42 幸せ…だな…
りっちゃんと無事合流すると、館内のお土産さんに連れて行ってくれた。
「これ、部屋に置いてあった茶菓子。美味しかったから買って帰らない?」
「いいね。買って帰ろうか。あっ、りっちゃん見て見てっ?こういうのって懐かしくない?」
私は観光地によくありげなキーホルダーを手に取って、りっちゃんに見せた。
「あっ、ホントだ。俺修学旅行の時に、似たようなの買ったよ」
「ははっ。本当?私もなんだけどっ」
たったそれだけのことでも、私は楽しかった。
それからりっちゃんに館内を案内されてから、部屋へと戻った。
「夕食を食べ終わって、少ししてから部屋の露天風呂に入ろうか」
私はその言葉を聞いて、少し緊張してしまった。裸なんてもう何度も見られている。それでも…やっぱりなんだかこういうのは恥ずかしかった。
時間になり、食事が運ばれてきた。次々に美味しそうな料理がテーブルへと並べられる。最後に仲居さんが小鍋の下にある固形燃料に火をつけると、それぞれの料理の説明をしてから部屋を出て行った。
「すごいっ。全部美味しそうっ」
私はそう言うと、スマホを手に取り写真を撮り始めた。りっちゃんも同じようにしていた。
「彩葉、こっち見て?」
「ん?」
りっちゃんからそう言われ、私は目線を上に上げた。
「ちょっともうっ。不意打ちで撮らないでよっ」
「かわいいよ」
「絶対アホな顔してたっ」
「してない。かわいい」
「もう…」
りっちゃんは幸せそうな顔をしていた。そんな顔を見てしまったら、強く言えないじゃんか…
りっちゃんは私の隣に来ると、インカメラにしてスマホを構えた。
「すっぴんだからやだよ」
「誰にも見せないから。ほら、笑って?」
…そうだよね。これも思い出だよね…?
私はぎこちないながらも笑顔を作った。スマホに映るりっちゃんはやっぱり、幸せそうな顔をしていた。
料理はどれも美味しくて、本当にほっぺが落ちてしまうかと思った。そうやって料理を食べ進めている最中も、時折りっちゃんのスマホからシャッター音が聞こえてきた。
「もうっ。ちゃんと料理を味わってっ」
「味わってるよ?」
「さっきから写真ばっか」
りっちゃんは私にスマホを向けていた。
「だって…嬉しいから。彩葉とこうやって旅行に来れて、彩葉は美味しそうにご飯を食べて…そういうの、ちゃんと写真に残したいんだ」
私もスマホを手に取り、りっちゃんのことを撮った。
「ははっ。俺はいいって」
「だめっ。りっちゃんが撮るなら私も撮るから」
「わかったわかった。もうやめるから」
りっちゃんはやっとスマホをテーブルに置いた。
食事も終わり、しばらくはテレビをつけて休憩していた。
布団も用意され、私たちは地ビールを楽しんでいた。
「そろそろ入る?」
「私が先に入るから、りっちゃんは後から入ってきて?」
「わかった」
私は髪を纏め直すと、浴衣の帯を取り、バスタオルを巻いてから浴衣を脱いだ。それから露天風呂へと向かうと、軽くシャワーを浴びてから温泉に浸かった。
「もういいよー」
「今行くー」
りっちゃんも軽くシャワーを浴びてから、入ってきた。
「…彩葉、こっちにおいで」
私は言われるがままに、りっちゃんの脚の間に座った。するとりっちゃんは抱きしめてきた。
「楽しい?」
「うん。楽しいよ」
「俺も」
りっちゃんの優しい声が耳元で響く。
「明日はワークショップ行こうね」
「うん。あのガラスのやつだよね?」
「そう。もう予約してあるから。彩葉、楽しみにしてたもんね」
「うん、楽しみっ」
そんな感じで、明日の予定、今日のことなんかを話していた。
なんだ…一緒にお風呂に入って、こうやって会話するのって悪くない。むしろ楽しい。りっちゃんとの距離が、グンと縮まったように感じた。
それに…
こうやってくっついてるのも、なんだか心地よく感じた。
すると…りっちゃんの腕に力が入った。
「彩葉…愛してる…」
私も…言わなきゃ…ちゃんと素直に…
「私も…」
今の私は、それを言うだけで精一杯だった。
さっき飲んだビールと、この露天風呂の雰囲気がそうさせたのか、私の心臓はドキドキとしていた。
苦しい…
でもその苦しさは…
幸せなものだった。
……りっちゃんが私の肩にキスをしてきた。
このあとはやっぱり…
温泉から上がると、私は布団に寝かされた。
りっちゃんはいつも時間をかけて丁寧にする。そうされると私はもう……何も考えられなくなる…──
次の日は、朝からりっちゃんと一緒に温泉を楽しんだ後、旅館の美味しい朝ごはんを堪能し、また観光地巡りをした。
