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25 宝庫


 …彩葉からもらった名刺入れ…

 これのおかげで今日も頑張れそうだ。

 次に俺は財布を取り出した。それからメッセージカードを手に取ると眺めた。


 “りっちゃん、大好き”


 それを見ているだけで、とても幸せな気分になった。


「なぁ、長谷川。もうユイナちゃんに告白してもいいと思う?」

 

 知るか。


「協力してくれよ。俺もお前と彩葉ちゃんみたいになりたいんだよ」

「…俺たちみたいに?」

「そう。だってお前ら絵に描いたようにラブラブじゃん?」

「そう…見える?」

「見える見える。彩葉ちゃんもお前のことが“大好きです”って感じが伝わってくるし、お前はもう言わずもがな…だしさ」


 彩葉はそんな感じで俺を…


「俺もそうなりたい。だから協力しろよー」

「彩葉が俺のこと、好きなように見える?」


 本人からそうは聞いているけど、やっぱり俺視点以外からの情報は説得力がある。

 

「は?もしかしてお前、そんなこと気にしてたの?俺の師匠なのに?」

「いつ俺がお前の師匠になったんだよ」

「だって俺の理想をお前は掴んだから」

「理想…?」

「そっ。相思相愛。文句のつけどころがないほど、お前たちの関係が羨ましい」


 俺と彩葉は、少なくともヤマダにはそう見えてるのか?


 だったらすごく嬉しい。俺の独りよがりだと思っていたから…


「ってことでさ、今度4人でどっか行こうぜ」

「なんでだよ。2人で行ってこいよ」

「まぁ、聞いてくれよ。ユイナちゃんがお前たちのラブラブっぷりを見たらどう思うと思う?“ああ…私もあんなふうになりたいわぁ”なんて思うんじゃないか?」


 まぁ…言わんとすることはわかる。


「だから頼むよぉ。お前らが起爆装置になってくれ」

「はぁ…彩葉に聞いてみるよ」


 俺がそう言うと、ヤマダは小躍りをしていた。


 家に帰ると、早速ヤマダのことを彩葉に話した。


「それでさ、実際のところユイナちゃんはヤマダのことどう思ってるの?」

「んー…ユイナはね、元彼の浮気が原因で別れることになったの。だから今はヤマダさんのことを見極めている?期間なのかな」

「そっか。それで彩葉は4人で遊びに行くのはどう思う?」

「私は別にいいよ?」


 …じゃあ、ヤマダに付き合ってやるか。

 本当は人のことに構ってる暇ないんだけどな。


 それからいつも通り、ご飯を食べながらお互いに今日の出来事を報告し合い、その後はにゃんずたちと遊んだ。


 この日の夜、俺は夢を見た。


 あの日のことだ。


 電車事故の時のこと。


 あの日…俺は仕事が休みの日だったから、朝から彩葉のアパートを見張っていたんだ。

 この日は雨だった。

 彩葉がちゃんと、何事もなく無事に職場へと行くのを見届けたかった。でも彩葉は中々家から出てこなかった。もしかしたら具合でも悪いのだろうか…俺がそんな心配をしていると、おしゃれをした彩葉が出てきた。


 かわいい。仕事の時とは違う格好。


 俺はスマホを彩葉に向けると写真を撮った。


 雨の日だというのに、彩葉はどこか楽しそうに見えた。


 誰かと会うのだろうか。


 そんなことを考えながら、俺は少し離れた場所から彩葉を見つめていた。


 それだけで満たされていた。


 ちゃんと今日も会えた。


 それからバレないようにこっそりと後をつけ、同じ電車に乗った。


 窓の外を見てみると、稲妻が走っていた。さっきよりも雨は強くなり、季節外れのゲリラ豪雨のようになっていた。


 ──その時…


 電車に急ブレーキがかかり、車内は悲鳴であふれた。

 立っていた人たちは次々に凪倒れ、俺もそのうちのひとりだった。


 痛ってぇ…


 なんだ?なにが起きた?急ブレーキ?


 …彩葉は?彩葉は大丈夫か…?


 俺は急いで彩葉の姿を探した。


 いた…


 気を失ってる…?


 俺はすぐに駆け寄ると、彩葉の状態を確認した。


 大丈夫。息はある。


「大丈夫ですかっ?」

「…」

「お姉さんっ、大丈夫ですかっ?」

「…」


 彩葉は完全に意識を失っていた。


 待って…

 

 待ってくれよ…


 これからだったんだ。俺たちの物語はこれから始まる予定だったんだ。


 だめだよこんなの。お願い。目を覚まして。


「彩葉っ」


 …やっぱり反応がない。


 俺は彩葉のそばに座ると、そんな感じでずっと

声をかけ続けていた。


 どれくらいの時間、そうやって彩葉のそばにいただろう。しばらくすると、救急隊員が来た。俺は彩葉のことが心配で、咄嗟に自分は婚約者だと名乗り、病院まで付き添った。


 夢はそこで終わった。


「はぁ…はぁ…」


 俺は変な汗をかいていた。


 すぐに隣を確認する。


 彩葉はぐっすりと眠っていた。俺はそんな彩葉の頬にそっと指先を触れた。


 心臓がバクバクとしている。あの時の恐怖が甦る。彩葉を失うかもしれないという恐怖…


 俺はベッドから離れると、キッチンに向かい水を飲んだ。それから真っ暗なリビングのソファに座った。


 ああ…俺の中にはしっかりと、あの事故がトラウマとして植え付けられてるんだな…

 事故のショックというよりは、彩葉を失うのではないかという不安の方が大きかった。


 あの時の俺は病院に付き添い、彩葉の目覚めを待ちたかったが、緊急性がないことから、帰宅することを病院側から促された。だから彩葉が目を覚ましたら、すぐに連絡をしてもらうように伝えたんだ。

 俺は彩葉のカバンを持ち帰ると、まずは中身を確認した。財布だ…。すぐに中を見てみると、免許証を見つけた。


 “山口彩葉”…


「苗字は山口っていうんだ…」


 名前はすでに知っていた。


 それは以前、サキちゃんと彩葉が飲んでいる居酒屋に俺もいたからだ。2人の近くの席を確保し、会話を盗み聞きしていた時に彩葉の名前を知った。


 “いろは”っていうんだ。どんな漢字なんだろう。俺はその時そんなことを考えていた。

 

 それからもカバンの中身を確認していると、上品なレースで縁取られている薄いグレーのハンドタオル、くすみがかった水色のポーチなどが出てきた。女性らしい。そういう印象を抱いた。…かと思えば、キャラクター物のポーチもあり、なんだかそれが彩葉らしかった。それからスマホ…。


 俺はスマホを手にとると、その液晶を眺めていた。暗証番号はすでに知っていた。

 以前、マスクをした彩葉は、顔認証が上手くできなかったようで、パスコードを入力していた。俺はそれを盗み見ていたんだ。それを入力すると、簡単に中身を見ることができた。

 

 まずメッセージアプリを開き、彩葉の交友関係について調べた。


 “タツヤ”…?


 こいつとは頻繁にメッセージのやり取りや通話をしてんな。


 あとは“サキ”。この子は知ってる。前に彩葉が飲みに行っていた子だ。


 それからSNS…


 ここは俺が知りたいことの宝庫だった。


 彩葉には…裏アカがあった…。


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