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53 何を探ってる?


 あー…焦った。仕事部屋にカメラを仕込んでおいてよかった。俺は半信半疑だった。


 あの日…彩葉が急にサキちゃんと飲みに行き、それからそのまま泊まるだなんて言い出したから、俺は違和感を覚えたんだ。


 あの日から…なんだか彩葉は変わった。


 それは俺にとっては嬉しい変化だった。でも…確かに俺は、違和感を覚えていたんだ。


 急に甘える彩葉。俺がリサーチしていた彩葉とは違う人物像…でも人なんて変わるものだ。俺はそう思って、その違和感を飲み込み、彩葉の変化を純粋に受け止めていた。


 彩葉からの“好き”という言葉、彩葉からの“スキンシップ”…そういう変化をいいように捉えていた。


 でも…引っかかっていたこともあった。


 それは…俺のデスクの引き出し…


 ちゃんと閉めていたはずの引き出しが、ほんの少しだけ…いや…数ミリ程度引き出されていた。


 彩葉か…?


 何か俺を探ろうとしてる…?


 そう思っていたら、彩葉からこんなことを言われた。


 “位置情報共有アプリってどう思う?”


 ああ…なんだ…


 彩葉はもしかして、俺の浮気を疑ってるのか?


 かわいいヤツめ…


 俺は絶対にそんなことはしないよ?


 だって…


 彩葉のことしか見えてないんだから…


 その時の俺はそう思っていた。


 だから俺はすかさずこう聞いた。


「彩葉さ、今日仕事部屋のデスクの引き出し開けた?」


 すると、彩葉は驚いた顔をしていた。


 かわいい…


 そんなに心配させちゃったのかな?

 

 俺には…彩葉だけなのに…


 そう思っていた。


 それでも俺の中の違和感はなかなか拭えず、念のため、念のため…と、自分に言い聞かせながらカメラを仕込んだんだ。


 大丈夫。彩葉は本当に興味本位、または俺の浮気を疑って引き出しを開けた。あんなにやきもち焼きなんだから、ついつい俺の私物を確認したくなってもおかしくない。何か変なものがあるかもしれない、女関係のものなあるかもしれない。そう思って、きっと確認して安心がしたかったのだろう。


 だけど……


 どうやら違うようだ。


 彩葉はまた、俺の仕事部屋を物色していた。


 浮気を疑っているわけじゃない?ならなんで…


 もしかしたら…いや、まさかそんな…


 そう思うようになっていた。


 彩葉は…もしかして記憶を全て取り戻したんじゃないか…?


 それで答え合わせをするかのように、俺のことを探ってる…?


 この日、彩葉は俺のクローゼットの棚の上に置いてある、スニーカーの箱を見ていた。

 今まで彩葉からもらったプレゼントの包装紙なんかをしまっている箱を手にした彩葉は、中を確認すると、そっと元の場所に戻していた。

 

 この録画を確認したのは仕事が終わって、帰宅中の電車の中だ。


 なんだ?彩葉は何を探ってる?


 やっぱり記憶を……


 あれ?そういえば、俺が“帰るよ”のメッセージを送ったのに、返事がきてない。いつもならすぐに返ってくるのに…


 もしかして…全てに気がついた彩葉は出て行った…?


 急いでGPSを確認する。


 …ちゃんとそのアプリは自宅を印していた。でも…GPSをお互いのスマホに入れてるのだから、わざとスマホを家に置いて出て行ったとも考えられる。


 俺は胸騒ぎがしてしょうがなかった。


 早く…早く帰らないと。


 最寄駅に着き、走って自宅へ向かう。


 そうしながら彩葉のスマホに電話をかける。


 ──出ない…


 家に着き、急いで鍵を開けるも家の中は真っ暗だった。


 嘘だろ…?


