28 心の揺れ
お昼になり、俺たちは何を食べようか話し合っていた。
するとユイナちゃんがこの遊園地に詳しいらしく、“どこどこのこれがおすすめだよ”と教えてくれた。
俺たちがそこへ向かうと、そこそこの行列ができていたから、俺は彩葉とユイナちゃんに席の確保を頼み、ヤマダと一緒に列に並んだ。
「本当にお前らって仲良いな。もうすぐ3年になるんだろ?まるで付き合いたてみたいなカップルに見える」
…バカなのに案外するどいな。
「愛してる」
「…きゅん…」
「お前がときめいてんじゃねーよ」
「ははっ。ごめんごめん。そっか…“愛してる”…か…」
俺はこんな感じでヤマダと他愛もない話をしながら順番待ちをしていた。
目当てのものを注文し、それを受け取ると彩葉たちの元へと向かった。
…は…?
誰だあつら。
俺の目に飛び込んできた光景は、知らない2人の男が、彩葉たちに話しかけているものだった。
瞬間的に頭に血が上り、急いで彩葉の元へ行く。
「妻になにか?」
俺は相手を睨みながらそう言った。
すると、その男たちはひるんだ。
「え?旦那さん?」
「ええ。そうですけど」
「だってさっきは2人だって…」
は?
「ははっ。ごめんごめん。さっきの嘘。本当は連れがいるんだ。ごめんね?」
ユイナちゃんがそう言った。
「んだよー、趣味の悪いことしてんじゃねーよ」
「はははっ。だからごめんて」
男たちはすぐにこの場を去っていった。
俺はユイナちゃんに小声で聞いた。
「どういうこと?」
「…アツシくんの反応が見たかった…」
そう言うユイナちゃんの顔は、不安そうにしながらも、恋をしている表情だった。
…試したかったんだ…ヤマダのことを…
それからユイナちゃんは小声で「ごめんね?彩葉を巻き込んじゃって。でも長谷川さん、すごくかっこよかったです」と、そう言っていた。
昼食を食べおわり、俺はまた彩葉の手を握った。
さっきから彩葉の元気がない。お昼を食べている時も空元気なような感じだった。
もしかしたらジェットコースターの時に、手を放すマネをしたのをまだ怒っているのだろうか。
「彩葉?」
「…」
「まだ怒ってるの?」
「…別に何も怒ってない」
「手を放そうとしたから?」
「…違う」
じゃあ…なんだ?
なんで彩葉は今こうなってる?
背中からは相変わらず、ヤマダとユイナちゃんの楽しそうな声が聞こえてくる。俺も彩葉とそうやって楽しく会話をしたいのに…
「なに?教えて?」
「…」
「彩葉?」
「…さっき…何話してたの…?」
さっき…?
「ユイナと」
……。
俺は心の中でニヤリと笑った。
それが表情に出ないように必死に抑え込んだ。
ああ…どうしよう…
すぐに誤解を解くべきことはわかってる。
でも…
嬉しすぎる…
彩葉が嫉妬してる…
「んー?ちょっと彩葉には言えないこと」
俺がそう言うと、彩葉は拗ねた顔をして、俺の手を放した。
かわいい…
むちゃくちゃかわいいっ。
彩葉が嫉妬してる。
どうしよう…胸が締め付けられる。
それがすごく心地いい…
かわいい…かわいいよ彩葉…
手を放した彩葉は、ひとりでどんどんと前へ進んでいた。俺はそんな彩葉を背中から抱きしめた。
「ユイナちゃん、ヤマダの反応が見たかったんだって」
「…え…?」
「ナンパされてる自分を見て、ヤマダがどんな反応をするのか知りたかったんだって」
「…だからか…」
「ん?」
「あの時ユイナ、“2人で来てるの?”って聞かれて、“はい。そうですよ”って答えてたから、私テンパっちゃって…」
「ははっ」
テンパっちゃったのか。彩葉はかわいいな。
「…やきもち焼いちゃったの?」
「…やきもち…」
「そ。やきもち」
「…そう…なのかも。嫌だった。りっちゃんとユイナがコソコソ話してるの…」
あー……鼻血出そ…
「クラクラする」
「え?大丈夫?」
「彩葉、かわいすぎ」
「…」
「鼻血でる」
「ははっ。またそれ?」
彩葉が笑った。
「俺は彩葉しか見えてないよ」
「…」
「本当だよ?」
「…うん…」
「今日は楽しもう?」
「うん」
「そうだ。ヤマダたちのためにも、俺ら今からあの2人とはぐれちゃおっか」
「ははっ。それいいねっ」
