21 小細工
今日は彩葉と買い物にきていた。
なにかないか…もっとお揃いにできるもの。
俺は彩葉に、俺たちが恋人同士であることを強く認識して欲しくて、前回もお揃いのものを買った。あの時はほんの2〜3点買えばいいかな、と思っていたけど、途中から楽しくなってついつい買いすぎちゃったんだよな。
でも今日、せっかく買い物に来たんだし、またなにかお揃いのものを増やしたいな。なにがいいかな…持ち歩くものとかもいいな。
キーケース?ポーチ?は俺使わないしな。あ、お揃いのリュックとか?それか形は違くても同じブランドのものとか…
「りっちゃんっ」
雑貨屋で何かを真剣に見ている彩葉が俺を呼んだ。近づいてみると、そこには小さな猫のキーチェーンがずらりと並んでいた。猫はリアルなものではなく、デフォルメされたものだ。
「これ見てっ」
彩葉の手にはきなこと同じ柄の茶トラの猫と、杏と同じ白猫のキーチェーンがあった。
「きなこと杏っ」
うわぁ…彩葉めっちゃ嬉しそう。かわいい…
「…でもりっちゃんはこんなの付けないか…」
え…?俺?
「なんで俺?」
「せっかくだから、お揃いにしたいなって。だってきなこと杏だよ?」
あー…
かわいすぎる…
冗談抜きで鼻血が出そうだ。彩葉の中にも“お揃い”が“自然”になってるだ。そう思うと嬉しくて仕方なかった。
「…なんでニヤニヤしてるの?」
…つい顔に出ちゃったか…。
「いいよ。それお揃いで買おうか」
「じゃあちょっと待ってて?私買ってくる」
「いやいいよ、俺が──」
彩葉は俺の返事をろくに聞きもせず、レジへと向かった。買い終わるとすぐに俺のところに戻り、小さい袋を渡してくれた。その袋には、申し訳程度に小さいリボンが付いていた。
わざわざプレゼント用にしてくれたのか…。
「くれるの?」
「うんっ。でもりっちゃんこんなの付けないよね?」
「付けるよ。キーケースに付けようかな」
「ホントっ?嬉しいっ」
彩葉からの初めてのプレゼント…
この袋は捨てずにちゃんと取っておこう。
「はぁ…」
俺は胸がいっぱいで、ついついため息がこぼれてしまった。
「…ごめん。やっぱりこんなのいらないよね…」
「違うよ。今のは幸せのため息」
「たかがキーチェーンだよ?おおげさすぎ」
「たかがじゃない。たった今、俺の宝物になった」
「おおげさだってば」
彩葉は呆れながらも楽しそうに笑っていた。
それからお揃いの部屋着をまた買い、形は違うけど、同じブランドのリュックも買った。キーケースも欲しいな。でも彩葉はキーケースはいらないと言っていた。鍵はひとつしかないからと。
「彩葉見て?これもキーケース」
「小銭入れじゃないの?」
「車のスマートキーが入るようになってるんだよ?だから彩葉はさ、ここにリップ入れたり、なんかの時のために、数千円入れておいたりしたらいいんじゃない?こんな感じでポケットも付いてるのもあるし」
「なるほど」
どうやら俺のプレゼンは成功したようだった。
そのあとは2人で色々手に取りながら選び、彩葉が気に入ったものを色違いで購入した。
家に帰ると、俺はすぐに彩葉からのもらったにゃんずのキーチェーンを買ったばかりのキーケースに付けた。
ふふっ。かわいい。大事にしようっと。
別の休みの日、俺は先に起きて、彩葉の寝顔を見ていた。そうやってみていると、初めて深いキスをした時のことを思い出した。
確かあの時もこうやって、彩葉の寝顔を眺めていたんだよな。あの時はまだ、俺がソファで寝てた時のこと。職場の飲み会で酔って帰ってきたんだよな。
夜中に目が覚めて、こっそりと寝室を覗くと、彩葉のかわいい寝息が聞こえてきたんだ。
それで我慢ができなくなって、そっと…彩葉が眠るベッドに潜り込んだ。
言い訳はもう考えていた。
“寝ぼけてた”とでも言おう。酒も飲んでたし、説得力もあるだろう。
