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16 なんてことのない日々


 にゃんずたちが日に日に大きくなり、お留守番の練習として、りっちゃんが休みの日に、数時間のお出かけをすることにした。


「にゃんずたち、いたずらしないでお留守番できるかな?」

「あ…りっちゃん、箱ティッシュ…」

「あー…隠し忘れたな…」

「大丈夫かな?」

「おもちゃもちゃんと置いてきたし、大丈夫じゃないかな?」


 少し心配しながらも、私たちはショッピングビルへと向かった。洋服だったり、日用雑貨だったり、色々なお店を見て回った。


 平日なのにビル内はほどほどに賑わい、幼い子や赤ちゃんを抱っこしたした人、大学生らしき年代の子が買い物を楽しんでいた。


「ねぇ彩葉、部屋着お揃いにしない?」

「お揃いに?」

「そ。お揃い」


 なんかそれって、すごくカップルっぽい。


「いいね。どんなのにしようか」


 私たちは色々と見て決めた。

 

 それからもりっちゃんはお揃いのマグカップ、お揃いのグラス、お揃いのスリッパ、お揃いのスニーカーやキャップ。色違いのTシャツなんかも次々に購入していた。


「りっちゃん買すぎだよ」

「ん?んー…」


 りっちゃんは自分の手に持っている数々の袋を見ていた。


「やっちゃったね。楽しくてつい」

「ははっ。一気にお揃いだらけになったね」


 私は時間を確認した。そろそろ帰った方がいいな。私はそう思い、りっちゃんに声をかけた。


「そうだね。そろそろ帰ろうか。あ、今日はご飯買って帰ろう?さっき美味しそうなもの、色々あったから」

「うん、そうだね。それ買ってから帰ろっか」

「ねぇ彩葉、俺両手が塞がってるから俺の腕掴んでて」

「え?」

「手がつなげないから」

「だったら私が半分持つよ。そうしたら手つなげるでしょ?」


 私がそう言うと、りっちゃんは立ち止まった。


「…またそんなかわいいこと言っちゃって…」

「え?なに?」

「もう…かわいいことばっか言わないでよ」

「言ってないよ」

「言ってんの。とにかく荷物は俺が持つから、彩葉は俺の腕掴んでて」


 あれ…?りっちゃんってこんなにかわいい人なんだ。

 広い心で記憶喪失の私を受け入れ、支え、いつも優しくて、心配もしてくれて、気遣ってくれて…ずっと大人だなって思ってた。

 でもりっちゃんは冗談も言うようになったし、今みたいに少し拗ねるような態度もするようになった。照れたりもしていた。

 今まで完璧に見えていたりっちゃんが、すごく身近に感じるようになっていた。


 家に帰ると、私たち2人は唖然とした。


「やられたな…」

「やられたね…」


 部屋の中はティッシュが散乱していた。


「おうおう。随分とお楽しみだったようだな」


 りっちゃんはにゃんずたちに話しかけていた。


「まぁ、俺らがちゃんと隠さなかったからいけないんだけどね」

「そうだね。今度から気をつけないと」


 私たちはそんな会話をしながら、2人でティッシュを片付けていた。



 季節は移り変わり、暖かくなってきた。

 にゃんずたちはお留守番なんかへっちゃらなようで、私たちは遊びに行くことが少しずつ増えていった。


 “前にここでデートしたんだよ”

 “今度はここに行こうねって話してたんだよ”

 “ここは今日で3度目なんだ”

 “あそこのカフェでよく休憩してたんだよ”


