めていた?その理由は?


 俺は彩葉を安心させるために、最初にそう言おうとした。彩葉も、俺ならそう言うだろうと思った…?

 だけど俺が表情を変え、知らないフリをしたから彩葉は焦ったのか?つきまといは俺以外に“別にいる”と思った…?


 最初に彩葉がその話をした時は、淡々と話していた。不安そうにもしていなかった。


「ねぇ、律くん」


 それは彩葉が俺をその犯人だと確信していたから…

 そう仮定すると、あの時、彩葉が徐々に顔が青ざめていくのは自然なんじゃないか?


「律くん」


 ってなると、俺の中でもやっぱり、彩葉の記憶が戻ったことがほぼ確定する。


 でも……ならなんで、俺から逃げないんだ?


「りーっちゃん」

「それやめろ」

「やっと反応してくれたっ。僕ちん嬉しいっ」

「なんだよ。今忙しいんだよ」

「もうすぐ開店だよん。お前まだ、準備終わってないだろ」


 …クソ…もうそんな時間か。


 俺はすぐに準備に取り掛かった。



 

 あれはから彩葉は、仕事部屋を探っていなかった。やっぱり、証拠を見つけたかったから…そしてそれはちゃんと見つかった。だから部屋を漁るのをやめたのか?


 彩葉の中では、俺の正体が確定したのか?


 なのに彩葉は──


「りっちゃんっ、りっちゃんっ。クリスマスのイルミネーション行こっ?もう飾られてるんだってっ」


 こんな感じで甘えてくる。


 今日は休みで、今は二人で床に座り、にゃんずと遊んでいた。


「いいよ。今日行く?」

「いいの?」

「いいよ」


 彩葉は嬉しそうにしていた。


 ……俺の正体を知っても出て行かないのは…そんな俺でも受け入れている…?それとも何かやっぱり企んでいて、密かに進められている…?


 わからない。


 彩葉に記憶の話を聞いても“思い出してない”の一点張りだし…


 あー…もうずっと同じことが頭ん中でぐるぐるとしていて答えが出ない。答えが出ないことを考えるのって、正直疲れる。


「何着て行こうかな?」

「この前買ったワンピースでいいんじゃない?」

「りっちゃんが選んでくれたやつ?」

「そう。あれよく似合ってたから」


 俺がそう言うと、やっぱり彩葉は嬉しそうにしていた。


 ちょっと…聞いてみようかな。


「彩葉はさ、俺と別れたいって思ったことある?」

「…なにそれ…なんでそんなこと聞くの?」


 そうやって聞き返してくるってことは…あるのか?


「ちょっと聞いてみたくなって」


 すると彩葉は拗ねた顔をした。


「りっちゃんはあるってこと?」

「え?なんでそうなるの?」

「りっちゃんがそう思ったことがあるから、聞いてきたんじゃないの?」


 拗ねてる彩葉かわいっ。


「俺はないよ。一度もない」

「私だってないよ。りっちゃんとはずっと一緒にいたい。絶対に別れない」


 …本当に…?


 だとしたら…彩葉は全てをわかった上で、俺のことを愛してくれるのか…?


 …だとしたら説明がつく?


 普通だったら嫌悪感を抱くであろうあのアルバムを、嬉しそうに抱きしめるあの行動……


 いやいや。俺にはやっぱりわからない。


 あれは一体なんだったんだろう。


「…なんか言ってよ…」

「あ、ごめん。俺もそのつもりだよ」

「何考えてたの?なんか最近、りっちゃん考えごとばっかしてる」

「ごめん」


 全ては順調だと思ってたのに、途中からそれが崩れてしまったから……


 彩葉を見ると、まだ拗ねた顔をしていた。


 俺はソファに座ると、彩葉の腕を引っ張り抱き寄せた。


「ごめんね?ちょっと今、仕事が忙しいから、頭の中がそればっかになってたかも」

「ホント?」

「うん。ホント」


 彩葉は少し納得がいかないような顔をしていたが、なんとか機嫌は直してくれた。


 夕方になり、準備ができた彩葉は俺に見せてきた。


「どう?かわいい?」

「かわいい。やっぱりそのワンピース、彩葉にぴったり」


 彩葉は嬉しそうにその場でくるくると回った。


 俺が求めていた理想の女性そのものに彩葉は近い。正確には“近づいた”と表現するべきなのだろうか。

 