俺は彩葉の手を握ると、走り出した。
背中からはヤマダの声が聞こえてきたけど、俺たちは人混みに紛れながら2人を巻いた。
「彩葉、なに乗りたい?」
「ちょっとお土産見てもいい?今日の思い出に、何かお揃いの物が欲しいんだけど…」
“お揃い”のもの…
うん…俺も欲しい…
「それじゃあ、色々見てみようか」
彩葉は楽しそうにしながら色々と手に取って見ていた。
「りっちゃん、このTシャツかわいいよ。これなら近所のスーパーくらいは行ける」
「本当だ。このワンポイントがかわいいね」
「うんっ」
彩葉は楽しそうにしていた。
「あっ、りっちゃん。見て見てっ。箸置きもあるよ。かわいいなぁ」
「んじゃ、それも買って帰ろうか」
「私が買うっ。りっちゃん、ちょっと待ってて」
彩葉はTシャツと箸置きを手にすると、レジへと向かった。
別に俺が買ってもよかったのに。
彩葉の中では、やっぱりどこかに“養われている感覚”があるんだろうな。
そんなの…気にしなくていいのに。
買ったものを俺のリュックにしまうと、俺たちは観覧車へと向かった。
列に並び順番が来ると、俺たちはそれに乗り込んだ。
聞きたい…
さっきの続きが聞きたい…
「さっきさ…何を言おうとしてたの?」
「ん?さっき?」
「ワカナさん夫婦を見て、私もいつか…って話」
俺がそう言うと、彩葉は黙ってしまった。
「教えて?」
「…ワカナさん夫婦ってさ…すごく自然体なんだ」
「うん」
「そんな2人の姿を見て、羨ましく思った」
「うん。それで?」
「それで…」
「…」
「…」
彩葉は両手で、自分の頬を覆った。
「私たちもいつか…そんな感じになれたらなって…」
やっと聞けた…
やっぱり第三者の影響ってのは大きいな…
俺ひとりだけだったら、彩葉はこんなふうに思わなかったかもしれない。
そう考えると、彩葉がバイトを始めたのは良かったのかもしれないと思った。
「帰ったら、彩葉に見せたいものがある」
俺は今の彩葉の気持ちを聞いて、仕掛けることにした。
「なに?」
「今は手元にないから、帰ってからね」
彩葉呟くように「なんだろ…」と、言っていた。
そこへヤマダから連絡があった。
“今どこ?”
俺はそれに返事をし、待ち合わせ場所を決めた。
「よっす、よっすよっすぅ。もう2人とも急に消えちゃうからさ?俺たちお化け屋敷に行って、さっきよりも仲良しになっちゃったよー」
「そりゃよかったな」
「お前らも行ってみろよ?結構怖かったぞ?」
俺は彩葉を見てみた。
彩葉必死な表情で首を横に振っていた。
「あははっ。彩葉はそういうの無理だよ。いつもひとりで、外で待ってるもん」
そっか。そんなに苦手なのか。
「行ってみる?」
「ごめんっ。ホントむりだからっ」
…かわいい…
「じゃあユイナちゃん、付き合ってくれる?」
ちょっといじわるが過ぎたかな?
でも…俺は彩葉のかわいい姿をもっと見たくて、ついついそう言ってしまった。
俺の意図に気づいたユイナちゃんは、ニヤニヤとしながら俺に近づいた。
「いいですよー。さっ、長谷川さん、行きましょうか」
ユイナちゃんは察しがいい。
「…りっちゃんっ」
「ん?」
彩葉は俺の手をぎゅっと握った。
「…私が…行くから…」
彩葉がそう言うと、ユイナちゃんは笑い出した。
「はははっ。冗談だって。長谷川さんも冗談で言ってたんだよ?」
あー、やっぱりユイナちゃんは俺の意図に気がついてたんだ。ヤマダと違って、ホント使えるな。
「え?」
「私も長谷川さんも、彩葉をからかってただけ」
ユイナちゃんがそう言うと、彩葉はポカンとした表情で俺を見た。
「…私…お化け屋敷に入らなくてもいいの?」
「いいよ」
「…りっちゃんはユイナと行かないの?」
「行かないよ?」
それを聞いた彩葉は安心した顔をすると、すぐに拗ねた顔になった。
「もうっ。私で遊ばないでよねっ」
それはユイナちゃんに向けられた言葉だった。
「だってっ、彩葉かわいいんだもんっ。照れたり困ったりしてさ。そんな姿、今まで見たことなかったから」
「だからって…」
2人はそんな感じで会話を重ねていた。
仲がいいんだな。
俺はそんな2人の姿を微笑ましく思った。