 そんなことを教えてもらいながら、りっちゃんとお出かけをすることが増えた。


 りっちゃんは少し懐かしむような目をしながら私との思い出話を聞かせてくれた。


 今日もりっちゃんとお出かけをしていた。

 今日は水族館だった。


「ここは初めて2人で遊びに来た水族館だよ」


 …初デートか…。


 それを聞いて、なんだかくすぐったいような気持ちになった。


「緊張した?」

「しないよ。その前にたくさんご飯行ったり飲みに行ったりしてたからね、仕事終わりに」

「そっか。前にそう言ってたね」

「でもね、すごく楽しみだった」


 こんな感じで、りっちゃんは当時のことを教えてくれた。


 私…いい人と巡り会えたんだな…



 りっちゃんが仕事中に、私はサキと通話していた。


『んでんで?りっちゃんとはどうなのよ。あ、記憶は?体もなんともない?』


 サキは食い気味に色々聞いてきた。

 私はまず、自分の体のことや記憶のことを伝えた。


『それで?りっちゃんとは?』

「それはこまめにメッセージで報告してるでしょ?もう別に話すことないよー」

『そうだけどさぁ、文字と口頭ではやっぱり違うじゃん?こう…話してもらうと、彩葉の声色とかで、なんか色々想像できるっていうか』

「んー…この前水族館行った」

『いいなぁ。どこの?』


 私は説明した。


『あんたまたあそこ行ったの?1年前に私とも行ったんだよー?まぁ何回でも行けるけどね』

「そうだったの?ごめんね、覚えてなくて」

『いーのいーの。彩葉が幸せそうだから』


 このあとも、私はりっちゃんの話をしていたら、サキは“ふぅぅう”や“ひゃあ”などのリアクションをしながら、楽しそうにしていた。


『なんかもう、聞いてるこっちがはずかしくなる』

「なんでよ」

『だってだって、彩葉が押し倒したら“俺の相手もして?”って言ってきたんでしょー?やだもーっ』

「はははっ。ちょっと落ち着いてよ」

『しかもその後もたまらんっ』


 この話をサキにしたのは初めてだった。

 私はその時のことを思い出し、またドキドキとしてきてしまった。


『今度また飲も?あんたが恋をしてる顔が見てみたい。』

「飲むのはいいけど、からかわないでね?」

『んふふぅ』


 サキはそうやって笑うだけで、約束はしてくれなかった。


 りっちゃんが帰ってくると、キッチンに立つ私を後ろから抱きしめてきた。


「彩葉ー、疲れたよー。今日は忙しかったぁ」

「お疲れ様。大変だったね」

「うん。大変だった」

「もうすぐでご飯できるから、待ってて?それとも先にシャワーしてくる?」

「…彩葉がいいって言ったらどうする?」


 それを聞いてドキッとしてしまった。

 たまにりっちゃんはこういうことを、真面目なトーンで言ってくる。


「ははっ。耳が赤くなった。彩葉はデザートにとっておこうっと。先にシャワー浴びてくるね」


 私はこういうのに慣れてない。

 だからどう反応すればいいのかわからない。

 世のカップルたちは、みんなこんな感じなの?それとも恋人同士になってから、まだそんなに経ってないから?

 でもりっちゃんからしたら、2年以上の付き合いになるんだよね?

 今度また、サキに聞いてみよう。あとタツヤにも聞いてみよう。男の意見も聞いてみたい。


 一緒にご飯を食べている時に、私はバイトのことを話題にした。


「今日ね、近所のカフェでアルバイトの募集をしてるの見かけて」

「…うん。それで?」

「応募してみようと思ったんだけど、どうかな?にゃんずたちもお留守番できるし」


 私がそう言うと、りっちゃんはスープを飲んだ。それからおかずを口に運び、次にご飯を口に運んだ。

 そんなにお腹減ってたのかな?


「週に何日くらい働きたいの?」

「んー4日くらい?」

「2〜3日じゃだめ?俺はまだ、にゃんずたちのこと心配」

「…そっか。そこは最低でも週4日ってなってたから…」

「家にいるの退屈?」

「ううん。でも、自分で稼いだお金で、りっちゃんにプレゼントとか買いたいし」


 私がそう言うと、りっちゃんは飲んでいたお茶を吹き出しそうになっていた。


「もう…俺を殺さないで…」


 そう言いながらりっちゃんは、テーブルの端に、項垂れるようにしておでこをつけていた。


「なんでそうなるの」

「鼻血でる」

「別に普通のこと言ってるんだよ?」


 ここでりっちゃんは起き上がった。


「俺はなにもいらない。欲しいものはもうたくさんもらってる」

「…?なにもあげてないよ?」

「もらってる。だからいらない」

「…よくわかんない」

「とりあえず、もう少しにゃんずたちのそばにいてあげて?」

「わかった」

「彩葉って何か趣味はある?」

「とくには…」

「じゃあ家でできる趣味でも見つけてみれば?」

「それもそうだね」


 趣味か…家でできること…

 この前100円ショップに行った時、レジンやら羊毛フェルトなんかが色々あったけど、私がそれらをやっても、きっとゴミしか生み出さないんだろうな。

 

 ご飯を食べ終わると、2人でにゃんずたちと遊んだ。

 私は心の中で、にゃんずたちに話しかけた。

 

 君たちは幸せ者だね。飼い主が、君たちのことを心配して、私に家にいて欲しいんだって。大事にされてるね。

 ご飯も色んな種類がうちにはあるんだよ?君たちが飽きないようにって。


 私はふと視線を感じ、目線を上げた。

 りっちゃんが私のことを見ていた。


「なに?」

「尊い」

「…」

「かわいい人が、かわいいにゃんこと遊んでる姿、尊い」

「もーいいってそういうの」

「俺の相手もしろーっ」


 りっちゃんは笑いながらそう言うと、床に座っている私の背中に抱きついた。


「ちょっと重いよー」

「あははっ」

「“あはは”じゃなくてっ」


 私も笑いながら、そんなことを言っていた。


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