 顔、笑顔が可愛らしいところ、これは元々の彩葉だ。

 少しずつ甘えてくれるようになったのも、自然な流れだった。

 

 ……それからあの日を境に彩葉は変わって…

 俺が好きなタイプのやきもち焼きで、甘えん坊になった。


 もしかして…俺の理想に近づこうとしてる…とか?

 

 …まさかね。さすがに自分のいいように考えすぎだろ。答えが出なさすぎて、変な方向に思考がいってしまう。


 彩葉は“ずっと一緒にいたい”だなんて言っていたけど、本当のところはわからない。


 俺を油断させるためだけに、そう言った可能性だってある。


 気を抜かないようにしないと……


 俺は彩葉が記憶を取り戻し始めた時に“離婚届不受理申出”を既にしていた。だから気づいたら離婚されていた…──ってことにはならない。


 車に乗り込むと、早速目的地へと向かった。


 車の中では会話が弾んだ。彩葉はイルミネーションを楽しみにしている様子だった。


「そんなに楽しみなの?」

「楽しみだよ?りっちゃんと一緒なら、どこだって楽しいよ」

「…俺も」


 信じたい…今の彩葉の言葉を。


 そうしたら俺は楽になれるのに。


 俺は彩葉の左手をチラリと見た。彩葉はバイトを辞めてから、結婚指輪を外すことなくずっと着けたままだ。

 俺の言う通り、ネットスーパーも利用しているようだった。


 目的地に到着すると、彩葉はすぐに俺の手を握ってきた。


 彩葉からこうされるたびに、俺はときめくんだ。心臓がトクンと小さく跳ねるんだ。


「早く行こう?」

「うん。そうだね」


 俺たちは歩きだした。


 彩葉は花火とか、桜とか、この前のお風呂の照明とか好きだよな。キラキラしたもの、キレイなもの…そういうのがちゃんと心に響いてるんだよな。花火の時は涙ぐんでたし。


 俺も共感したいたな。


 そういう感性は育てられるのかな?


 それとも生まれ持ったもの?


 心を育てる…のは、今からでもできるのだろうか。


 しばらく歩いていると、イルミネーションが見えてきた。今回来たのは並木道にイルミネーションが彩られている所だ。


「キレイだねっ、りっちゃんっ」

「そうだね」


 彩葉は目を輝かせていた。


 歩みを進めていると、彩葉が俺の手を引き道の端っこに連れてきた。


「どうしたの?」

「んとね…」


 そう言いながらカバンの中に手を入れていた。


「はい。これ。いつもお仕事お疲れ様です」

「クリスマスプレゼント?」

「ううん。そんなんじゃない。普段のお礼。りっちゃんいつも仕事頑張ってるから」


 …嬉しい…


「…ありがとう、開けてみていい?」

「うん」


 薄い箱を開けてみると、手袋が入っていた。


「りっちゃん、この前帰ってきた時、手冷たかったから。あ、ちゃんと手袋のまま、スマホ操作できるやつだよ」


 確かに急に気温がガクンと落ちて、寒かった日があった。その時は指先が冷たくて仕方がなかったんだ。それに気づいて彩葉は…


「嬉しい。明日から毎日使うね」

「よかったぁ。でも明日はあったかいみたいだよ?」

 

 屈託のない笑顔で彩葉はそう言った。


 彩葉…本当は俺のことに気がついてる?


 その上でこうやってプレゼントを渡してくれているの…?


 演技?本気?


 何か企んでる?


 俺から逃げようとしてる?


 それとも…俺のことを本気で…



 あー…わからない……



 どうか…



 この幸せがずっと続きますように…


 本物でありますように……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