ガラスのワークショップも楽しみ、お土産を買ってから帰った。
「きなこー、杏ー、ただいま。いい子にしてた?お留守番ありがとね」
私は家に入るとすぐににゃんずたちに声をかけた。
「にゃっにゃっ」
そう言いながらきなこは小走りに近づいてきた。
「みゃあ〜」
杏は甘えた声を出して、私の足元に擦り寄った。
よかった。2人とも問題なく元気そうだ。
にゃんずのトイレ掃除や、ご飯や水の準備を済ませると、私は部屋着に着替えた。
それから早速サキに連絡をし、お土産を渡す日程を相談していた。
「りっちゃん、明々後日、サキにお土産を渡しがてら飲んできてもいい?」
「いいよ。また迎えに行くから、場所が決まったら教えて?」
「…りっちゃんも仕事が終わったら合流する?」
「いいの?」
「サキもりっちゃんに会いたがってたし」
私がそう言うと、りっちゃんは目を輝かせた。
「うん。行く」
「場所は…りっちゃんの職場の近くにしようかな。どこかいいトコ知ってる?」
「あるよ。あとでメッセージで送っとくね」
そんな会話をしながら、買ってきたお土産をテーブルの上に広げた。
「ねぇ、今日これ食べてみない?」
りっちゃんはそう言いながら、買ってきた珍味を手に持っていた。
「いいね。買ってきた地ビールも飲んじゃう?」
「そうしよう。俺たちの旅行はまだまだ終わらない」
「ははっ。なにそれっ」
ああ…本当に楽しいな。
私はこの幸せを噛み締めていた。
りっちゃんが席を立ち、トイレに向かった。
「彩葉っ、ちょっと来てっ」
りっちゃんの慌てた声が聞こえ、私は急いでトイレへと向かった。
あ…トイレットペーパー…
どうやら私たちは昨日、トイレのドアをしっかりと閉めていなかったようだ。トイレットペーパーホルダーに備えられていたそれは、見事に空になり、その代わりに床は真っ白になっていた。
「やられちゃったね」
「…だね」
「あっははっ」
「ぷっ…ははっ」
私たちはそれを見て笑ってしまった。
「だから言ったでしょ?まだわからないよって」
「ホントだね。まんまとやられちゃったね。きっと楽しかっただろうな」
「ね?どっちがやったかわかんないけど、夢中になってやったんだろうね」
そんなことを言いながら、2人で床に広がったトイレットペーパーを片付けた。
次の日、起きるとりっちゃんはいなかった。
あー…寝坊した。それはスマホの時間を確認してわかった。9:30…りっちゃんはとっくのとうに家を出て、仕事に行っている。
たった一泊の旅行でも疲れたんだな…情けない。それに昨日は楽しくて、なんだか飲みすぎてしまったんだ。
りっちゃん、こんな私に呆れてないかな…。
あ…メッセージがきてる…
『おはよ。気持ちよさそうに寝てたから、声かけなかったんだ。それに昨日は、彩葉酔ってたしね。今日はゆっくりしてね。疲れも溜まってるでしょ?夜ご飯は何か買って帰るから、にゃんずとのんびりしててね』
…りっちゃん…
私は休みなんだよ?なんでそんなに…
『寝坊しちゃってごめんね。夜ご飯はちゃんと用意するから、何も買って帰らなくていいよ。仕事頑張ってね』
私はそう返事をした。
少し重い体を起こすと、歯を磨き、顔を洗ってから洗濯機をまわした。
それから簡単な朝食を……あ……
テーブルの上には手作りのサンドイッチが用意されていた。
私…休みなのに。こんなことまでしなくていいのに。
私はまたスマホを手に取ると、りっちゃんにお礼のメッセージを送った。
サンドイッチを食べ終わると、掃除機を手に取った。掃除機の音に毛を逆立たせる杏や、掃除機にじゃれつくきなこをなだめながらも腕を動かしていた。
洗濯機からピーピーと音がするのを確認すると、ベランダに干した。
時間を確認すると、お昼になろうとしていた。お腹はまだ減っていない。スーパーにでも行くか。私は着替えると外に出た。
スーパーに着くと、色々と食材を見ていた。野菜、お肉、魚…今日は何にしようかな。旅館での食事は和食がメインだったから、今日は洋食にしようかな。あ、エビが安い。エビフライと…キャベツの千切りにタルタルソース、あとはさっぱり系のものがいいかな。
家に帰ると早速下準備だけを済ませ、その後はソファに座り、最近見始めたアニメをテレビに流していた。
日の光がレースのカーテンを透かし、柔らかく差し込んでくる。開けた窓からは、爽やかな風がふわっと吹き込んでくる。にゃんずたちはソファの上で気持ちよさそうに、寄り添いながら眠っていた。
私もそんなにゃんずたちにつられるように、いつの間にかまどろんでいた。