 足元に絡みつくにゃんずたちを軽くあしらいながら、部屋の中を確認する。


 …いた…。


 彩葉は寝室のベッドで毛布にくるまっていた。様子がおかしい。彩葉の呼吸は荒く、おでこを触ってみると、異常に熱かった。

 俺はすぐに彩葉に声をかけた。


 起きない…


 それでも声をかけ続けていると、彩葉は目を覚ました。

 

 よかった…


 熱以外にも何か辛いことがないか聞いてみると…


「りっちゃん…」


 彩葉は力無くそう言うと…


「…すき…」


 そう俺に伝えてくれた。

 こんな熱に浮かされている時に、なんで今そんなことを?そう思いながらも俺は、すごく嬉しかった。

 でも今はそれどころではない。とにかく何か食べさせて薬を飲ませないと。


 彩葉に何が食べられそうか聞いてみるとプリンだと言っていたから、すぐに買いに行こうとした。


 すると…


「やだっ、いかないで…」


 彩葉はそんなことを言いながら、俺の服を握り込んだ。

 

 あー…もう…


 可愛すぎんだろ…


 彩葉の看病を終えると、ついでに買ってきたコンビニ弁当を温めて食べた。


 まっず…


 彩葉の手料理に慣れたからか、以前はなんとも思ってなかったコンビニ弁当が異様に不味く感じた。

 それからシャワーを浴び、またベッドへ戻り寝転ぶと彩葉の様子を見た。さっきと同じく落ち着いていた。

 

 かわいい…


 ねぇ彩葉。彩葉は何を探ってるの?何を疑ってるの?記憶を取り戻したの?俺の浮気を疑ってるの?

 

 彩葉に…何があったの…?


 記憶が戻ったら出て行くの?俺がそもそも婚約者ではなかったって知ったら出て行くの?


 ねぇ……彩葉はどこまで知ってるの?


 もう縛りつけた方がいい?


 でも…特定の人物のみを忘れてしまう事例は予め伝えていたし、彩葉が記憶を取り戻したとしても大丈夫なはずなんだけどな。


 ……


 …もしかして…俺のことを認識していた…とか?


 あの時、彩葉が俺のスマホを拾ったのを覚えていたら?


 俺はあの日以来、彩葉が乗っている電車を狙って乗るようにしていた。だったら彩葉が俺のことを認識していてもおかしくない。そうなると、特定の人物のみを忘れてしまう…は通用しなくなる。戻った記憶の中に俺が存在していたら…あの日…あの事故の日も俺のことを認識していたら…


 あー……しくじったかも…


 その可能性は全く考えてなかった。と、いうか…引っ越しや仕事を辞めさせること、俺が婚約者であることを彩葉に信じ込ませるかを考えるのに忙しかったから……俺に与えられた時間は、なんせ1週間しかなかった。だから必死になって準備をし、シナリオを考えたのに。


 完璧だと思ってた俺の計画が…


 崩れ始めてる…?


 でもまだ確定ではない。ただの俺の推測でしかない。


 俺はそんなことを考えながらスマホで足枷を探していた。


 んだよ…SMグッズしか出てこねーじゃねーか。


 ま、それもそうだよな。


 嫌だな…縛りつけたりしたくない。


 彩葉とたくさん遊びに行って、旅行にも行きたい。できれば洗脳もしたくない…


 だけど…彩葉と別れることだけは絶対にしたくない。

 俺に催眠術でもかけられる才能があったらよかったのに。


 目の前で眠っている彩葉のおでこに、俺は手をやった。


 大丈夫。さっきよりは下がった。これなら安心かな。

 時間を確認すると深夜の2時になろうとしていた。明日も仕事だし、少しだけ眠るか。俺はアラームを2時間後に設定し、眠りについた。


 アラームが鳴りすぐに停止する。彩葉を見てみると、まだぐっすりと眠っていた。熱を確認すると、少し熱いけど高熱ほどではなかった。


 今後、彩葉がどう動くかで、俺は色々と進めていかないと…


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