朝になり、隣を見てみると、彩葉はこちらを向き、まだ寝ていた。だからその寝顔をじっくりと見ていた。しばらくすると、彩葉のスマホのアラームが鳴ったから、俺はすぐに目を閉じ寝たふりをした。
そうしたら…
彩葉の手が、俺の頬に優しく触れた。
その瞬間、俺の心臓が跳ねたんだ。
初めて彩葉から触れてきたから。
だから…
我慢ができなかった。俺は目を開け、寝ぼけたフリをして彩葉にキスをした。彩葉からしたら2回目のキス。
俺からしたら…
5回目のキス。
でも深いキスをしたのはこの時が初めてだった。
でも今では、そんな小細工なんてしなくても、いつでも彩葉にキスができる。“酔ったフリ”も“寝ぼけたフリ”も、もう必要ない。
俺は目の前で気持ちよさそうにして眠る彩葉を見ながら、そんなことを思い出していた。
本当にかわいい…
彩葉の顔にかかる前髪を避けながら、アラームが鳴るまでずっと見ていた。
「なぁ、聞いてくれよ長谷川」
「なんだよ。俺は今忙しいんだよ」
「…彩葉ちゃんと猫の写真見てるだけじゃん」
「だから忙しいんだよ。それくらいわかるだろ」
「…お前…めっちゃ愛妻家だなっ」
「何を今さら、そんな当たり前のことを」
「ねぇ、俺にも優しくしてってば。なんで彩葉ちゃんにはあんなに優しいのに、俺には優しくしないんだよ」
「ちゃんとユイナちゃんを紹介しただろ?」
ヤマダはなんでこんなに、俺に懐いてしまったんだろう。
「そうそうっ。その話がしたかったんだ。今度2人で遊ぶことになったんだけどさぁ、どこに行ったらいいと思う?」
それは彩葉経由で聞いていた。
「お前何歳だよ。それくらい自分で考えろ。それか2人で相談しろ」
「いや、年上だからさ?やっぱリードしたいじゃん?」
「スマホで調べれば山のように情報が出てくるだろ」
「参考までに、お前たちはどこ行ったの?」
……。
「水族館」
「じゃあ俺も水族館を提案してみようっと」
ヤマダは浮かれていた。
…まぁ…上手くいくといいな、ヤマダも。
仕事が終わり、最寄り駅の改札を出ると彩葉が待っていた。
「もう、迎えにくるなら教えてくれればいいのに」
「ふふっ。びっくりさせたくて」
「…スマホは?」
「え?」
「スマホ持ってないんじゃない?」
「…あ…なんでわかったの?」
「そのワンピース、ポケットついてないし、カバンもなし。手にはキーケースだけ」
「はははっ。探偵さんみたいっ」
彩葉は無邪気に笑っていた。
「笑い事じゃありません。もしも何かあったら──」
「ごめんって。怒らないで?」
…かわいい…
彩葉は俺の顔を覗き込みながらそう言ってきた。
「ちゃんとわかったの?」
「はい。わかりました」
「ならよし」
俺は彩葉の手を握ると、歩きだした。
「今日のご飯はなに?」
「ビビンバっ」
「おっ、いいね。楽しみだな」
「先にシャワーする?」
「彩葉にする」
俺は彩葉の顔を見ながらそう言った。街灯の明かりだけでは、彩葉の耳が赤くなっているのかはわからないけど、その表情は照れていた。
やっぱ彩葉はこういう系の会話には未だに照れてしまう。
本当にかわいいな。もう食べてしまいたい。
「彩葉?」
「もうっ。そういう冗談やめてよ…」
「本気なんだけどな」
「もう…からかわないで…」
あー…もうホントにかわいい。
「それよりにゃんずがね?──」
話題を変えられてしまった。
まあ、いいか。
家に着き、一緒にご飯を食べていると、彩葉が遠慮がちに口を開いた。
「あのね、ここの海で花火大会があるんだけど、ちょうどりっちゃんの休みの日なんだ」
「行きたいの?」
「いい?」
そんなのいいに決まってる。彩葉の行きたいのところなら、どこにだって連れて行きたい。
「もちろんいいよ」
「ありがとう」
「浴衣着て行こうか」
「私持ってない」
「そしたら今度の休みに買いに行こう?」
「うんっ」
この笑顔のためなら、俺はなんだってするよ。




